生活・その他

震災後、いち早くサーフィンを再開。南相馬を再びサーフィンの聖地に

2023年3月9日

福島県浜通りには数多くのサーフスポットがある――これは、全国のサーファーの間で、いわば常識とされてきました。特に南相馬市には日本有数のサーフスポットがあり、「サーフィンの聖地」としても知られていました。しかし、2011年3月に起きた東日本大震災を機に、そうしたイメージは津波の記憶に埋もれてしまいます。

震災後、いち早く南相馬の海でサーフィンを再開し、再びまちに活気を取り戻そうと活動する、サーフショップ「SUN MARINE(サンマリン)」のオーナー、鈴木康二さんを取材しました。

鈴木康二(すずき・こうじ)さん
福島県南相馬市出身。20歳でサーフィンと出会い、30歳のときにサーフショップ「SUN MARINE」をオープン。東日本大震災後、避難生活を余儀なくされるも、同年7月にサーフィンを再開。サーフショップも移転し、再び営業を始める。現在も週3日ペースでサーフィンをしながら、スクールなどを通して次世代にサーフィンを伝えている。

全国有数のサーフスポット「北泉海岸(きたいずみかいがん)

北泉海岸のサーファー

複数のサーフスポットがある南相馬市。中でも「北泉海岸」は日本有数のサーフスポットで、サーフィンの世界大会が開催されるなど、全国各地から多くのサーファーが集まります。

サーフスポットは全国に点在しているのに、なぜ南相馬の海岸にそれほど人が集まるのでしょうか。南相馬の海で長年サーフィンを続けている鈴木さんに伺うと、「充実した設備」「地元の人たちとの関係性」「海の特性」を挙げてくださいました。

「北泉海岸は海水浴場としても利用される海岸なので、広い駐車場やトイレなどの設備が整っていて、サーファーが快適に過ごせるんです」

サーフィンは夏だけでなく、1年を通して楽しめるスポーツです。そのため、海水浴場が開かれる夏季以外にも人がやってきます。ところが設備が不十分な海岸では、サーファーが道路に駐車したり、トイレ以外の場所で用を足したりといったマナー違反が起こりやすく、地元の人とトラブルになることが多いのだそう。

「北泉海岸では、地元の人たちが定期的にビーチクリーンやトイレ掃除を行うなどの取り組みを行っています。この辺りの人たちは皆、海をきれいに使おうという意識が高いんです。だから他県から来た人も自然ときれいに使ってくれる。そうすると地元民とサーファーとの間でトラブルが起こりにくいんですよね」

サーファーと地元民との関係が円滑で、誰もが気持ちよく利用できるのが、北泉をはじめとする南相馬の海岸のよさなのだそう。加えて、海の特性についても教えてもらいました。

「北泉海岸から車で約10分の場所に、南相馬市のもう一つの大きなサーフスポットである『烏崎海岸(からすざきかいがん)』があります。風向きによって波の性格が変わるので『北風が吹いたら北泉、南風が吹いたら烏崎』と、その時の海の状態に合わせて行き来できます。これは、他地域の海岸ではなかなか見られない特長です」

絶えず波質が変化するから、さまざまな波に乗れる

また、北泉、烏崎ともに「ビーチブレイク」なのも大きな特徴なのだそう。ビーチブレイクとは、海底が砂地のところで割れる波を指し、気候の影響などによって絶えず波質が変化するサーフポイントのこと。岩場と異なり砂地の起伏は変化し続けるため、バリエーションに富んだ波が来るので飽きにくく、初心者からプロまで多くのサーファーが楽しめます。

「北泉や烏崎は規模が大きくて全国的にも有名ですが、実は南相馬にはあまり知られていないシークレットサーフスポットも多いんです。地元の人間はそういう場所も巡りながらさまざまな波に乗り、サーフィンがある暮らしを楽しんでいます」

北泉海岸では、地元の人を集めた比較的小規模なものから、日本サーフィン連盟が主催する全国規模の大きな大会まで、さまざまなサーフィンの大会が開かれています。

直近では、2021年10月に「第55回全日本サーフィン選手権大会」が、2022年7月に「第39回全日本級別サーフィン選手権大会」が開かれました。2021年の大会では、全国から約1100人ものサーファーが北泉に集まり、日本一をかけて自らの技を披露したのです。

サーファーを育てる活動

サーフィングッズがそろう、サンマリンの店内

現在、サーフショップ「サンマリン」は鳥崎海岸から車で10分ほどの真野川橋の北側にあります。ウエットスーツやサーフボード、サーフィンに関わる小物類などを販売しているほか、初心者向けのスクールも開いており、スクールで必要な道具類はすべて店からレンタル可能。2時間程度、鈴木さんがマンツーマンで丁寧に教えています。

「2時間あれば初心者でもボードに乗れるようになります。波に乗る感覚をつかめたら、あとは練習あるのみ。部活みたいな感じですね。経験の浅い人が一人で海に入ると、沖に流されて危ない目にあうことも少なくないですから。一緒に波に乗りながら、育てていくという感覚で教えています」

震災で店が流され…サーフィン再開までの経緯

震災前の店舗にて

実は、鈴木さんは震災前、烏崎海岸から車で5分程の「右田浜(みぎたはま)(右田海岸)」というサーフポイントのすぐそばに店を構えていました。震災当日も海に入っていて、ちょうど海からあがったタイミングで地震が発生。すぐに避難して鈴木さん自身は難を逃れたものの、そのまま県外での避難生活を余儀なくされました。当時経営していた店は、津波ですべて流されてしまいました。

