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子どもも大人も楽しめる。だからやさしくなれる。「親子でわくわくつながる場」が考える子育て支援とは

2026年1月15日

ふくしま12市町村移住支援センターでは今年度から、福島12市町村への移住者と地元住民の交流の場をつくる取り組みを始めました。移住者が地域とつながり、安心して暮らし続けられるよう支援する「福島12市町村つながりづくり支援事業」です。

今年度の事業では、子育てと起業をテーマに、3つの事業者が福島12市町村内各地で交流会を開催しています。この記事では、子育てをテーマにした交流会「親子でわくわくつながる場」の様子をレポートします。

子どもには子どもの、大人には大人の楽しさを用意

「親子でわくわくつながる場」は2025年9月に南相馬市小高区で第1回が開催され、その後はおよそ月1回のペースで、2026年2月まで全7回開催されます。取材にお邪魔したのは、11月30日に開催された第3回のイベントです。
この日の会場は、楢葉町の地域活動拠点施設「まざらっせ」。2023年4月、地域と移住者が協力してこれからの楢葉町を生み出すための舞台としてオープンした施設です。建物に入ってすぐ左手に移住相談窓口があるほか、イベントに使えるホールやフリースペース、キッチンなどで構成されています。

この日参加したのは12組の親子。その約半数が移住者です。まずは午前10時、全員がひとつの部屋に集まり、イベントを運営する株式会社dreamLab代表の小川智美さんとヨガインストラクターの藁谷(わらがい)弘子さん(Re.yoga Lotus代表)からイベントの説明を受けます。その後、大人はヨガ&アーユルヴェーダに、子ども達は宝探し謎解きアドベンチャーと題されたプログラムに参加するため、別々の部屋で準備に入りました。

小川智美さん
藁谷弘子さん

子ども達のプログラムは小川さんの担当です。小川さんは福島県三春町出身。アメリカの大学を卒業後、結婚を機にいわき市に移住し、学習塾で約30年にわたって子ども達に英語を教えています。コロナ禍前は英語で過ごす学童クラブも運営していました。

子ども達は、被り物をまとった小川さんからルールの説明を受けたあと、用意された地図を頼りに、部屋のあちこちを巡って宝物を探します。仕事を通じて長く子ども達と関わってきた小川さんにとって、子ども達をその気にさせるのはお手の物。知らない同士で最初は緊張気味だった子ども達もすぐに打ち解け、明るい声が飛び交い始めます。

宝探しに参加できるのは5歳(幼稚園の年長組)から15歳(中学3年生)までの子ども達。5歳よりも小さい子ども達には託児スペースが設けられ、そこで保育士と一緒におもちゃで遊びながら過ごすことができます。

お父さん・お母さんではなく、個の自分になれる時間を作る

子ども達が遊びに夢中になり始めた頃、大人達はヨガの準備を始めていました。講師の藁谷さんは出身地のいわき市でヨガスクールを運営しながら、東日本大震災後は南相馬市小高区のお寺でも月1回のヨガ教室を開いてきました。

今回のイベントで藁谷さんが指導するヨガは、決してハードルの高い内容ではありません。心を落ち着けながら体のバランスをゆるやかに整える、初心者でも安心して参加できるプログラム。かすかに聞こえてくる子ども達の元気な声に癒されながら、ゆったりとした時間を過ごします。

子どもは子どもの、大人は大人の楽しみ方で過ごす「親子でわくわくつながる場」。そのプログラムの意図を藁谷さんはこう話します。

「親が疲弊していると、子どももその影響を受けてしまいます。でも子育て世代の方は、息抜きに出かけたいと思ってもその時間を確保するのは難しいですし、自分のために時間を使うなんて…と考えてしまって家族に言い出せないことも多いはずです。だからこのイベントは、子ども達が遊んでいる時間を有意義に使ってもらえるよう、親と子どもでプログラムを完全に分けているんです」

