移住者インタビュー

楢葉町をサツマイモの産地に!農業女子が挑む福島再生への取り組み

2023年1月18日

福島県浜通りのほぼ中央に位置する楢葉町。東日本大震災で壊滅的な被害にあった海岸エリアには今、一面にサツマイモ畑が広がっています。

「ここを日本でも有数のサツマイモの産地に育て上げることが私たちの目標です」と話すのは、株式会社福島しろはとファームの農業Divisionの課長、瀧澤芽衣さん。復興からの発展を目指し、農業で地域を元気にしたいと奮闘するひとりです。

茨城県から楢葉町に移住し、仕事にも子育てにも全力投球する瀧澤さんに、仕事のやりがいや今後の夢についてお話を伺いました。

日本の農業に革命を起こしたい

瀧澤さんが農業の魅力に触れたのは小学生の時。夏休みに熊本県でスイカ農家を営む祖母の家へ遊びに行き、農作業を手伝うのが楽しみでした。高校生になると、テレビで日本の食料自給率が40%台から30%台に落ち込むというニュースを見て、「日本の農業ってヤバいかも……」と衝撃を受けたそうです。農業に対して問題意識を持つようになった瀧澤さんは、2011年に明治大学農学部へ進学しました。

しかし、大学で農業を学べば学ぶほど、思っていた以上に農業が抱える課題の深刻さを実感。「どうやったら日本の農業は変えられるのだろう?」と、絶望感を抱いたそうです。

「農業に革命を起こしたい」と考えた瀧澤さんは、就職活動で「6次産業化」という一つのキーワードに出会います。生産から加工、販売までを一貫して行う6次産業化に取り組むことで、日本の農業に新しい風を起こすことができるかもしれない……。そこで、「日本の農業をステキにしよう!」を合言葉に、サツマイモの栽培・加工・販売を手掛け、サツマイモスイーツ専門店「らぽっぽファーム」を全国展開する白ハト食品工業に就職を決意。業界に先駆けて6次産業化を推進する企業の一員として、農業の改革に挑んでいます。

サツマイモで福島の未来を作る

入社して最初に手掛けたのが、茨城県行方市にある農業体験型テーマパーク「らぽっぽ なめがたファーマーズヴィレッジ」の立ち上げです。

瀧澤さんは耕作放棄地の開墾、サツマイモ農園の運営のほか、土に触れることを通して農業や食への関心を深めてもらう農業体験の企画、グランピング施設の計画など、寝る間を惜しんで業務に取り組みました。その仕事ぶりが認められ、入社2年目には現場リーダーに抜擢されたそうです。

「らぽっぽ なめがたファーマーズヴィレッジ」は、原発事故による風評被害を受けた行方市の農家や農作物を救うため、地元の農業協同組合であるJAなめがたしおさいと連携して設立されたものです。「安全はデータで示せても、安心は体感しないと得られない」という考えに基づき、じかに土と触れる体験を大切にしてきました。ただ作物を提供するだけではなく、消費者が育てて、食べて、学んで、体感するという新しい農業の価値を創り出し、全国から注目されることとなります。

その後、「福島県でも同じようなことができないだろうか」と相談を受けたことから、楢葉町でのファーマーズヴィレッジプロジェクトが始まりました。

楢葉町の農業を復活・発展させたいと熱意を持った町と協力し、2017年から荒れ果てた田畑を耕してサツマイモの試験栽培を開始。しかし、「まだ行方市のようなテーマパークを造る段階ではない」と瀧澤さんは話します。

「観光施設を造ったところで、産地としての強みがなければ意味がありません。私たちは、まずしっかり土壌を作って、楢葉町がサツマイモの産地と認知してもらえることを目指しています」

入社5年目で白ハトグループ全体の生産ほ場の統括者となった瀧澤さんは、2020年、楢葉町を拠点とするグループ企業・株式会社福島しろはとファームに転勤することとなります。

楢葉町へ移住することへの葛藤

しかし、転勤と結婚、出産という人生の一大イベントが計らずも同時期に。社内結婚した夫と話し合いの末、夫婦で楢葉町に赴任することを選択したそうです。

「正直、初めての出産で住環境まで変わることはとても不安でした」と瀧澤さんは振り返ります。

「原発事故のこともあり、福島に移住することはお互いの両親から反対されました。もちろん私たちも悩みましたが、最終的には夫と相談して自分たちで決めました。この決断が正しかったのかは今でもわかりません。でも、子どもにも、福島で取り組んでいる仕事には意義があるんだという背中を見せていきたいと思っています」

