移住者インタビュー

最先端のトマト養液栽培で、楢葉町での就農を応援

2023年2月28日
楢葉町
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約1ヘクタールの広大なハウスに、整然と植えられた約2万3,000株のトマト苗。2020年に楢葉町で創立された株式会社ナラハプラントファクトリーのトマト養液栽培現場です。

「復興を目指す町に貢献したい、その気持ちが一番でした。一緒に楢葉町のトマトブランドを盛り上げてくれる農家さんが増えることが夢です」

今回は代表取締役の青木浩一さんに、事業立ち上げの経緯や現在の事業内容、雇用就農の実態などを伺いました。福島12市町村内での就農を検討している方はぜひ参考にしてください。

トマト農家の力になりたい。キャリアを生かして町の復興にチャレンジ

青木さんはいわき市出身。農業を次世代に受け渡す担い手になりたいという思いから、いわき市の農事組合法人大野水耕生産組合に入社し、トマト養液栽培の知識と経験を積んでいました。そうしたなかで起きた東日本大震災。知り合いの農家が経営再開を断念したり、風評被害に悩んだりしている姿に胸を痛めたといいます。

2017年のある日、楢葉町が実施した公募型プロポーザルが青木さんの目に留まりました。楢葉町で大規模なトマトの養液栽培を行っていた事業者が経営再開を断念したため、町が栽培施設を買い上げ、再稼働する事業者を募るという内容でした。

「これだけ大きな施設の再稼働に成功すれば、地域の農業の大きな柱となります。私が今まで培ってきた経験や知識を町の復興に生かすことができ、さらに楢葉町のトマト栽培が盛り返せば浜通りエリア全体の農家の力になる。そんな思いからプロポーザルへの応募を決意しました」

青木さんが町へ提出した事業計画書には、栽培方法に加え、楢葉町のトマトが市場で認められるための明確なビジョンが盛り込まれていました。

「計画のなかで一番力を入れたのは、流通方法でした。再稼働する施設の広大な栽培面積を生かせば、年間を通して大規模な出荷量を確保できます。そこで事業計画には、前職でつながりのあったサンシャイントマトグループの流通網に乗せてトマトを出荷する案を盛り込みました。それによって安定した販売先を得られますし、サンシャイントマトグループはさらに流通網を拡大しやすくなります」

さらに青木さんは、農業管理の基準であり、安全性と品質の証明をロゴマークとして表示できるJGAP認証の取得も視野に入れていました。目に見える安全性の担保が、風評対策に役立つと予想したからです。プロポーザルには複数の応募があったなか、青木さんの提案が採択となり、事業準備段階へ進むこととなりました。

農業未経験者を中心に乗り切った創業期

施設の工事は業者の協力もあって急ピッチで進められ、震災ですっかり傷んでしまったハウスを一新。水質のよい地下水をくみ上げることに成功し、最新の養液栽培設備も搭載され、着々と準備は整っていきました。

一方、創業準備でもっとも苦労したのは、人材の確保だったと青木さんは振り返ります。

「事業を稼働するためには15人ほどの職員が必要でした。町内は住民帰還率がまだ低い状態だったため人材が集まりづらいだろうと予想し、早い段階からあらゆる手段を講じました。求人はハローワークだけに頼らず、民間の求人チラシも活用。そして外国人人材を活用するため、技能実習制度や特定技能制度の導入も必要になるだろうと、早々に行政機関と調整を進めました」

求人において重視したのは、経験よりも“熱意”でした。復興に関わりたい、地域振興の力になりたい、農業に携わってみたい。さまざまな熱意を持つ人材を募った結果、農業未経験者を中心として想定人数の職員を集めることに成功。町の期待を一身に背負った計画だったため、「あの時は心底ほっとした」と青木さんは思い返します。

こうして、プロポーザル採択から2年たった2020年5月に「ナラハプラントファクトリー」がオープンしました。

事業が走りだした後は人材育成が課題になりました。事業1年目は栽培準備と育成を同時に行う必要があり、未経験職員の教育は負担が大きかったそうです。それでも青木さんやトマト養液栽培経験のある職員が丁寧に指導にあたり、2年ほどで習熟した職員が増えていきました。

現在、ナラハプラントファクトリーでは4作目のシーズンを迎えています。習熟した職員を一人でも多く育て続けることが、会社の課題だと青木さんはいいます。

トマトの栽培には「養液栽培の技術」と「人の目」が必要

ハウス内の環境はシステムによって制御され、パソコン上で管理できる

ナラハプラントファクトリーのトマト養液栽培では給液や施肥管理などの作業が自動化され、温度や湿度もシステムで制御。安定した栽培環境で苗は力強くつるを伸ばし、みずみずしい大玉トマトを実らせます。

トマト養液栽培の最大のメリットは収量と食味の安定が望めること。ナラハプラントファクトリーのトマト収穫期は9月下旬から翌夏7月まで。一般的な露地栽培のトマトよりもはるかに長く、約10カ月ものあいだ収穫ができます。安定した収量は、栽培環境をシステム制御できる養液栽培だからこそ実現可能。加えて、冬の日照時間が長く、降雪が少ない浜通りの気候もトマトの生育を助けます。

