【企業紹介】病気に強い野菜苗を作る「植物ワクチン接種苗」を先駆けの牽引者として研究・開発・製造
ベルグ福島株式会社 代表取締役 中越 孝憲 氏 2005年、ベルグ福島の親会社であるベルグアース株式会社(以下、ベルグアース)に入社。生産部長、生産本部長などを歴任後、2017年1月にベルグ福島の代表取締役社長に就任。 |
病原性の弱いウイルスを野菜の苗に接種しウイルスへの免疫を持たせることで、より強いウイルスの攻撃から苗を守る「植物ワクチン」。作物の質と量を向上させるだけでなく、病害対策に使用される農薬の量を減らすことができる可能性があるなど、環境や人体へのメリットも大きい。
植物ワクチン接種苗はこの15年ほどの間に国内で実用化が進んできたが、川俣町のベルグ福島株式会社(以下、ベルグ福島)は今、国内において先駆けの牽引者として、その研究及び実用化に取り組む企業として注目されている。代表取締役の中越孝憲氏に話を聞いた。
野菜苗の生育過程を「工場」内で徹底管理
川俣町の中心部から北西へ約3kmの広大な敷地に計18棟の生産施設を有するベルグ福島。施設内では、福島県が全国屈指の生産量を誇るキュウリを始めとした、いわゆる「果菜類」の苗を生産している。出荷数は年間約750万本。中越社長は施設を「工場」と呼ぶが、まさにその様子は苗工場の趣きだ。種をまく段階から、発芽、接ぎ木、生育、出荷まで、工程ごとに生育環境が細かく分けられ、厳格に管理されている。
「私たちの仕事には機械化できない部分が多く、人手がなければ成立しません。一方、川俣町に限らず地方では人口減少が問題となっていますが、そもそも働く場所がなければ減少を食い止めることはできないでしょう。私たちは、町内に働く場所があることをアピールしつつ、福島で育つ野菜の苗を福島で育てることで、復興や町の人口減少対策のお役に立ちたいと思っています」
植物ワクチンの研究体制を川俣町に集約
そんなベルグ福島が今、苗の製造に加えて積極的に研究に取り組んでいるのが、植物ワクチンの開発・製造及び接種苗の実用化である。ベルグ福島の親会社で野菜苗販売大手のベルグアース(愛媛県宇和島市)は、国内で活用されている3つの植物ワクチンの権利を有する株式会社微生物化学研究所(京都微研)からワクチンの製造を移管されており、研究・開発・製造を担っている。2022年には川俣町内の工業団地に研究施設を開設し、グループにおける研究体制を集約。世界初の3種混合植物ワクチン接種苗の実用化のほか、ワクチンの対象作物を広げる研究にも取り組み始めた。
研究施設で開発・製造されたワクチンは、本社工場にて苗に接種される。接種といっても、人のように注射をするわけではない。苗の表面に研磨剤で細かな傷をつけ、そこから弱毒のウイルスに感染させる技術である。2021年時点でのワクチン接種苗の製造はおよそ50万本。これを2028年度には200万本にまで増やす計画を立てている。
生産者の高齢化問題を解決できる技術
中越社長自身も実は移住者だ。ベルグアースに長く勤務後、2017年に社長としてベルグ福島に赴任。遠く離れた地への転勤となったが、抵抗はなかったという。
「ベルグアースの本社も、段々畑のすぐ目の前が海というような、四国独特の平地の少ない環境にあります。若干寒いなと思うことはありますが、田舎には変わりありませんし、こちらに来てからは地元の農業関連のみなさまや商工会の方々が非常によくしてくださるので、不便を感じることなく生活できています」
従業員は80名(2023年7月10日現在)。そのうちほぼ半数は川俣町内在住で、残りの半数は福島市、伊達市、二本松市など周辺自治体から通勤している。フルタイムの従業員に限ると平均年齢28歳と、地元出身の若いスタッフが男女問わず多く在籍しているのが特徴だ。植物ワクチンの研究・開発・製造に関しては、大学で農学や生物学、化学等を専攻した人物が望ましいが、工場勤務に関しては知識や経験を問わず能力を伸ばすことができる。実際、高卒入社の社員が2~3年のうちに現場に欠かせない戦力として活躍している。
中越社長は会社の優位性について、「農業に携わる人たちが高齢化していくにつれ、今まで自分達で作れたはずの苗が作れなくなるケースが増えていくのは間違いない。その課題を大きく解決できる技術は当社ならではのもの」と自信を示す。ベルグアースグループの東日本の拠点として先進的な取り組みを推進しつつ、農業立県でもある福島だからこそ得られる生産者との密接な関係性を活かして課題解決に取り組み、地元の人々に身近に感じてもらえる企業でありたいと語った。
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■ベルグ福島株式会社
野菜苗の生産販売・農作物の仕入販売・農業資材の仕入販売を手がけるベルグアース株式会社のグループ会社として2014年に設立。接ぎ木苗生産技術・人工光育苗技術・植物ワクチン接種苗製造技術を活かし、福島のほか東北・北海道・関東の野菜産地に向けて野菜苗を生産・販売している。
住所:〒960-1408 川俣町大字羽田字宇曽利田10-1
URL:https://r.goope.jp/berg-fukushima/
※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