移住者インタビュー

アットホームなこの町が好き。南相馬市で自分らしく仕事と育児を両立

2022年11月2日
南相馬市
  • 医療福祉
  • 転職

「福祉の仕事がしたくて、南相馬市で就職口を探しました。親切な同僚や上司に恵まれて、楽しく仕事をさせていただいています」

そう笑顔で話すのは、社会福祉法人南相馬市社会福祉協議会に勤務する小野田香和さん。2人目のお子さんを妊娠中で、現在9カ月目。大きなおなかでハツラツと働く姿が印象的です。

小野田さんは、大学を卒業するまで生まれ育った宮城県仙台市に住んでいました。南相馬市への移住・就職に至った経緯とは何だったのでしょうか。現在の仕事や子育てについても、お話を伺いました。

町で出会う人びとの温かさに引かれて

南相馬市との縁の始まりは、大学時代でのサークル活動。ボランティアで東日本大震災の被災地支援に出向き、その中のひとつが南相馬市でした。

「ボランティア活動が終わった後に、サークル仲間とよく地元の居酒屋に行っていました。行く先々で出会う街のみなさんが、とても温かく接してくれたんです。『優しい人ばかりですてきなところだな』と思いながら日々を過ごしていくうちに、このまちに魅了されていきました」

小野田さん自身も、高校生のときに仙台市で被災を経験しています。電気・ガス・水道などのライフラインは1カ月ほど止まり、不便な生活が続きました。それでも、津波や原発事故で被災された方たちより自分は恵まれていたと振り返ります。

「大変な思いをされてきたはずの南相馬市のみなさんが、私たちに笑顔で『ありがとう』と声をかけてくださるんです。どんな状況になっても、前を向いて頑張っていこうという姿勢が印象的で。それを見て、私自身も『どんなときでも感謝の気持ちを忘れずに生きていこう』と、大きな力をもらいました」

まちの人たちの温かさや人生観に引かれ、ここで暮らしていきたいと思うようになった小野田さんは、南相馬市で就職することを決意しました。

母親の背中を見て福祉の道へ

小野田さんが働く南相馬市社会福祉協議会は、「誰もが安心して暮らせる福祉のまちづくり」を目指して活動している民間団体です。現在、就職して5年目。総務課で人事や業務全般のサポートを行っている小野田さんは「助けを必要としている方々の、豊かな人生の実現をお手伝いできることにやりがいを感じています」と笑顔で話します。そもそも、小野田さんが福祉の世界に興味を持つきっかけは何だったのでしょうか。

「母がずっと福祉の仕事に携わっていたのですが、震災のときにたくさんの福祉施設の利用者さんを助けていて、すごくカッコよかったんです。それまで母の働く姿を見たことがなかったので、驚きと同時に『私も母のような人になりたい!』と思うようになりました」

もともと保育士になりたいという夢を持っていた小野田さんでしたが、母の背中を追いかけて福祉の道へ進むことを決めたといいます。

福祉の仕事を通して地域に溶け込むことができた

小野田さんの先輩で、就職1年目から指導にあたってきた総務課課長補佐・坂下悦子さんにもお話を伺いました。

「小野田さんは、誰とでも分け隔てなく接することができる人なので、職員からも地域の人たちからも愛される存在ですね。福祉の現場は最終的には人対人なので、相手を思いやって行動する、わからないことがあれば、ひとりで抱え込まずに誰かに聞く、そういう一つひとつを大切にして仕事に取り組む彼女に、私たちも助けられています」
クレームの電話がかかってきたときにも、嫌な顔ひとつせずに対処する小野田さんの姿を見て、頼もしいと感じることも多いといいます。

実は、坂下さん自身も静岡県からの移住者で、3人のお子さんを育てるママ。先輩として、心強い存在です。

「子育てをしながら働くことに理解のある会社なので、私も産休・育休を取りながら仕事を続けてきました。職員の人たちも協力的で時短勤務もでき、仕事と育児を無理なく両立できる環境です。女性の離職率も低いんですよ」と坂下さん。