主要栽培品種「りんか」は、酸味が少なく、しっかりとした果肉が特徴の生食用トマト。年間を通して安定した食味のトマトを一定量出荷できるナラハプラントファクトリーは、今やサンシャイントマトブランドの流通量を支える存在となっています。

選果機を使って選別されたトマトを箱詰めする様子

この大規模栽培を支える職員は16名。うち4名はインドネシア出身の特定技能外国人です。5年間の就労期間を終えた後はトマト農園を経営する夢をもつ職員もいて、勤勉な姿勢に青木さんは感心させられるといいます。

地元から採用した職員は、楢葉町町内だけでなく、いわき市・大熊町・富岡町・広野町など、浜通り地方の各市町村から通勤しています。年齢は30代~60代と幅広く、ほとんどが農業経験ゼロからのスタート。それぞれが自分なりの作業目標を設定し、達成を喜び合う和気あいあいとした職場です。

ハウス内にはコンテナごと昇降する収穫レーンが敷かれ、作業者の足腰の負担を軽減

「先輩職員からの丁寧なサポートがあるため、未経験者でも心配なく就農できる環境だと思います。一方で、農業ならではの作業環境が合わないという人がいるのも事実です。例えば夏場のハウス内の気温は40度近くになりますし、トマトという生き物を扱う仕事のため、長い休みは取りづらくなります。未経験者の場合、1シーズンの作業をひと通り経験したタイミングで、農業という仕事が自分に向いているかを考え直すのがいいと思います」

農業におもしろさを感じ、長く勤め続けてくれる人材は会社にとって貴重です。どんなに栽培方法がスマート化しても、トマトの状態を的確に判断するには職員の習熟が必要だといいます。

「ハウス内の環境は機械制御されていても、トマトの生育は天気や自然の変化などに少なからず影響を受けるため、人の目による判断が不可欠です。トマトの病気の予兆を早期に発見できれば対策を施せますし、収穫のタイミングは必ず色味で判断します。初めはできなくても、社内で丁寧に指導しますので、勤め続けているうちに必ずできるようになります。こうして得られた知識や技術は、いずれは会社を巣立つことを考えている方に役立ててもらってもよいと思っています。農家としての独立や、6次産業化に携わる仕事に就くなど、キャリアを生かせる道はナラハプラントファクトリーの外側にもたくさんあるでしょうから」

もともと楢葉町は農業が盛んな町です。楢葉町は就農を希望する移住者を対象にした独自の支援策も行っています。これらをうまく活用し、一緒に楢葉町の農産物ブランドを盛り上げてくれる仲間が増えることを青木さんは願っています。

若者の就農を雇用の面から後押ししたい

採りたてのつややかな大玉トマトは地元でも人気

ナラハプラントファクトリーで収穫されたトマトのほとんどは市場に出荷されています。一方で、自社直売所や道の駅ならは、イベント出店などで地域の消費者とコミュニケーションを取りながら販売される機会もあります。

「『おいしいトマトを作っていますね』と、わざわざ声をかけてくださる地元の方もいてありがたいです。認知度が徐々に上がってきていることに喜びを感じています」

現在では大玉トマトに加えて、中玉トマトの栽培や、休耕期の育苗ハウスを活用したいちご栽培にも挑戦しているナラハプラントファクトリー。一連の取り組みの成果を、地域の農業に還元していきたいと青木さんはいいます。

「現在は資材高騰などで新規参入が厳しい情勢ですが、いずれは楢葉町内でトマト栽培が広がってほしいと思っています。私もナラハプラントファクトリーを立ち上げた経験を生かし、人材確保などに役立つ支援策を町に提案していきたいです」

最後にこれから就農を考える方へのメッセージを伺いました。

「私は農業の“頑張った先に見返りがある素直さ”が好きです。考え方や価値観が合えばとても魅力のある仕事ですので、まずは現場へ見学や研修に来て、農業のおもしろさを体感するのがおすすめです。相談先は福島県や楢葉町でも、ナラハプラントファクトリーでも構いません。当社では1日でも1週間でも可能な限り見学や研修を受け入れています。現場に来れば空気感を肌で感じられますし、職員のリアルな話を聞くこともできます。まずはハードルを高く考えず、気軽に相談してください」

楢葉町産トマトのブランド化によって、就農を希望する若者が増えることを願う青木さん。新たな就農希望者を迎え入れる土壌作りは、着々と進んでいます。


■株式会社ナラハプラントファクトリー
住所:〒979-0606 福島県双葉郡楢葉町大字上繁岡字中原17-2
TEL:0240-23-5903
FAX:0240-23-5904
E-mail:naraha_pf.first@outlook.com

■楢葉町の就農支援制度
▼楢葉町新規就農者賃貸住宅家賃補助事業
新規就農者や農業法人へ就職する人、または農業研修で町に長期滞在する人に向けて、賃貸住宅の家賃月額の1/2(上限2万円)を補助する。

■「未来ワークふくしま」に就農支援の特集ページが開設されました!
https://mirai-work.life/agri12/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度については各自治体のホームページをご確認いただくか移住相談窓口にお問い合わせください。
取材・文:橋本 華加 撮影:中島 悠二