生活・その他

【震災から15年】移住者を含めた地域住民と双方向の対話を。廃炉情報誌『はいろみち』が発信する廃炉の今と未来

2025年10月29日
大熊町

福島12市町村は、2011年に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難指示が出された地域です。震災からまもなく15年。東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力)では、廃炉に向けた作業を続ける一方、廃炉に対する近隣住民への理解を深めるためのさまざまな取り組みも続けています。その一つが、廃炉情報誌『はいろみち』の発行です。今回は、その『はいろみち』を起点に、廃炉に向けた東京電力の取り組みとその想いをご紹介します。

「地域により届きやすいメディア」を目指し発刊

『はいろみち』は東京電力の社員が直接編集に関わる隔月発行の廃炉情報誌です。第1号の発行は2017年。既存メディアを通じた発信だけでなく、地域に直接届くかたちで情報を発信し、安心・安全に取り組む活動に少しでも理解と関心をいただきたい。そんなアイディアから生まれたといいます。

東京電力が発行する『はいろみち』表紙(東京電力提供)

2023年から『はいろみち』の編集を担当する三瓶哲世(さんぺい あきよ)さんは神奈川県横浜市の出身。1995年の入社以来、神奈川県内で勤務してきましたが、勤続27年目で初となる県外勤務地が福島第一原子力発電所でした。神奈川時代は営業所での窓口対応や太陽光発電の新設受付などが担当業務の中心。『はいろみち』のような広報業務は初めての経験でしたが、今では『はいろみち』編集の中心的存在として、発電所内はもちろん、近隣地域も飛び回りながら編集作業にあたっています。

「東京電力では、震災後まもない時期から今日まで、発電所周辺地域の復興推進活動を継続しておこなっています。帰還困難区域の除草や掃除、地元のお祭りやイベントへの協力などに加え、大熊町と浪江町では毎月1回、地域の方と対話会も開催しています。『はいろみち』はそうしたイベントで配らせていただいているほか、周辺市町村では市町村の広報誌と一緒に各ご家庭に配布しています」

『はいろみち』の編集に関わる社員は4名(2025年10月現在)。デザインを担当する外部の制作会社のスタッフも含めたメンバーで作られています。誌面は表紙を含め全8ページ。廃炉の進捗や技術的な解説、若手社員へのインタビューなどで構成されています。

「取材の内容によっては我々編集スタッフも全身防護服を着て廃炉の現場まで入っていきます。『はいろみち』のタイトルのとおり、まさに自分が廃炉の歩みの途上にいるのだと実感しながら編集作業をしています」

三瓶哲世さん

広報活動の一環として地域住民と交流する機会も多いという三瓶さん。震災直後は神奈川県の営業所でもお叱りの電話を受けるケースが少なくなかったと言いますが、福島に来てからは温かい声をかけてもらうことのほうが段違いに多いと話します。

「頑張ってね、長くかかるよね、というお声をいただく機会が非常に多く、ありがたいです。『はいろみち』にはご意見をお寄せいただくためのハガキが付いていて、毎号20~30通の反響をいただきますが、半分以上は“廃炉の状況がわかった”とか“廃炉を身近に感じた”といったご意見で、励みになります」

震災時は7歳。自ら志願し廃炉の最前線へ

震災から時間が経過するとともに会社は世代交代が進み、事故発生後に入社した社員の割合が徐々に増えています。あの日に起きたことを社内でどう伝え、その教訓をどう共有していくかが、会社のこれからの重要な取り組みとなります。

そこで、『はいろみち』では毎号、若手社員を対象としたインタビュー“MIRAI×MICHI”(ミライミチ)を連載しています。そこには、廃炉の未来を担う社員の想いを紹介するだけでなく、廃炉への責任感を次世代の社員へつないでいく意図もあります。

2024年12月に発行された第47号の“MIRAI×MICHI”に登場したのは、2022年入社の上沼栞愛奈(かみぬま しえな)さん。福島第一原子力発電所が立地する大熊町の南隣りの富岡町出身です。震災当時は7歳。自らも事故に伴い避難を経験しました。

「富岡町を離れて県内の体育館で何日か過ごしていたとき、ボランティアの方がおにぎりを作ってくれたり水を配ってくれたりしているのを見て、“かっこいいな”と思い憧れました。中学、高校と進んでもその憧れは変わらず、復興に関わる仕事に就きたいと考えていましたが、高校3年生のときに映画『FUKUSHIMA 50(フクシマフィフティ)』を観て決意が固まり、東京電力への就職を志望しました」

