「旅×コーヒー」で地域の魅力を表現したい。楢葉町で実現するオリジナルの生き方
- 移住したきっかけ
先輩移住者との出会い - 移住を決める時の条件
1.寝泊まりができる場所があること、2.最低限の仕事があること、3.挑戦できる環境があること - この地域で挑戦したいこと
地域の魅力をコーヒーで表現する「旅するブレンドコーヒー」を作りたい
秋田県出身の深澤諒さんは、大学時代に世界中を旅して回り、価値観に変化があったといいます。目指していた教員ではなく、自分の可能性を広げたいという思いから福島県西部、会津地方に位置する三島町で地域おこし協力隊に着任しました。そこでコーヒーの魅力に触れたことがきっかけで、自分の好きなことで起業しようと決意。現在は、楢葉町の「シェアハウスと食堂 kashiwaya」で住み込みスタッフとして働きながら、起業に向けて準備中です。そんな深澤さんに、楢葉町に移住するまでの経緯やチャレンジしたいことをうかがいました。
旅で変わった人生観とコーヒーとの出会い
――深澤さんは学生時代から旅が好きだったとか。旅は人生にどんな影響を与えましたか?
旅好きになったのは、子どものころにアウトドア好きな両親が各地に連れ出してくれた影響です。中学時代には自転車で秋田県を周り、高校時代には友人と電車で日本一周、大学時代には世界一周の旅に出て、さまざまな景色を見てきました。
なかでも印象的だったのは、大学生の頃に初めて行った海外。吸い込む空気、見える景色、すべてが新鮮で、世界一周を終えたころには、ものの見え方がガラリと変わっていました。高校の生物の教員免許を取得しましたが、世界を見たことで視野が広がって、自分のやりたいことを学校の先生だけに絞らなくてもいいのではと考えるようになりました。もっと選択肢を広げてみたくなったんです。
――三島町の地域おこし協力隊員にはどのような経緯でなられたのですか?
大学卒業後の就職先は決まっていたのですが、その矢先に新型コロナウイルス感染症が流行してあっという間に世の中が変わってしまいました。卒業式もなくなり見通しの立たない状況の中、企業側の都合で内定も取り消しになってしまったんです。
4月に入って改めて就活をはじめましたが、面接しようにも新型コロナの影響もあり現地まで行けずニートのような状態で。あの時はさすがに落ち込みましたね。でも、最終的には複数の内定をいただくことができて、その中で一番興味のあった観光PRに関わることができる三島町の地域おこし協力隊の仕事を選びました。
――三島町ではコーヒーの魅力にハマったそうですね。
三島町でゲストハウスを運営するオーナーとの出会いから世界が広がりました。そこでは自家焙煎をしたスペシャルティコーヒーを提供していて、オーナーと仕事でご一緒させていただくなかで、コーヒーの奥深さを教えてもらいました。
それから焙煎所に通わせてもらうようになり、一人で焙煎できるようになり、いろんな豆に挑戦したくなりました。最終的には誰かに振舞いたくなって、細々とですがイベントで出店するようにもなったんです。
そんな活動を続けていくうちに、コーヒーの道でやっていきたいという想いが膨らんでいきました。
挑戦するために楢葉町へ移住
――三島町から楢葉町に移住したきっかけを教えてください。
協力隊として三島町の観光PRの仕事はしていたものの、地域で自分が何かアクションをすることに難しさを感じていました。そんな時、知人のつながりで浜通りに来る機会があり、紹介していただいたのが「シェアハウスと食堂 kashiwaya(以下:kashiwaya)」店主の古谷かおりさんでした。まだシェアハウスは構想の段階でしたが、「見に来る?」と言ってもらえて、はじめて建物の中に入った時に、すごくワクワクしたことを覚えています。
それから何度か浜通りに通うようになり仕事の相談もさせてもらっていたら、かおりさんが「シェアハウスに住みながらkashiwayaを手伝って、空いた時間で好きなことに挑戦してみたら?」と声をかけてくれたんです。
僕は旅好きだから行動力があると思われますが、実はすごくビビりなんです。だから、移住は3つの条件がクリアしたら動こうと考えていました。1つ目は最低限寝泊まりできる場所があること、2つ目はご飯代を稼げる仕事があること、3つ目は挑戦できる環境があることです。この3つの条件をクリアできる願ってもいない環境を与えてもらい、移住を決心できました。
――現在はどのようなライフスタイルでお仕事をしているのでしょうか。
平日はkashiwayaのスタッフとして、15時頃から出勤しています。庭の掃除からイベント企画、『kashiwaya通信』という情報紙の制作まで、さまざまなことに挑戦させてもらっています。
食堂部分は「おうち食堂kashiwaya」として店舗営業をしていて、夜はカウンターに立って食事を提供しながら、地域の人たちと交流させてもらっています。いろいろなつながりも作れるので、完全に役得ですね(笑)。
週末には、大熊町や浪江町など近隣の町でイベント出店をしたり、月に1回は「kashiwaya」の食堂を間借りしてカフェイベントも開催しています。
――すごく充実していますね!シェアハウスの住み心地はいかがですか?
