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【イベントレポート】福島12市町村 農業の未来を実践者と語る!

2023年3月4日

「福島12市町村移住支援センター」では、さまざまなテーマで移住セミナーを開催し、移住希望者に向けた情報発信を行っています。

2023年2月9日(水)に開催されたオンラインイベント「福島12市町村 農業の未来を実践者と語る!」では、福島12市町村で農業に携わっている3名のゲストをお招きして、新しい形の農業への取り組みや地域再生への思い、農業の未来などを語っていただきました。

この記事では、イベントの内容をレポートしつつ、福島12市町村で農業を行う魅力と可能性をお伝えします。

ゲストによるトークセッション

トークセッションでは、ゲストのみなさんに自己紹介をしていただき、ファシリテーターの成影沙紀さんがその内容を深掘りしました。

成影沙紀さん|ライター兼心理カウンセラー
長年東北に通い、農業・漁業の専門ライターとして活動。現在は、福島県飯舘村と千葉県との二拠点生活を送っている。


農業を通じて社会課題を解決する
中谷内美昭さん|「株式会社バイオマスレジンホールディングス」取締役副社長
「アジアの農業と地球環境を改善する」というビジョンのもと、古米など食用に適さないお米から作られるバイオマスプラスチック「ライスレジン」の研究開発を行う「株式会社バイオマスレジンホールディングス」の取締役副社長。2020年には浪江町にグループ会社「株式会社スマートアグリ・リレーションズ」を設立し、新たに米作りにも取り組んでいる。

中谷内さん 私たちの会社は「お米×テクノロジー」をテーマに、社会課題の解決に取り組んでいます。その取り組みの一つが、食用に適さない米をプラスチックへとアップサイクルして作る「ライスレジン」の製造です。

通常、プラスチックは石油等を原料にして作られますが、石油をはじめとする化石燃料は燃焼時に大気中に二酸化炭素を放出するため、地球環境破壊の大きな要因の一つとされてきました。そこでわれわれが注目したのが、植物などの再生可能な有機資源から作られるバイオプマスラスチックです。プラスチックの製造時にライスレジンを70%混ぜることで、石油の含有量を大幅に削減することができ、環境保護につながります。

今年からは、いよいよ浪江町でライスレジン用のお米の本格栽培をスタートさせる予定です。栽培にあたり、稲刈りの後に残った株から伸びた稲を再び刈り取ることで一度の田植えで二度収穫をする、「再生二期作」を取り入れて生産性と効率性を向上させるほか、ドローンや自動除草ロボットの活用、太陽光発電など、新たなテクノロジーも活用して農業に取り組んでいきます。

中谷内さん  私たちが目指しているのは、単なる米作りだけではなく、米作りを軸に新しい収益モデルを構築することです。例えば、もみ殻を発電に利用することでバイオマスエネルギーの生産につながりますし、一般にも開かれた製造現場を作れたら、幅広い世代を対象とした環境教育の場にもなっていくでしょう。

私たちは日本各地で活動を行っていますが、浪江町のライスレジン製造工場は最先端の設備が整っており、国内3つの製造工場の中でも最大級のプラントと言えます。浪江町の農業は震災と原発事故で大きな打撃を受けましたが、我々はこの春から30haの田んぼを使って栽培を始め、2025年までには浪江町を中心とした浜通りエリアで400haの休耕田を復活させたいと考えております。

――「株式会社スマートアグリ・リレーションズ 」は「Wワーク」を歓迎しているそうですが、どのような思いがあるのでしょうか?

中谷内さん 新規就農したいという気持ちがあっても、誰でも最初は不安だと思います。そんな時にうちの会社で働くことで、暮らしのベースを安定させながら農業の経験を積み、自力で稼げるようになっていただけたらと考えています。ゆくゆくは米以外も栽培していきたいと考えているので、お互いにノウハウや知識を共有して、刺激し合えたらいいですね。農業に関わらず、浪江町で何か新しいことを始めたいという人を歓迎します。


さつまいも農業の力で地域発展を目指す
佐藤大輔さん・長井翔太朗さん|株式会社福島しろはとファーム
業務用冷凍大学いもの国内のシェア7割を占め、 さつまいもに特化した6次産業化を進める食品メーカー「白ハトグループ」傘下の「株式会社福島しろはとファーム」に勤務。同社は2017年から楢葉町でさつまいも栽培を開始。社員の多くが新規就農者。

佐藤さん 福島しろはとファームは、大学いもなどの加工用さつまいもの製造に特化しているため、多少傷がついていたり、規格に合わないサイズの収穫物も商品として加工し販売できることが大きなメリットです。さつまいもは、これまでは九州をはじめ暖かい地域での栽培が中心でしたが、地球温暖化によって、北海道や東北でも栽培できるようになりました。

楢葉町には、世界最大級のさつまいもの「育苗(いくびょう)ハウス」があります。これから農業を始めたいという方に(なえ)を提供して、栽培をお任せし、できたさつまいもを無選別で買い取る、という流れをつくることで、新規就農者が参入しやすいビジネスモデルを展開しています。

さつまいもは栄養価が高く、甘くておいしいすばらしい作物です。日本国内だけでなく海外でも食べられるようになり、輸出量も右肩上がりです。これからも成長が見込める作物だと思います。

――「白ハトグループ」は全国に農場をお持ちですが、福島12市町村ならではの課題はどんなところにありますか?

