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【イベントレポート】「未来の農業を語るin浪江2022」

2023年3月18日
浪江町
  • 体験ツアー
  • 移住支援金
  • 農林漁業

2022年11月26日(土)から27日(日)にかけて、「株式会社マイファーム」が運営するツアー「未来の農業を語るin浪江2022」が開催されました。

このツアーは、浪江町の実施する「多様な農業の移住潜在層支援事業」の一環として行われたもので、就農に関心のある域外の社会人を対象とした、浪江町の農業ビジネスに関わるきっかけの場作りを目指しています。マイファームは2022年度事業を浪江町から受託し、ツアーのコーディネートや、浪江町での新たな営農モデル構築に向けた移住・就農ニーズの調査などを行っています。

この記事では、2日間のツアーの様子をご紹介しながら、浪江町の農業の振興に取り組むさまざまな事業者の活動をご紹介します。

■株式会社マイファーム
「自産自消」=「自分で作って自分で食べる」ことができる社会の実現を目指し、体験農園や農業学校の運営、農産物の生産・流通販売事業のほか、新たな営農モデルを追求する研究開発事業、コンサルティング事業、国や自治体と連携した農業政策の支援、研修・各種セミナーなど、さまざまな事業を展開。
https://myfarm.co.jp/

今回のツアーには、マイファームが運営する社会人向けの農業スクール「アグリイノベーション大学校」の受講生を中心に15名が参加。東京で会社員をしながら地方での就農を目指している人や、福島県や浪江町にルーツを持つ人など、さまざまなバックグラウンドを持った参加者が集いました。

そして、地域活性化活動を行う「合同会社SOZO」の代表・吉岡隆幸さん同行のもと、1日目は浪江町の農業事業者を訪問してそれぞれの取り組みや課題、今後のビジョンなどをヒアリングし、2日目はその内容をもとに浪江町の農業を展開させるビジネスモデルを考えるワークショップを行いました。

1日目

水稲農家「合同会社アンベファーム」訪問

町内の水稲農家を訪問

浪江町は山、川、海がそろう豊かな自然に恵まれた地域です。温暖な気候から農業の適地とされ、町内外の農業事業者が多様な農作物の栽培に取り組んでいます。そのなかでも米は、浪江町の農業産出額の約4割を占める主要農産物です。

まずは水稲事業を展開する「合同会社アンベファーム」を訪ね、現在の取り組みや課題についてうかがいました。この日対応してくださった代表の安部正之さんは、異業種から転職して実家の農業を受け継ぐ形で就農されたのだそうで、「農業を続けていくには栽培技術だけではなく、その年の気候条件等に合わせて営農計画を立てる柔軟性と、この地の田んぼを末永く守っていく覚悟と情熱が必要です」というメッセージをいただきました。

「恒栄電設株式会社」の花卉(かき)栽培施設見学

浪江町は、震災からの産業復興を目指して新たに花卉栽培に力を入れており、特に浪江産の「トルコギキョウ」は市場で高い評価を得ています。

参加者は、IT技術を活用して農作物を自動管理するなどの新しい手法で花卉栽培を行う「恒栄電設株式会社」を訪問しました。「恒栄電設株式会社」は異業種から参入して花卉栽培に取り組んでいるそうで、農家で研修を受けてゼロから栽培技術を学んだことや、栽培施設の機械制御に本業の電気設備工事の技術が転用できることなどについての話がありました。

「浪江町いちじく生産組合」のイチジク畑見学

イチジク畑で実際の栽培の様子を見学

2018年から浪江町で新たに始まったのが、イチジクの栽培です。「浪江町の新しい名産品を作ろう!」という志を同じくする農家が「浪江町いちじく生産組合」を設立し、イチからノウハウを学び、およそ3年かけてようやく初出荷に至りました。今後はジャムをはじめとする加工食品の製造など、さまざまな事業展開を計画しています。

事業者からは「イチジクは希少性が高いため、他の農作物に比べて特産品として差別化しやすいという強みがありますが、鮮度が落ちるのが速いため販路の確立に悩んでいます」など、具体的な課題を共有していただきました。

アグリ・フードテック企業「株式会社バイオマスレジン福島」によるセミナー

1日目の最後に、参加者は「株式会社バイオマスレジン福島」の事業に関する説明を受けました。浪江町にある同社の工場では、主に非食用米とプラスチックなどを配合して作るバイオマスプラスチック「ライスレジン」を生産しています。ライスレジンを活用することでプラスチックの原料である石油の使用量を大幅に削減することができ、また、食用に適さない古米や米菓メーカーなどで発生する破砕米、飼料としても活用できずに廃棄されてしまう米を原料に使用することで、フードロス削減や農業問題にも貢献し、地域雇用にもつながると注目されています。