小川さんもこう続けます。

「大人達が、“誰々ちゃんのお父さん・お母さん”ではなく、個の自分になれる時間を作ること。これも子育て支援のひとつの形だと思います。子どもの世話は私がやるからね!と手を挙げるようなイメージで大人のために心地よい環境を提供するのが、ここでの私たちの役割。それができたらこのイベントは大成功です」

3時間の自分時間で大人の表情も明るく

楽しい宝探しでたくさん体を動かした子ども達。待っていたのはお待ちかねのお昼ご飯です。宝探しの最後に自分達で作ったおにぎり。それに加えて、この日は温かい豚汁も振る舞われました。元気に「いただきます」をしたあと、それぞれにおにぎりを頬張ります。

その頃、大人達はキッチンのあるスペースに移動。アーユルヴェーダにおいて生命力を養う滋養剤とされる「ギー」の作り方を藁谷さんから教わっていました。

アーユルヴェーダは、食事や生活リズム、睡眠、思考や感情を整えることで自らの体を本来の状態に戻そうという、インド発祥の伝統医学であり生命科学。ギーは無塩バターを煮詰めて水分や乳固形分を取り除いた油で、食用としてはもちろん、体の老廃物を排出しやすくしたり、目や皮膚を乾燥から守ったりする作用があるとされています。みな興味津々で藁谷さんのギー作りを見ていました。

ギー作りがちょうど終わった頃、子ども達のランチタイムも終了。約3時間ぶりに親子が合流しました。子ども達は皆、何をして遊んだか、何が楽しかったかを口々に報告します。それを聞くお父さん・お母さん達の表情は、心なしか朝よりも明るく晴れやかに見えました。

家庭や職場とは違う出会いを見つけに来てほしい

小川さんは、移住者が地域のなかで新しい関係を作っていくことの大切さについて、こう話します。

「関係が近過ぎるから話せないことってありますよね。悩みがあって、それをアウトプットしたい。だけど家庭や職場では話せない。それって子育てのなかでもきっとあると思うんです。でも、こういう場で出会った仲間なら悩みを打ち明け合えるかもしれない。そんな出会いを見つけることが、定住につながっていくのではないかと思います」

藁谷さんは、南相馬市小高区のヨガ教室を通じて地元の人々と移住者のつながりづくりにも関わってきました。今回のイベントでは、その経験も役に立っていると言います。

「ただお茶を出して“さあどんどん話しましょう”と言われても、なかなか話せませんよね。でも、ヨガで少し体をほぐして、心がリラックスすると、皆さんポツリポツリと話し始めるんです。そのなかから、日常の暮らしのなかでも互いに協力し合ったり、手伝って欲しいときに気軽に“手伝って”と言ったりできる関係が生まれる瞬間を何度も見てきました。きっかけさえあれば、皆さんのつながりの速さってすごい。こういうところから定住って広がっていくんじゃないかな」

この日も、参加した大人同士で「次回も一緒に参加しましょう」「今度ご飯を食べに行きましょう」などのやりとりが聞かれました。ひとつのイベントをきっかけに、またあたらしい交流や定住への道筋が開かれた、そんな瞬間でした。

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■令和7年度福島12市町村つながり支援事業『親子でわくわくつながる場』の今後の予定
第5回 2026年1月17日(土) 会場:地域活動拠点施設「まざらっせ」(楢葉町)
第6回 2026年2月7日(土) 会場:小高区復興拠点施設「小高交流センター」(南相馬市小高区)
第7回 2026年2月15日(日) 会場:地域活動拠点施設「まざらっせ」(楢葉町)
参加費:無料
定員:大人プログラム20名程度、子どもプログラム15名程度
対象となる方:12市町村在住の方 ※田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、双葉町、川内村、大熊町、浪江町、葛尾村、飯舘村
お申込み:親子でわくわくつながる場のウェブサイトからお申込みください

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※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