佐藤さん 震災の影響もあり、福島12市町村にはまだまだ荒れた土地が多いのが現状です。かつて畑として使われていた農地も、長期間手入れを怠ると土の質が変わってしまい、すぐには以前のように使えません。でも、さつまいもは根っこから土壌菌が生まれるので、荒れた土地を整備してさつまいも栽培を続けていくと、年々、土の質が良くなっていくのです。楢葉町は福島12市町村の他の地域よりも先行して返地が進んでいるため、今後、返地が行われるほかの地域にもノウハウを提供できるはずです。
※返地:土地を地権者のもとに返すこと。この場合、除染により生じた土壌などの仮置場や現場保管場所として使われていた土地を、国から地権者のもとに返すこと。

――長井さんは大阪府ご出身ですが、楢葉町に住んでみていかがですか?

長井さん 家族3人で楢葉町に移って2年になります。移住前は、まだまだ復興途中の地域なのかなと思っていましたが、想像以上に活気があって驚きました。むしろ全国から面白い企業や人が集まってきていて、とても盛り上がっています。日本の未来の農業の形を、楢葉町から発信していけるのではないかと思います。


お客さまの声に応えて生産品種を拡大
武田幸彦さん|「武田ファーム」代表
南相馬市にある「武田ファーム」の4代目。大学で農業を学び、卒業後はアメリカで農業研修を受け技術を磨いたが、米国研修中に東日本大震災が起こり武田ファームの営業が停止。群馬県で野菜の流通業に携わった後、南相馬市へ戻り武田ファームを再開。

武田さん 今は、畑(10ha)、田んぼ(30 ha)、麦畑(5 ha)ほどを耕し、約20種類の野菜と米と麦を栽培しています。ファーム立ち上げの際は、夏野菜の栽培から始めたのですが、冬の閑散期のためにキャベツやブロッコリーを育て始め、さらに、お客さまからの「これがほしい」「あれはないの?」という声に応えているうちに、少しずつ栽培品目が増えていきました。

最初はたった一人で始めましたが、ありがたいことに今では人を雇用できるまでになっています。従業員の生活を守る責任が生まれた分、数字についても、よりシビアに考えるようになりました。前職が営業職だったこともあり、「いいものをつくる」のと同じくらい「どうやって売るのか」も大切だと思っていて、JAさんや生協さんとの取引やふるさと納税の返礼品、加工用の野菜……など、開拓できるところはすべてやったと言ってもいいくらい、販路の幅を広げています。少し広げすぎたので、今は絞り込もうとも思っていますが(笑)。

――南相馬市で農業をする魅力はどんなところにありますか?

武田さん 浜通り全域に言えることですが、夏は涼しくて冬は暖かいという気候は大きなメリットですね。また、まだ農業従事者が少ないので、チャンスがたくさんあります。自分の好きなように、のびのび活動できるところも気に入っています。

――震災前後でどのような変化を感じていますか?

武田さん 震災後数年はさすがに暗い雰囲気もありましたが、ここ数年でがらっと変わりました。もともと私も、地元のことを「田舎だな」くらいにしか思っていなかったのですが、今は移住者も増えていて、外から来た人に南相馬市のいいところを教えられることもあります。今では、地元の人も地元の魅力をきちんと理解して、伝えられるようになってきており、だんだん良いまちになってきていることを実感しています。


最後に、成影さんがゲストのみなさんに共通の質問を投げかけました。

――皆さんは、これから福島12市町村をどのような地域にしていきたいですか? また、どんな人と一緒に働きたいですか?

中谷内さん 浪江町で米作りを始めて、地域の皆さんから声をかけていただく機会が増えました。人と人との交流を生み出せなければ地域の活性化にはつながらないので、自分たちの会社だけですべてを完結させるのではなく、地域の皆さんと一緒により良い未来について語り合い、みんなで協力して地域農業を盛り上げていきたいですね。

佐藤さん 「稼げる農業」と聞いてワクワクする人と出会いたいです。もちろん会社の利益は必要ですが、農業者ひとりひとりがしっかり稼いでいなければ、私たちの会社も続きません。ですから、しっかり稼いでほしいんです。日が出ている間は農業、夕方以降は家でゆっくり過ごす……。そんな生活を送りたい人にとって、農業はいいワークスタイルだと思います。

長井さん 当社の若手社員のほとんどが、元は農業未経験者です。新規就農のハードルを下げたいと思っているので、少しでも農業に興味があってこの地域に思い入れがあるなら、ぜひ一緒に働きましょう!

武田さん 南相馬に興味がある人、農業をやりたい人、新しいことを始めたい人、どんな人でも大歓迎です。一日体験やWワークなど受け皿はいろいろあるので、まずは一歩踏み出してみてください!

福島12市町村就農支援特設サイト

福島12市町村移住支援センターでは、移住ポータルサイト「未来ワークふくしま」内に就農支援の特集ページを設けています。

ページ内には、ライフスタイルや希望に応じた就農モデルを紹介する「就農スタイル診断」や、今回の登壇者をはじめとする先輩就農者のインタビュー、福島12市町村それぞれの気候や支援制度の紹介、就農の流れ、就農者を募集している企業の紹介などの情報を網羅。就農イメージをより具体的にできるはずです。ぜひご活用ください!

■未来ワークふくしま「福島12市町村就農支援」特集ページ
https://mirai-work.life/agri12/

■雇用就農情報
https://mirai-work.life/agri12/recruit/