生活・その他

少人数を強みに変え、「村の子ども」の誇りを育てる。葛尾小学校・葛尾中学校の教育

2026年7月29日

役場や消防署、交流施設などが村の中心部にコンパクトに集まる福島県葛尾村。それぞれ村内唯一となる小学校と中学校もその一角にあります。2026年7月現在の児童・生徒数は、小学校が17名、中学校が6名で、村全体で学校を支えながら、少人数ならではの一人ひとりに目の行き届いた教育環境を整えています。小中学校それぞれの校長先生と葛尾村教育委員会を訪ね、葛尾村の教育の取り組みを教えていただきました。

「自分にもできた」の積み重ねで自己肯定感をはぐくむ

葛尾小学校と葛尾中学校は一つの校舎を分け合って使っており、1階と2階には小学校の、3階には中学校の教室があります。校庭を挟んだ南側には村立葛尾幼稚園があり、中学校までをほぼ同じ敷地で過ごすため、幼稚園から小学校へ、また小学校から中学校へ進む際、子ども達が環境の変化に不安を感じることはありません。

学校生活では、幼・小・中の垣根を越えた交流が盛んに行われています。小中学生が同じランチルームに集まって一緒に給食を食べたり、中学校の英語の先生が小学生に英語を教えたり。運動会は「かつらお村民運動会」として、幼・小・中だけでなく大人も参加して開催されます。地域の方々が校庭の草刈りやテント設営などの準備を手伝い、競技にも参加するなど、村全体が盛り上がる一大行事です。

葛尾小学校提供

葛尾小学校の児童は、1年生と2年生、3年生と4年生、5年生と6年生がそれぞれ一つの教室で過ごす複式学級で学んでいます。児童のうち約半数は家族で葛尾村に移住した家庭の子どもだそうです。

児童数が少ないことは時にデメリットと捉えられることもありますが、葛尾小学校ではそれが大きな強みになっていると佐藤秀敬(さとう ひでたか)校長は言います。

「少人数の授業では、一人ひとりの子どもにしっかり目が届きます。たとえば、30名の学級で一人あたり1分ずつ個別に指導をしたらトータルで30分かかることになりますが、4名の学級であれば4分で済みます。そのぶん、子ども達とより深く対話したり、新たな学びに挑戦したりする時間を確保できます。それぞれの子どもに合った声かけや支援の機会も増やせるでしょう」(佐藤校長)

葛尾小学校 佐藤秀敬校長

少人数のよさは授業時間以外にもあります。学校行事では一人ひとりに役割が与えられ、何も役割がなく埋もれてしまうような子どもはいません。役割を果たせば「自分にもできた」という成功体験が得られ、その積み重ねにより自己肯定感や責任感が醸成されます。移住してきた子どものなかには以前の学校に馴染めなかった子どももいるそうですが、ここで少しずつ自信を取り戻し、今では運動会で中心的な役割を担ったり、人前で臆せず発表したりできるようになっているそうです。

少人数だからこそ育つ発信力。対話と体験で未来を拓く

葛尾中学校では、「探究・敬愛・自立」を教育目標に、小学校と同様、生徒一人ひとりが主役となる教育が行われています。

なかでも特徴的な取り組みが、哲学対話と呼ばれる時間です。正解のない問いについて話し合い、相手の考えを受け止め、自分の考えを言葉にします。ときには近隣市町村の中学生や地域の大人たちを招いて対話の輪に入ってもらうなど、多様な人々と出会う場をつくっています。星由紀枝(ほし ゆきえ)校長はその意図をこう語ります。

「生徒数が少ないぶん、毎日のように自分の意見を求められる環境にあります。そのため、生徒達は自分の言葉で話す力を自然と身につけることができます。さらに、高校や大学などに進み、より多くの仲間と触れ合うようになったとき、葛尾で育った子どもとして自信を持って過ごせるよう、中学生のうちからさまざまな価値観に触れさせ、しなやかに生きる力を育てたい。そう考え、哲学対話に取り組んでいます」(星校長)