マイナスなところが見当たらないくらい心地いいです。
今は20代から60代の方が住んでいます。夜の食堂の営業が終わってから2階へ上がると誰かしら共有スペースにいるので、少しお喋りをして、「おやすみー」と言って自室へ戻るのが毎日のルーティンです。暮らしの中に誰かの気配があるって、実は安心できるんですよね。
「旅するブレンドコーヒー」で地域の魅力を発信したい
――これからコーヒーを軸にどんな挑戦をしようと考えていますか?
ありがたいことに地域の方から「コーヒーの人」と認識してもらえるようになり、週末はほぼイベント出店の予定で埋まるようになりました。コーヒー豆も買っていただけるようになり、仕事の合間をみては三島町に戻って焙煎しています。でも、車で往復8時間はさすがに厳しくなってきて……。次のステップでは、いよいよ資金を投入して浜通りに自分の焙煎所を持ちたいと考えています。
――焙煎所ができたら活動の幅も広がりますね!
コーヒーは「表現のツール」だと思っていて、旅好きな僕の個性を掛け合わせたらもっと面白いことができるんじゃないかと考えているところです。例えば、楢葉町を歩いて、さまざまな人と出会って、風景を見て感じて。その経験を『ナラハブレンド』として落とし込めたら、コーヒーを通して「地域」の魅力を伝えることができます。
でも、コーヒーを提供するだけだと「おいしい」で終わってしまうから、地域で感じた魅力をポストカードに描いて、豆とセットで販売したらいいんじゃないかと考えています。お土産として買ってもらえたら、自宅でコーヒーを味わいながらポストカードを眺めて、楢葉町を感じたり、思い出してもらえたりするきっかけをつくることができるかもしれません。
実はこのアイデアは、僕が世界一周中に書いた「旅日記」を見てひらめきました。
将来的には福島県浜通り地方にある13の市町村それぞれの特徴をコーヒーで表現して、13種類の「旅するブレンドコーヒー」を作ることが今の目標です。
――楽しみにしています!最後に、この町へ移住を考えている人へメッセージをお願いします。
この町には、挑戦したい人を応援する土台があると思います。年齢・性別関係なくつながれるコミュニティもあって、相談できたり、活動を後押ししてもらったりしています。
もちろん、挑戦したい人だけでなく、旅をしたい人にふらっと町を歩いてもらうのもうれしいです。海沿いをドライブするのも気持ちがいいし、カフェやケーキ屋さんだってあります。そして、なんといっても面白い人がたくさんいます。そんな人たちにぜひ会いに来てください。
深澤 諒(ふかさわ りょう) さん
1996年生まれ。秋田県出身。秋田県立大学生物環境科学科に進学し、高校理科(生物)の教員免許を取得。卒業後は福島県三島町の地域おこし協力隊となり観光PRに従事。2022年に楢葉町に移住し「シェアハウスと食堂 kashiwaya」のスタッフとして働きながら、週末はコーヒーのポップアップショップを開いてイベントを中心に活動中。月に1回、kashiwayaの食堂でカフェ「awai」をオープンしている。
※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:奥村サヤ