この取り組みは、楢葉町や福島県が復興・発展を遂げるために肝となるはず。強い信念を持って移住を決断しました。

そんな瀧澤さんですが、「子どもとのかけがえのない時間も大切にしたい。仕事を辞めるべきか迷うこともあった」と母親の顔をのぞかせます。出産後、1年間の育休を経て復職。職場復帰から3ヵ月がたった現在、目の回るような忙しさのなかでも、子どもとの時間を犠牲にしないよう日々のやりくりを試行錯誤しているそうです。

「今は仕事をこなすことで精いっぱいですが、保育園の行事には積極的に参加をして、地域の方やママさんとの交流を積極的に図っていきたいです」

目標は年間1,500トンの生産

福島しろはとファームのミッションは、安心安全な苗づくりからサツマイモ生産を行い、日本有数の生産地に育て上げ、楢葉町の地域創生を図ることです。そのために、畑を50ヘクタールまで広げ、年間1,500トンのサツマイモを生産することを目標としています。

1,500トンのサツマイモを収蔵できる貯蔵庫「楢葉おいも熟成蔵」では、キュアリング室を完備。収穫時に傷ついた芋を、高温多湿の条件下において傷口にコルク層を形成させ、腐敗を防ぐのだそうです。温度・湿度を管理し、貯蔵期間を延ばす処理を行うことで、いつでも常に一番おいしい状態のサツマイモを全国に供給することができます。

ここで熟成させたサツマイモは、サツマイモスイーツの原料になるほか、道の駅ならはで販売されたり、今後は地元のスーパーに出荷することも検討されているそうです。

「おいもって、人をほっこり癒やして元気にしてくれる力があるんですよね。ですから、この町を明るく照らす力もあると思うんです。震災の記憶を受け継ぎながら、新しい取り組みも始まっているということを全国の方に体感してもらえるような場所にしていきたいです」

だからこそ、サツマイモの産地化は絶対に達成するべき目標だと瀧澤さんは語気を強めます。

「その場所で何をしたいのか」目的を持つこと

「移住後の生活に不便はないですか?」と尋ねると、「車があればなんとかなります」と笑う瀧澤さん。

「今の時代、働き方も多様化しているし、都会でしかできないことって少ないと思うんです。インターネット上で何でも購入できる時代だから、移住に対してのハードルは以前ほど高くないはずです」

ただ、「移住を目的にするのではなく、その場所で何をしたいのか、しっかり目的を持つことが大切」と語ります。

「やり遂げたいことがしっかり定まってさえいれば、どんな場所でも楽しく過ごせるのではないでしょうか。私たちも町の人や仲間と思い描くビジョンを共有して、実現していくために日々励んでいます。達成できたら、人生をかけてこの仕事をしている意味があると思えるんです」

仕事に誇りを持ち、子育てにも奮闘する瀧澤さん。「どこにいても、自分次第で楽しい場所にできる」と語る瞳の輝きは、この町の未来を明るく照らす希望に感じられました。

■株式会社福島しろはとファーム
https://www.shirohato.com/FUKUSHIMA_NARAHA/

■株式会社福島しろはとファーム求人情報
https://shirohato-naraha.jbplt.jp/

瀧澤 芽衣(たきざわ めい) さん

神奈川県出身。明治大学農学部卒業。2015年、白ハト食品工業株式会社に入社。茨城県行方市で「らぽっぽ なめがたファーマーズヴィレッジ」の立ち上げから企画・運営までを担当。入社から5年目で白ハトグループ全体の生産ほ場統括者として活躍。2020年、転勤で福島県へ。同僚と結婚し、2021年には第一子を出産。現在は、2019年に創業したグループ系列会社である株式会社福島しろはとファームの農業Division課長として、視察の受け入れや広報などを担当するほか、「らぽっぽ なめがたファーマーズヴィレッジ」の運営にも携わっている。

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:奥村 サヤ 撮影:中島 悠二