移住者インタビュー

広野町でお惣菜弁当屋を開業。家族の近くで料理を通して人を助けたい

2023年8月9日
広野町
  • 夫婦

  • 移住のきっかけ
    浜通りで暮らす家族の近くで暮らすため
  • 広野町でお惣菜弁当店を営むうえでのやりがい
    食事を通してさまざまな人の喜ぶ顔を見ることができる
  • 広野町で開業して良かったこと
    自分たちのことを応援し、成長を喜んでくれる人がいる

2023年3月、広野町にオープンした「惣菜弁当 KIYA 広野町(以下、KIYA)」。東京から移住した福島県相馬市出身の店主・蛯原宏行さんと神奈川県出身の妻紀子さんが営んでいます。お弁当は、宏行さんが作る30種類以上のお惣菜を自由に選べるスタイルで販売。店内のイートインスペースでは、紀子さんによる季節で内容が変わる工作などのワークショップも楽しめます。

移住を決断してからも、物件探しで難航するなど一筋縄にはいかなかったというお二人。短くはない検討期間を経て、広野町に移住された経緯やお店を営むうえでのやりがいをうかがいました。

毎日の食卓をお惣菜で手助けしたい

――広野町に移住してくる前はどんな仕事をされていたのですか?

宏行さん 私は25年間お弁当屋さんに勤めていました。小学生ぐらいのころから人の喜ぶ顔を見るのが大好きで、困っている人の手助けになるような仕事をしたいなと思っていたんです。お弁当やお惣菜は家事や仕事で忙しい時の助けになるだろうし、人と関わることが好きな自分にもピッタリです。

紀子さん 私はデイサービスセンターで働いていました。介護士として利用者さんの生活をサポートしながら、美術系の大学に通っていた経験も活かして塗り絵や工作など手を使うレクリエーションの企画も担当していました。

現在のお店でも、子どもから高齢者まで性別問わず楽しめる工作などのワークショップを開いています。手を動かしながらおしゃべりをしていると、お買い物中にはできないような話で盛り上がることもあって、お客さんとの距離が縮まるきっかけになるのも嬉しいです。

取材した6月は、紀子さんが梅雨の時期に合わせて作ったカタツムリ

――宏行さんが料理担当なんですよね。メニューはどのように考えているのでしょうか?

宏行さん KIYAのメニューは日によって変わります。目の前にある材料を見て、常連さんを思い浮かべながらメニューを考えています。定番メニューの「じゃが煮(じゃがいもの煮物)」やから揚げなど決まって用意するものはありますが、それだけでは飽きてしまう。毎日来てくれる人が喜んでくれるものなら、すべてのお客さんにとって嬉しいメニューになるはず。今日は何を作ろうかなとイメージする時間がとにかく楽しいんですよね。

お弁当の中身はメイン2種類・副菜4種類を自由に組み合わせられる

――お客様はどんな人が多いのですか?

宏行さん 地元の方はもちろん、単身赴任で広野町に来ている方や部活動の練習試合で来た方にも多くご利用いただいています。Google Mapにお店の情報を登録したことが開店時に最初に行った広報で、それで見つけてもらうことが多いですね。コンビニやインスタント食品を選びがちだった人にも、手作りのお弁当を食べてもらえることが嬉しいです。

難航した店舗の物件探しを経て移住

苦労話も笑いながら話す宏行さんからは、明るいお人柄がにじみ出る

――広野町に移住された経緯を教えてください。

宏行さん 私は福島県相馬市の出身で、進学で上京しました。それ以来ずっと東京で暮らしていたのですが、いつかは福島に戻ろうという気持ちは持っていました。移住を決めてから5年ほどインターネットで調べたり、まちを歩いたりしながら相馬市と妻の両親が移住したいわき市の間の場所で弁当惣菜店を営業できる物件を探したのですがなかなか見つからず、ようやく見つけたのが広野町の物件だったのです。

お店は国道6号沿いに位置し、車からも見つけてもらえる場所だったことも決め手に

――移住はスムーズに決断できたのでしょうか?