左から、小野田さん、坂下さん

そんなお2人が、南相馬市にやってきて一番苦労したことが、「言葉の壁」だそうです。

「おじいちゃん、おばあちゃんのなまりを聞き取れるようになるのに時間がかかりましたね。何度も聞き返してしまうのが申し訳なくて……。就職1年目は耳が慣れなくて、それに頭を悩ませていたくらいでした(笑)」(小野田さん)

今では明るく笑い飛ばしてしまうお2人ですが、仕事があったからこそ助けられたことも多かったといいます。

「もし働いていなかったら、なかなか地域になじめなかったと思うんですよね。この仕事を通して、地域の皆さんに溶け込めたのだと思います」(小野田さん)

職場の理解で両立できた仕事と子育て

小野田さんは、2019年に第1子を出産し、まもなく第2子の出産を迎えます。

「ひとり目のときは1年間の産休・育休を取得しました。2人目もその予定です。産休・育休の間の代替職員も用意してくださって『ゆっくり休んでね』とあたたかい言葉をかけていただきました。安心して子育てに専念させてもらえることが、本当にありがたいです」

とはいえ、ひとり目の復帰時は子どもが毎月のように発熱し、保育園からの急なお迎え要請に応じなければならなかったこともしばしば。そんなときにも、助けてくれたのは周りの職員の方たちでした。

「私が保育園から連絡を受けて慌てていると、先輩たちが『あとはやっておくから、早く迎えに行ってあげて』と言ってくださるんです。休みが多いと、みなさんに迷惑を掛けてしまいますし、職場で肩身の狭い思いをするのではと不安を感じることもありましたが、そういう雰囲気にならないように配慮してくださって、本当に助けられました」
働くママが育児と仕事の両方をこなしていくことは簡単ではありません。そんな彼女をやさしく見守り、協力してくれる職場の理解があってこそ「仕事を続けられている」と小野田さんはいいます。

地域全体で子育てできる魅力的な環境

現在、南相馬市では市内の公立・私立保育園、認定こども園、小規模保育施設に在園する乳幼児の保育料が無料です(※2023年3月までを予定。市内に住民登録している方が対象)。また、出産時には、誕生祝い品として市から紙おむつや粉ミルクを購入できる給付券と南相馬市産のお米が支給されるほか、出生から18歳まで医療費の一部を助成してもらえるのだそうです。

「子育て制度も手厚く、公園や屋内遊び場も充実しているので助かっています。わが家の休日は、子どもと公園に遊びに行くことが多いですね。散歩をしていると、近所のおじいちゃん、おばあちゃんが声をかけてくださるんです。そのやりとりが温かくて、うれしくなってしまいます。海が近くて豊かな自然と触れ合える子育て環境も気に入っています。あとは小児科のある医療機関がもっと増えてくれると安心ですね」

ひとり目の出産後は、ちょうど新型コロナウイルスが流行し始めた頃で、ほとんど出掛けられずに家で赤ちゃんと過ごす日々が続いたそうです。ようやく少しずつ出歩けるようになり、子育てを通じた人とのつながりも増えてきている、と笑顔を見せます。

子どもが走り回っていると「元気だなあ」と言って笑顔で見守ってくれる。そんな町の人たちのアットホームな優しさが好きだという小野田さん。人と人とのつながりを感じながら、仕事にも子育てにも自分らしくはげむ彼女は、朗らかな空気に包まれていました。

小野田香和(おのだかな) さん

宮城県仙台市出身。東北福祉大学在籍時に東日本大震災のボランティア活動に参加し、南相馬市と宮城県各地で支援活動を行う。大学卒業後、社会福祉法人南相馬市社会福祉協議会への就職と同時に南相馬市に移住。現在は総務課で人事や会計などを担当。第二子出産後、産休・育休後に復帰を予定。休日の楽しみは、子どもと公園に遊びにいくこと。

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文:奥村 サヤ 写真:中村 幸稚