支援制度

体験から繋がる富岡町の「お試し住宅」

2022年7月14日

福島12市町村の中には、現地の暮らしを体験できる移住希望者向け滞在施設「お試し住宅」があります。滞在期間は数日から数ヶ月までさまざま。今回は、海も山もあり、自然あふれる富岡町で体験できる「お試し住宅」を紹介します。

ゼロからのまちづくりに取り組む富岡町

まずは富岡町の紹介から。富岡町は、東京駅から常磐線特急「ひたち」で約3時間ほどに位置する、「浜通り」と呼ばれる福島県沿岸部の双葉郡内にあります。青く澄んだ太平洋と緑豊かな阿武隈山地が広がり、豊かな自然に囲まれているこの町は、夏は海風が心地良く、冬は積雪が少ない四季を通じて暮らしやすい地域です。

東日本大震災では全町避難を経験しましたが、2017年4月、町の大部分の避難指示が解除され、居住者は2022年6月1日時点で2001名。前年に比べ、約18%増加しており、徐々に住民が増えています。その中には、県外からの新たな移住者も含まれていて、2023年春には、北東部の夜ノ森地区の避難指示解除を目指しており、ゼロからのまちづくりは大きく前進しています。

町の中心部には、スーパーやドラッグストア、ホームセンターなどが揃う商業施設「さくらモールとみおか」があり、住民の生活を支える必需品が揃っています。そのほか、子どもたちが自由に遊べる富岡町地域交流館「富岡わんぱくパーク」や、シニアまでスポーツを楽しめる「富岡町総合スポーツセンター」、富岡町文化交流センター「学びの森」などさまざまな施設も整っています。

また、町内には認定こども園から小・中学校まであり、安心で便利なスクールバスで自宅まで無料送迎してくれるそうです。親御さんにはうれしいサポートです。高校は、広野町のふたば未来学園やいわき市内の高校が近隣にあり、電車通学が可能とのこと。実際に夜ノ森駅や富岡駅から通ってる子も多いそうです。

さらに、富岡町の移住・定住サポート制度には、子育て世帯への奨励金や、住宅の取得・リフォームの助成金交付制度、借上げ住宅の貸出などさまざまな支援があります。

富岡町で快適に暮らしてもらえるように

今回「お試し住宅」を案内してくださるのは、一般社団法人とみおかプラスで移住相談を担当する辺見珠美さんです。実は辺見さんも移住者の1人。出身は東京で、2012年からボランティアや仕事の関係で、福島県の川内村やいわき市で生活した後、2020年4月、富岡町に移住。とみおかプラスには、2020年7月に入社し、お試し住宅の準備段階から担当しています。

とみおかプラスで移住相談を担当する辺見さん

そして、2022年3月15日からスタートした「お試し住宅」には、移住者でもある辺見さんの経験が随所に生かされています。

まずは滞在する住宅から紹介。赤と黒のコントラストがモダンな住宅は、とみおかプラスの真横に併設。元は写真館兼自宅の建物だったことからこの造りになっているそうで、なにかあればすぐに声をかけられる安心な構造です。住宅の出入口は、とみおかプラスの入口とは別で、利用者は住宅側から自由に出入り可能です。

中に入ると、モダンな外観に反して、木目と白を基調にしたナチュラルな空間が広がっています。玄関からすぐにあるアイランドキッチン付きのリビングは、広々としており、一目で「こんなお家に住みたい」と思ってしまうほどいまどきでおしゃれ。「快適に暮らしてもらえるように」「富岡の生活をイメージしてもらえるように」という思いでインテリアから小物まで細かく辺見さんが選んだそうです。

2階には、ウッドテイストでまとめられたベッドルームや、1階とは異なる和風なリビングルームがあります。「元から2世帯で住む予定だったお家なのでそれに合わせて少し雰囲気を変えているんです」と辺見さん。和室には、布団を敷いて寝ることも可能。単身者はもちろん、お子さんを連れたファミリーでも便利に利用できそうです。

滞在は最大4泊5日まで可能。対象者は、町外に住所を有していて、富岡町への移住を検討している方、または、町との交流・関係人口の創出が見込まれる方など条件はいくつかあります。(年末年始は利用不可)

そして滞在中は、移住体験プログラムへの参加が必須。より具体的に町の暮らしを知ってもらうためのプログラムで、内容は利用者の相談に合わせてオリジナルでアレンジしてくれるとのこと。ここに辺見さんの移住経験が生かされています。

「やっぱり移住って暮らし全般に関わってくるので相談が多岐にわたるんですよね。関係機関もバラバラなので、町での暮らしを知ってもらうために、それぞれの興味とか嗜好に合わせたいと思っています。最後には移住を深く考えられるきっかけになれたらいいなと思っています。」

3月にスタートし、3泊4日でお試し住宅を利用した最初の家族には、半日ずつに分けて2日間の移住体験プログラムを体験いただいたそうです。

「子育てとか就活環境をしっかり知りたいという方々だったので、中学校や転職先を探せるふくしま生活・就職応援センターなどを案内しました。学校では、教頭先生と対話できる時間をセッティングしたり、センターでは求人情報を見せてもらって職種の傾向を教えてもらったりしました。」

オリジナルプログラムの甲斐もあり、お試し住宅の利用後には、近々引っ越そうかと考えていると直接連絡があったとのこと。「1組目から移住につながりそうで自分でもびっくりです。」7月から8月にかけて2件、宿泊予約が入っており、追随への期待が高まります。

富岡住民とも繋げていく

また、今後は町のキーパーソンを紹介する交流プログラムも考えていると言います。

「農業をやりたいと考えている人には農家さんを繋いだり、まずは家庭菜園からという方には適した人を紹介したりと考えています。」これも辺見さんの実体験からヒントを得たそうです。

「私が移住を経験してやっぱり必要だなと思ったのが、キーパーソンを紹介してもらうことだったんですよね。繋がるとその土地に馴染みやすくなると思います。あと、富岡の人たちはウェルカムな人が多いので、新しくやろうとしていることに色々協力してくれるし、すごく力になってくれます。」

辺見さんも地元の方の協力に助けられていると言います。「私は仕事とは別に子育て応援団体と一緒にこども食堂を月に1回やっているんですけど、地元の方が力を貸してくれるんです。子どもたちと一緒に野菜を育てて、こども食堂で料理しようとか。行動に賛同して力になってくれるのがこの町の本当にいいところなので、繋ぎ役としてもサポートしていきたいですね。」

最後に「富岡町はなくなってしまったものとかないものはいっぱいあるんですけど、それを自分たちの手で一つ一つ創り上げていく楽しさがあるし、チャレンジできる場所。そういうことをしたいと思う方に合う町だと思います。まずは、お試し住宅で富岡町を知ってもらって、移住を考えるきっかけになってもらえたら」と話しました。

福島12市町村で提供しているお試し住宅は以下の記事でもご紹介しています。
福島暮らしを気軽に体感できる!ふくしま12市町村のおためし住宅をまとめてご紹介!


とみおかくらし情報館(富岡町移住定住相談窓口)
住所:双葉郡富岡町大字小浜字中央338(旧竹村写真館)
Tel: 0240-23-6983 
URL:https://www.tomioka-iju.jp/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文:草野 菜央 撮影:中村 幸稚