葛尾中学校 星由紀枝校長

生徒達が中学校生活でもっとも楽しみにしているのは、隔年で実施される海外への修学旅行です。令和7年度はアメリカ・サンフランシスコを訪ねました。ホテルではなくホームステイでホストファミリーの家庭に宿泊し、単なる観光では得られない実践的なコミュニケーションや異文化の貴重な体験をします。

サンフランシスコを訪ねた令和7年の修学旅行のひとコマ(葛尾中学校提供)

「葛尾中学校で学んだコミュニケーション力や世界を見据えた広い視野を生かし、自分の夢や希望の実現に向け大きく羽ばたいていってほしい。そのためには若いうちに外の世界を体験することも必要」と星校長。ほかにも、ALT(外国語指導助手)による授業の実施やALTと生徒が日常的に一緒に関わる機会を設定するなど、生徒の視野を広げるための教育を積極的に取り入れています。

葛尾の子ども達は地域に誇りを持っている

校舎の壁には「葛尾プライド」の文字が。ふるさとの誇りを伝える地域学習も多く取り入れられている

葛尾村では、教育面の充実だけでなく、子育てにかかる多くの支援を用意しています。葛尾村教育委員会の松本君枝(まつもと きみえ)さんは、「子どもたちが安心して学べる環境を整えることは村の大切な役割」と話します。

「村では、ランドセルや文房具を除く学習用品や給食を小中学校とも無償で提供しています。給食は学校のすぐ隣にある給食センターで作られており、地元の食材をふんだんに使ったできたてのお昼ご飯が提供されます。中学生向けには村外から講師を招いた無償の学習塾を開設しています。通学にはスクールバスが運行されており、通学時の安全にも配慮。小学生は、学校が終わってからバスが運行されるまでの時間、校舎の一角を利用した放課後こども教室『葛尾キッズクラブ』で宿題をしたり友達と遊んだりしながら過ごせます」(松本さん)

葛尾村教育委員会 松本君枝さん

「ただ」と松本さんは続けます。

「お子さんがいるご家庭の移住を支えることにつながるこうした施策も大切ですが、それが葛尾村の教育のすべてではありません。ここに来て、美しい自然のなかで学べば、子どもはきっと心身ともに豊かに成長できる。それが葛尾で学ぶことの一番の魅力だと私は伝えたいです。子ども達はみんな村が大好き。それが本当にうれしく、誇らしいです」(松本さん)

2人の校長先生も、「葛尾の子ども達は地域に誇りを持っている」(星校長)、「一人として地域を卑下する子どもはいない」(佐藤校長)と口を揃えます。そうした子ども達の意識をはぐくむのが、小中学校それぞれに取り組む地域の学びです。小学校では、地域の農産物を活用した新しい特産品の開発などに挑戦。中学校でも、ふるさと総合学習として、「葛尾村の関係人口を増やすために自分たちができること」など、毎年さまざまなテーマを掲げて村を学びます。

子ども達は、学校生活のなかで地域を学ぶうち、村のコミュニティを「誰かがなんとかしてくれるもの」ではなく「自分たちが関わるもの」として捉えるようになります。その積み重ねが「この村が好き」という気持ちにつながっているのです。

村の人々に守られ、村への愛着を高めながら学校生活を送る葛尾村の子ども達。少人数であるためにできないことを村全体で補いながら、少人数だからこそできることを村全体で増やし、子ども達に届けていく。そんな教育のかたちが葛尾村にはありました。


■葛尾村立葛尾小学校
所在地:〒979-1602 福島県双葉郡葛尾村大字落合字西ノ内50
TEL:0240-29-2003
HP:https://www.katsurao.org/site/es/

■葛尾村立葛尾中学校
所在地:〒979-1602 福島県双葉郡葛尾村大字落合字西ノ内50
TEL:0240-29-2011
HP:https://www.katsurao.org/site/jhs/

■葛尾村教育委員会
所在地:〒979-1602 福島県双葉郡葛尾村大字落合字落合16
TEL:0240-29-2170(総務学校教育係)
HP:https://www.katsurao.org/soshiki/6/

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