紀子さん 実を言うと私は最初、移住に反対でした。仕事を辞めなければならないし、友達もいないところに行くのは気が進まなくて……。

でも、母が病気で倒れてしまったことをきっかけに状況も気持ちも変わりました。東京からいわき市に2~3ヵ月通いながら介護していたのですが、なかなか大変で。そのタイミングで宏行さんがこの物件を見つけ、移住することを決めました。母が「福島に来て」って、私たちのことを導いたのかなって思います。

紀子さんのやわらかい笑顔と穏やかな口調は、周囲を和やかにしてくれる

――広野町に移住してからの暮らしはいかがですか?

紀子さん 介護が必要な母の近くにいられるし、父とも頻繁に会えるようになりました。相馬にいる宏行さんのお義母さんのところにも、ドライブをしながらお土産を買って会いに行くのが楽しみなんです。これまで離れて暮らしていた家族との時間も大切にできる、願っていた暮らしができるようになりました。

宏行さん 東日本大震災があった時、地元が大変な状況なのに自分は何もできず、もどかしさを感じていたので、浜通り地域で人の役に立てているのは嬉しいです。母も高齢なので何かあったときに駆け付けられる安心感も持てました。

周りが見守り、応援してくれるこのまちで

――広野町でお店を始めて良かったと思うことはどんなことですか?

宏行さん オープン前から私たちやお店のことを気にかけてくれる人たちがいて、本当に助けられました。

なかでも町内にある「多世代交流スペースぷらっとあっと」の青木裕介さんは、移住してきて一番始めに声をかけてくださった方でした。周りの人にお店を勧めてくれたり、よく食べに来てくれたり、本当に良くしてもらっています。広野町暮らし相談窓口「りんくひろの」相談員の大森博隆さんにも、東京で移住を検討している頃からお世話になっていますよ。開業にあたって知っておきたい、町の人通りの状況を聞いたり、開業資金の相談ができる地元の信用金庫を教えていただいたりしました。新しいことに挑戦する私たちを温かく見守り、成長を喜んでくれていて、こちらも嬉しいです。

――最後に、これからどんなお店にしていきたいか教えてください。

紀子さん KIYAに集まった人たちで一緒にごはんを食べたり、交流できる場所にしたいです。前職でも、世代を越えた人たちで交流しながら食事をすることを喜んでもらえることが多かったので、同じようなことができたらと思います。

宏行さん オープンして約4ヵ月。ありがたいことに、売り上げは開店当初の想定以上に伸びていますが、もっとたくさんのお客さんに来てほしいのが本音です。これからはより多くの地元の人に利用してもらえるように頑張りたいです。

気取ることなく、子どもからご年配の方まで世代問わずお店に来てもらえるのが弁当惣菜店の好きなところ。広野町唯一の保育施設「広野町こども園」とも、一緒に何かできないかと話しています。お医者さんではないけれど、自分の作る料理で困っている人を救えたら嬉しいですね。


■惣菜弁当 KIYA 広野町
住所:広野町広洋台2-1-13
TEL:0240-23-7473
営業時間:10:00〜19:00
定休日:日曜・祝日 ※お弁当は休日も受付
Instagram:https://www.instagram.com/souzai_bento_kiya/

蛯原宏行(えびはら ひろゆき)さん・紀子(のりこ) さん

福島県相馬市出身の宏行さん(1966年生まれ)と、神奈川県横浜市出身(1969年生まれ)の紀子さんご夫妻。東京で出会い、結婚。2023年2月に東京から広野町へ移住し、2023年3月に「惣菜弁当 KIYA 広野町」をオープン。宏行さんはオープニングスタッフとして入社した弁当屋に25年間勤務。和洋食から中華料理まで、さまざまな料理を身につける。紀子さんはワークショップも行っている。

※内容は取材当時のものです

文・写真:蒔田志保