農業を継続する秘訣は「人のつながりを大切にすること」
- 新規就農するにあたり心がけたこと
積極的に人に会いに行き、つながりを大切にすること
- 新商品スイーツ「えごまる」に込めた想い
若い世代にもエゴマの魅力を知ってもらいたい
- これからの目標
土壌医検定の資格を取得し、次の世代に豊かな土地をつなげていきたい
浪江町へ移住し、未経験から新規就農した大高充さんは2020年にオオタカ農業を立ち上げ、エゴマ栽培をして4年目の春を迎えようとしています。エゴマを使った自社商品を発売するなど、着実にステップアップしている大高さん。農業を続けてきた今だからこそ感じることや、商品開発の裏側を聞きました。
2022年に大高さんを取材した記事はこちら
>https://mirai-work.life/magazine/1103/
大高さんへのインタビュー動画はこちら
>https://youtu.be/c3lV5RSYZsA?si=ng9FuGxY2CjZGJdz
続けることで使命感が大きくなった
――オオタカ農業を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
大学生の時に友人を訪ねて浪江町を訪れ、復興へ歩みを進める人たちの想いに触れました。それから何度も足を運ぶうちに「町の力になりたい」と思うようになり、2019年に移住をしました。
花き農家さんのもとで修行をしたり、福島市と浪江町でエゴマを生産・加工する石井農園さんとの出会いから、「農業で町を盛り上げたい」という気持ちが芽生え、友人となみえファームという農業チームを立ち上げました。その後、自分一人でも挑戦しようと2020年7月にオオタカ農業を設立。現在は、地元の農家さんから10ヘクタールの土地をお借りしてエゴマを栽培しています。
――オオタカ農業の立ち上げから4年。農業の大変さはどのように感じますか?
農業は1年に1回しかチャレンジできないので、試行錯誤の繰り返しです。2023年は猛暑の影響で作物が高温障害を受けてしまい、年間収穫予定1.6トンのところ、600キロしか収穫できませんでした。天候はどうすることもできないので、猛暑をどう乗り越えていくかはこれからの課題です。
――独立前後で変化はありましたか?
誰かのサポートにまわるほうが性に合っていたので、人前に出る経験はほぼなかったのですが、独立後は商品企画をプレゼンしたり、栽培計画を立てて協力してくれる農家さんを仕切ったりと、先頭に立つ機会が増えました。
「農業でこの町を引っ張っていく」をスローガンに掲げているので、それに見合った活躍をしなければという使命感は前よりも大きくなりました。
――前回の記事では、収入が安定するまでに2〜3年は見ているとおっしゃっていました。現在の状況はいかがですか?
現在、生産したエゴマは原料として食品会社へ販売すること、自社の加工品を開発・販売することの2本柱で出荷しています。
食品会社ではドレッシングやエゴマ油に加工されているのですが、栄養価が高いこともあってよく売れているようです。また、自社の加工品は2023年から売り出し始めたばかりですが、収入の柱が2本になったことで、今後は収入も安定してくると見込んでいます。
新商品スイーツ「えごまる」を発売
――2023年に発売された自社商品「えごまる」が誕生した経緯を教えてください。
きっかけは、昨年結婚した妻です。妻はお菓子作りが趣味で、「エゴマを使ったお菓子を作ってほしい」とお願いしたところ、ビスケットやフロランタン、クリームサンドなど10種類ほど作ってくれました。それがどれもおいしくて、販売できれば若い世代にもエゴマの魅力を知ってもらえる良い機会になるのではと考えました。
そこで、事業者の販路開拓などをサポートする公益社団法人福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)に相談に行き、商品開発へ具体的に動き始めました。まず、商品開発の専門家として生産者直売のれん会さんを紹介していただき、伴走してもらうことに。チョコやキャラメルとエゴマの相性が良いことは試作でわかっていたので、イメージを伝えると、開発協力者としていわき市で「めひかり塩チョコ」などを販売するいわきチョコレートさんを紹介していただいたのです。そして何度も試作を重ね、「えごまる」が完成しました。現在は道の駅なみえなど県内各地で販売しています。
※えごまるの販売場所は記事の最後で紹介
――今後はどんな展開を考えているか教えてください。
自社の加工品はどんどん売り出していきたいと考えています。現在は相馬市であおさの生産・加工をしている企業と一緒におかきを開発中。スイーツも妻と相談しながら、第二弾の発売に向けて動いています。
地域で大切な関係性づくり
――移住先で新規就農するにあたって、一番気を使ったことは何ですか?