その後、2011年6月に南相馬市に仮設住宅が完成し、故郷に戻ることに。「『海が怖い』という感覚はなかった」という鈴木さん。自宅近くを散歩しているとき、ふと「またサーフショップを再開しようかな」という思いが湧き上がってきたのだそうです。

その当時は、まだ周りにサーフィンをしている人はおろか、海に近づく人もほとんどいませんでした。「震災以前は、福島県内に3000人以上のサーファーがいました。でも震災後は、県全体で10人くらいというレベルまで減っていたんです」

「自分と同じように、サーフィンがしたい人はいるはず」という思いから、鈴木さんは再開の一歩を踏み出します。当時、海の中にはがれきも多く残っていて、地震と津波の影響で地形も変わっていました。サーフィン再開には不安もありましたが、鈴木さんは自身の心に正直に、海と向き合い続けます。1年が経つ頃には周囲の状況や考え方も少しずつ変わり、サーフィンをやりたいという人も目に見えて増えてきたそうです。

当時を振り返る鈴木さん

「『1年間も我慢したから、そろそろまた波に乗りたい』って人がちらほらと出てきました。震災から2年、3年経ってやっと人が戻ってきたかなという感覚でしたね」

そして、2019年には震災後初の海開きが行われ、久しぶりに北泉海岸に活気が戻ります。「サーフィンの聖地」復活への道が開けた瞬間でした。

年間200日はサーフィンをする生活

サンマリンでは、道具のメンテナンスも行う

海とサーフィンとともに暮らす鈴木さんの1日のはじまりは、夏なら5時、冬でも6時には起きて真っ先に海へ。状態が良ければ、そのまま1時間半ほどサーフィンをします。それから店を開けて仕事をしているそうです。営業中、サーフィンスクールの希望が入れば、その都度海に入ります。

「年間320日以上は海へ行っています。そのうち、200回くらいはサーフィンをしますね」

南相馬市には、鈴木さんと同じような生活をしている人が少なくないそうです。「朝イチでサーフィンを楽しんでから会社に出勤して仕事って人、結構多いですよ。私は店でのんびりできるからいいけど、疲れないんでしょうかね(笑)」と笑顔を見せる鈴木さん。「でもまあ、サーフィンが好きだからできるんでしょうね」とも話してくれました。

サーフィンの技術を上達させるには、継続して海に入り練習を繰り返すことが欠かせません。福島市など、遠方からサーフィンのために南相馬市に通っている人もいるそうですが、やはり往復の時間やお金、労力がかかります。その点、南相馬市に住んでいれば、生活の中にサーフィンがある暮らしが実現できます。「それはサーファーにとって、大きなメリットですよね」と鈴木さんは話してくれました。

働きながらでも、家庭があっても、年をとっても、サーフィンは楽しめる

鈴木さんがサーフィンをする様子

鈴木さん自身は、もともと趣味でサーフィンを始め、“好き”を仕事にされました。でも、「サーフィンを仕事にしている」という感覚はあまりないのだそう。

「楽しくてやっているんですよ、やっぱりね。仕事だと思ったら、サーフィンを嫌いになっていたような気がします。年金生活者だから、本当はもう働かなくても生きていけるんですよ。でも、ただぼーっと暮らしたら、長生きできないような気がしてね」

そんなふうにサーフィンを語る鈴木さんは、とても楽しそう。心からサーフィンが好きで、充実した日々を送っていることが伝わってきます。とはいえ、周りには会社勤めをしながらサーフィンを趣味として楽しんでいる人が多いのも事実です。それについて鈴木さんは「その方がいいですよ。サーフィンを仕事にするより、稼げますしね」と笑います。

「家庭を持っている人は、土日は家族サービスをしないといけないでしょ?でも、例えば趣味がゴルフだったらまるまる1日つぶれちゃうんですよ。その点、サーフィンなら、早朝に海に入って目いっぱい楽しんで、家に帰っても9時くらい。そこから家族のために時間を使えるから、家庭がある人にもサーフィンはおすすめですね」

サーフィン好きがもっと増えるとうれしい

「サーフィンをしている人同士、海ではあっという間に仲良くなります。北泉をはじめ、南相馬にはいい波が来る。これを埋もれさせておくのはもったいない」と鈴木さん。もっといろいろな人に南相馬の海を知ってもらい、親しんでもらい、若い人にも積極的に来てもらいたいと話します。

「人が集まれば、それだけレベルも高くなります。いつか地元から有名なプロサーファーが出てくれたら、とてもうれしいですね」

最後に、南相馬市への移住を検討している人向けにメッセージをいただきました。

「南相馬は海の幸がおいしいし、夏はサーフィンをはじめマリンスポーツ、冬は中通りまで遠征してスノーボードなどアクティブに楽しめる環境が整っています。小高区のあたりには空き家もちらほらあるし、自分の手でリノベーションして住むのもきっと楽しいですよ。サーフィンは年をとっても続けられるスポーツですから、興味があればぜひトライしてみてほしい。サーフィン好きの人が増えるのは大歓迎です。そうすれば、海に行って『今日の波はどう?』と話せる友達が増えますから」

鈴木さんによると、南相馬でサーフィンをするなら、秋雨前線の影響でいい波が来る秋がおすすめなのだそう。サーフィンが好きな人もこれから始めたいという人も、今年は「サーフィンの聖地」で福島の海の豊かさを体感してみませんか?

■SUN MARINE
住所:〒979-2335 福島県南相馬市鹿島区鹿島字下舘29
TEL:0244-26-6554
HP:https://qqxh5ex9k.wixsite.com/sunmarine

取材・文:岩崎 尚美 写真:熊田 誠