上沼栞愛奈さん

入社後は、福島第一廃炉推進カンパニー 建設・運用・保守センターの「機械部 1~6号機械設備グループ」に所属。5号機・6号機内に滞留する水の処理に使う一時保管タンクの設備改善に従事しましたが、その後異動し、現在は廃炉の現場でおこなわれるさまざまな工事の監理に携わっています。直接現場に入り作業する、廃炉のメイン工程に関わる役割。業務構造をより深く理解し成長したい、廃炉の中核的な作業に携わりたいとみずから志願したそうです。

工事は、1~2ヵ月程度で終わる小さなものから1年間にわたるような大きなものまでさまざま。30年とも40年ともいわれる廃炉作業は、それら一つひとつの工事の地道な積み重ねによって達成されます。

「工事の始まりはけっこうしんどいんです(笑)。作らなくちゃいけない資料は多いし、工事に入る企業の方とさまざまな調整もしなきゃいけないし。それらを全部整えて、問題がないかがしっかり確認できてから、やっと作業が始まります。でも、どんなにしんどい工事でも必ず終わりがあります。その終わったときの達成感が、仕事のやりがいや面白さにつながっています」

打ち合わせ中の上沼さん。職場に女性は1人だけながらポジティブな性格で組織に欠かせない存在に(東京電力提供)

自身が掲載された『はいろみち』を見た上司や同僚から「載ってたじゃん!とからからかわれました」と屈託なく笑う上沼さん。一方、記事を見た地域の方からはうれしい反響があったと三瓶さんが教えてくれました。

「上沼の記事を見て、“当時7歳の富岡の子が大人になって東電で頑張っていることを知り涙が出た”とハガキで感想を送ってくださった方がいて、私も感動しました。原発事故によって皆さんから厳しい目が向けられる環境であるのに、それでもなお東京電力に入社したのはなぜなのか、社外の皆さんは少なからず疑問を感じると思います。しかし、そこには必ずストーリーがあります。“MIRAI×MICHI”に登場する社員は多くが震災後の入社です。少しでも多くの方にそのストーリーを知っていただけたらと思っています」

なお、『はいろみち』はインターネットでも見ることができます。上沼さんが登場した『はいろみち』第47号はこちらよりご覧ください。

移住者を含めた地域住民と双方向の理解を

前例のない、緊張感を伴う作業が続くなかでも、2人はそれぞれに高い目標をもって仕事に取り組んでいます。上沼さんの一番の目標は、人身災害の一切ない安全な現場の実現です。

「工事に関わる立場として、たった一つの人身災害でも起こしてはならないと強く思います。人身災害などのトラブルを起こしてしまえば、地域の方々をまた不安にさせてしまう。それだけは絶対に避けなければいけません。その徹底に加え、今後は、現場を知っているからこそお伝えできる廃炉の状況などを自分なりに発信していけたらと思っています」

三瓶さんは、地域とのさらなる関わりづくりを目標に挙げます。

「地域の方々との対話はどれだけ語っても語りつくすことはないと思いますし、対話がなければ安心・安全への取り組みの理解は広がっていかないと思っています。今後はさらにその点に力を入れていきたいです。『はいろみち』はもちろん情報発信に欠かせないツールですが、そのツールをきっかけに、互いに信頼し合える双方向のコミュニケーションを生み出すことが最終地点ではないでしょうか。それを目指し、もっともっと地域の方とつながっていくことが目下の目標です」

そして、その「地域の方々」にはもともと住んでいた方だけでなく、もちろん移住者の方も含まれると三瓶さんは続けます。

「この地域に移住を検討されている方のなかには、“本当に住めるの?”とか“危ないんじゃないの?”といった疑問をもつ方がまだいらっしゃるのではないかと思っています。そうした方にも、『はいろみち』を通して少しでも現状を伝えていきたい。それもきっと、我々の廃炉作業や復興推進活動に課された一つの使命だと思っています」

廃炉に携わる彼らもまた、帰還した方や移住者と同じ、地域に住む一人。それぞれの暮らしを営みながら、今日も廃炉にまつわるさまざまな作業にあたっています。

廃炉情報誌『はいろみち』はインターネットでも見ることができます。
廃炉情報誌『はいろみち』

■東京電力ホールディングス株式会社 福島第一廃炉推進カンパニー
所在地:〒979-1301 福島県双葉郡大熊町大字夫沢字北原22
HP:https://www.tepco.co.jp/decommission/project/team/

※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:髙橋晃浩