ライスレジン製のゴミ袋やおもちゃなど

この日、話をうかがった4組の事業者は、生産する農作物は異なるものの「この地の農業を守っていく」という強い使命感と責任感を持っているという共通点がありました。また、従来のやり方にこだわらない柔軟な姿勢からは、積極的にチャレンジしていくエネルギーが伝わってきました。

参加者のみなさんもそれぞれ関心を持ったポイントは異なるものの、単に農作物を育てるだけが農業ではなく、明確なビジョンを描いて常に新しい手法を考えながら営農していく必要があることなど、多くの学びがあったようでした。

2日目

穀物貯蔵施設「カントリーエレベーター」の見学

苅宿地区のカントリーエレベーターを見学

2日目の最初に向かったのは、浪江町苅宿(かりやど)地区にあるカントリーエレベーターです。カントリーエレベーターとは、米や小麦をはじめとする穀物の乾燥、貯蔵、調製、出荷までを一貫して行うことができる乾燥調製貯蔵施設のこと。浪江町では、原発事故後の避難指示が長期化する中で、町内の多くの農家が乾燥機や農機具を手放しました。営農再開の支援策のひとつとして町が2021年に苅宿地区と棚塩地区に計2基のカントリーエレベーターを整備し、約600ha分の水稲の作付けに対応できるようにしたそうです。

「合同会社SOZO」によるセミナー/ワークショップ

セミナーの様子

その後、1日目から同行していただいている「合同会社SOZO」の代表・吉岡隆幸さんによるセミナーが開催されました。セミナーでは、「道の駅なみえ」で販売されている商品の中から吉岡さんが「面白い」と着目した商品をピックアップし、「なぜこの商品がすぐれているのか」を解説。「商品開発や事業展開をする際に、買う人がどんな気持ちで商品に手を伸ばすかまで考慮して商品開発に取り組むことが重要です」など、商品開発に必要な視点に関するレクチャーがありました。

見学で得た地域農業の可能性や課題などの学びを整理しながら自身のアイデアを具体化

セミナーを終えた参加者は、ツアーで得た学びを基に浪江町の農業を発展させる事業を考えるワークショップに取り組みました。配布されたシートに記入していく形で前日の振り返りを行い、それまでに得た農業に関する情報はもちろん、「空気がきれい」「水がおいしい」「人が温かい」など、参加者が感じた浪江町のよいところや課題もすべて書き出し、小さな「気付き」のピースから新しいアイデアを生み出していきます。

グループごとにアイデアを持ち寄り事業案を練り上げる

昼食後、ワークショップはさらに進み、参加者は「グリーンツーリズム」「市場・レストラン・直販」「商品開発」の3つのジャンルからテーマを1つ選び、自分のアイデアをさらに具体的に掘り下げていくことになりました。そして最後に4つのグループに分かれてそれぞれのアイデアをグループのメンバーに共有し、アイデアをブラッシュアップさせた上で、グループごとに新規事業案のプレゼンテーションを行いました。

一例として、商品開発のグループではイチジクを使ったワインの開発を提案。生果実での販売には向かない規格外品を用いることでフードロスの解消につながるとともに、生産者からの声で挙がっていた「イチジクは鮮度が落ちやすい」という課題も解決できるメリットがあります。また、福島バイオマスレジンとのコラボによる、ライスレジン製の包装パッケージを用いるというアイデアも出されました。

参加者の発表を受けて、吉岡さんからは「浪江町には酒蔵があるのでそのストーリーを生かして、どぶろくブームにのって、桃色のどぶろく酒などもあるのではないか」「道の駅で売っていたいちごミルク専用のジャムのように、商品と一緒に体験を提供することもブランディングの視点で重要」といったアドバイスがありました。

実践的なアイデアがいくつも生まれたプレゼンテーションの様子

ワークショップに同席した1日目の訪問先の農家や事業者からは、「クオリティーも実現可能性も高いアイデアがたくさんありました!」などの驚きの声や、「地域農業の発展のためにも、関係人口の創出を地道に行っていくことの重要性を実感しました」などの感想が聞かれ、今回のツアーが参加者の学びの場となっただけではなく、地元農家や事業者にとっても新しい発見や地域農業の可能性を実感できる機会となった様子でした。

浪江町はさまざまな就農支援制度を設け、次世代の農業を担う方々の新しいチャレンジをサポートしています。また、福島12市町村では移住者に最大200万円の補助金を支給する「福島12市町村移住支援金」などの手厚い移住支援制度を設けています。

農業・移住に関心がある方は、ぜひ浪江町を訪ねてみてください。

■浪江町の就農支援制度
https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/29/28409.html

■福島12市町村移住支援金
https://mirai-work.life/support/relocation/

文:渡辺 圭彦 写真提供:株式会社 マイファーム