人とのつながりですね。農業を始めた頃から、地域の農家さん同士の交流会や座談会などには積極的に参加するようにしています。そのおかげで、未経験からはじめた農業ですが、周りの人たちに支えてもらい、なんとか続けられています。
――地域の人たちと関係性をつくるための秘訣はありますか?
頼ることかもしれません。一人では不可能なことも、誰かと一緒にやることで、できることが2倍にも3倍にも広がっていくことを実感しました。でも、「頼る」って意外と難しいんですよね。実は、以前は家族にさえ甘えることができないほど、人を頼ることを苦手としていました。でも、移住をして未経験から新しい分野に飛び込んだら、誰かに頼らざるを得ません。自分の弱さや不甲斐なさを受け止めて、できないことは素直に「お願い」と言えるようになったことで、楽になりましたし、町の人たちと良好な関係性をつくれるようになりました。
――独立にあたり、活用した補助金・支援金を教えてください。
現在使わせてもらっている畑は、国の「水田活用の直接支払交付金」を活用して田んぼから畑に転換しました。また、施設整備や機械のリース、資材導入などには「福島県高付加価値産地展開支援事業交付金」を活用しています。
浪江町からの支援も手厚く、心強かったです。2年間は新規就農者支援として、月額10万円の収入補填と月額最大6万円の家賃補助を受けられました。ビニールハウスも、町内での営農再開に向けた取り組みを支援する「立上がる営農等への支援事業」の助成を受け、負担を抑えて設置することができました。
――浪江町で農業をするにあたってのメリットとデメリットがあれば教えてください。
福島相双復興官民合同チームのサポートを受けられることは大きなメリットだと思います。企業とハブ的な役割をしてつなげて下さるので、できることの幅が広がります。町の先輩農家さんたちもとても親切で面倒見がいいので、安心して新規就農できる環境だと思います。
1つデメリットを挙げるとすれば、人口が少ないことです。近くに大きなスーパーなどの販売先があれば野菜が売りやすいのですが、遠方の市場へ持って行く運送コストが必要になります。
――今後チャレンジしたいことを教えてください。
農業を始めて痛感したのは「土」の重要性です。良い作物を作るためには、土づくりが欠かせません。そのため、土のお医者さんである「土壌医検定」の資格取得を目指して勉強しています。
土に関する知識を得られれば、より栽培技術を磨くことができますし、自分の後に続く新規就農者にもアドバイスができるようになります。先輩農家さんたちは常に次の世代のことを考えて農業に取り組んでいるので、私もその背中を見習って、次世代にバトンをつなげる一歩として土の勉強から始めていきたいと思っています。
――最後に、福島12市町村で就農を考えている人にメッセージをお願いします。
僕にとっての「この町でどんなことができるか」の答えは、「農業で町を盛り上げていくこと」でした。未経験から始めた農業ですが、人とのつながりがあって今もこうして続けていられるし、作物や土と一緒に自分自身が成長できています。挑戦したい方は、ぜひ一緒に農業で町を盛り上げていきましょう!
■えごまるが購入できる店
・道の駅なみえ(浪江町)
・セデッテかしま(南相馬市)
・双葉町産業交流センター(双葉町)
・道の駅よつくら港(いわき市)
・浜の駅松川浦(相馬市)
・福島県観光物産館(福島市)
・会津武家屋敷(会津若松市)※2024年3月から
大高 充(おおたか みつる) さん
1992年生まれ。福島県白河市出身。2019年に浪江町に移住。NPO法人Jinで花農家修行ののち、エゴマを栽培する石井農園の指導を受けながら、エゴマ栽培に挑戦。2020年にオオタカ農業を立ち上げる。2023年に初めてのオリジナル商品となるエゴマスイーツ「えごまる」を発売。現在は10ヘクタールの畑をチームで管理してエゴマを栽培し、新商品開発にも取り組んでいる。
※内容や支援制度は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