移住者インタビュー

農業で新しいまちづくりに挑戦したい

2022年3月14日
  • 移住を考えるようになったきっかけ
    浪江町に移住した同級生を訪ね遊びに行ったこと
  • 浪江町の魅力は?
    気持ちのよい風が吹くところ
  • これからの目標
    浪江町を農業で引っ張るリーダーになりたい

福島県白河市出身の大高充さんは、浪江町で新規就農しエゴマ栽培に取り組んでいます。もともとは大学で物理を専攻していましたが、未経験から農業の世界に飛び込みました。

同級生の誘いで浪江町を訪れたことを機に町で暮らす人との交流を深め、町を復興させたいという思いに触れたことで、自分もこの地で挑戦したいと考えるようになったという大高さん。農業の楽しさと厳しさを経験し、より一層「若い世代にも農業を広めていきたい」という思いを深めています。

「浪江での暮らしが楽しい」と語る大高さんに、移住を決断するまでの経緯や農業への思い、今後の目標についてお聞きしました。

「農業で町を復興させたい」という思いに惹かれて

――浪江町へ移住を考えるようになったきっかけを教えてください。

東京で暮らしていた大学時代、就職先に悩んでいました。ちょうどその頃、小学校からの同級生である和泉亘君という友人が浪江町に移り住み、ゲストハウス「あおた荘」をオープンさせました。「こんな活動をしているよ」「遊びにおいで!」と何度も誘ってもらい、遊びに行ったことが浪江町を訪れるようになったきっかけです。

その時、ゲストハウスに集まる方たちと交流したり、小学校の運動会に参加させてもらったりする中で、東京の暮らしにはない人のつながりを感じることができ、とても楽しかったんです。浪江の人たちと町が好きになり、その後何度も足を運ぶようになりました。

――移住までの経緯を教えてください。

何度か遊びに行く中で、花き栽培に取り組む「NPO法人Jin」の川村博さんを紹介してもらいました。Jinでは震災後からトルコギキョウをハウス栽培していて、首都圏の市場でも高い評価を受けています。ハウスの中を見学させてもらうと、今まで見たこともないような立派な花々が咲き誇っていて、驚きました。そして、川村さんから「浪江をトルコギキョウの一大産地にして、農業で町を復興させたい」という思いを伺いました。その言葉に感銘を受けて、気付けば「弟子にしてください!」とお願いしていました。

その後、和泉君と同じく地元の同級生の川口直明君も浪江町に移住することになり、2人で研修生兼従業員という形で川村さんに弟子入りさせていただくことになりました。

―― 同級生と一緒に移住するというのは心強いですね。

そうですね。和泉君と川口君と私は同級生であるだけでなく同じ卓球部でもあり、その後も長く親友関係が続いていました。友人と一緒にさまざまな事に挑戦できる環境は本当に楽しいです。

エゴマを使ったオリジナル商品で町を盛り上げたい

――エゴマ栽培はどのような経緯ではじめたのですか?

花き農家として1年間修行をしていくうちに、もっと多くの経験を積みたいと考えるようになり、若い力で浪江の農業を盛り上げようと、和泉君と川口君と3人で農業チーム「なみえファーム」を立ち上げました。

その後、ご縁があって福島市と浪江町でエゴマを栽培する「石井農園」さんのエゴマ栽培をお手伝いするようになり、2021年からは浪江町内で畑を借りて本格的にエゴマ栽培に踏み出しました。

――ところで、大高さんは移住するまで農業の経験はあったのでしょうか?

家庭菜園レベルの経験しかありませんでした。花き農家で修行をしたことで農業に関するある程度の知識は付いていたのですが、ハウス栽培の花きと露地栽培のエゴマでは違った難しさがありますね。ベテラン農家さんたちに手伝ってもらったり、助けてもらったりしながら、試行錯誤を繰り返しています。

――日々どのような農作業をしているのか教えてください。

現在は春の種まきに向けて、主に土づくりをしています。排水性を高めるため畑の内側に堀を作ったり、土の表層と下層を入れ替える「天地返し」をしたり、堆肥を散布したりと、仕事はたくさんあります。

5月下旬〜6月下旬になると育苗と移植が重なるため、4時に起床し、5時には作業を開始します。私が育てるエゴマは、安心して口にしてもらいたいので無農薬で育てているのですが、毎日が雑草との戦いです。現在は、浪江町内の川添地区、加倉地区、藤橋地区の3つのエリアで11ヘクタールを管理しているのですが、植物の成長は待ってくれないので大忙しですね。

――どんなところに農業の楽しさを感じますか?

自然と触れ合えるところです。浪江は海が近く浜風が吹きますが、畑で浴びる風は本当に気持ちがいいです。のんびりとした生活とはいえませんが、一人の作業も多く気楽に仕事ができるところも気に入っています。

――反対に苦労する点はありますか?

やはり天候です。去年は長雨にやられてしまい、苗の発育が悪く苦労しました。天候だけは自分ではどうにもできないので、今年は畑の排水性を高めるなどして対策をしています。

――エゴマを使った商品展開も考えているのでしょうか?

そうですね。仲間たちとは日ごろから「浪江の特産品で町を盛り上げたい」と話し合っていて、エゴマを使ったオリジナル商品で町をPRするきっかけをつくりたいと思っています。

昨年は福島市にある搾油所で搾油を教わり、エゴマ油の搾油に挑戦しました。今年の3月から「道の駅なみえ」で販売され、好評です。今後は若者にも食べてもらえるようなお菓子の開発にも挑戦していきたいですね。

――現在はラーメン屋さんでも働いているとか。

道の駅なみえフードコート内の「麺処ひろ田製粉所」で、店の立ち上げ当初から手伝っています。この店は、和泉君が立ち上げた「株式会社浜のあきんど」と「株式会社たなつもの」が業務提携を結び経営しているラーメン店です。

収穫期は忙しくて手伝いに入れませんが、平日農作業、休日はラーメン屋という生活スタイルで働いています。「農業を黒字化させるには3年は見ておいたほうがいい」とも言われているので、働く場があることである程度収入が確保できるのは安心できますね。

農業で町を引っ張る存在になりたい

――実際に住んでみて感じる浪江町の魅力を教えてください。

まずは気候ですね。過ごしやすくて、気持ちの良い風が吹くところが浪江の一番の魅力だと思っています。それから、人と人の距離が近いことです。浪江には移住した若者たちで立ち上げた「なみとも」という団体があり、私もそのメンバーの一員です。町内新聞を作って地域の人を紹介したり、移住者のサポートをしたり、地域のコミュニティづくりを行っています。困ったときにお互いを助け合える関係性を築けていることがこの町の大きな魅力だと思いますね。

――今後はどんなことに挑戦していきたいですか?

農業でこの町を引っ張っていけるような存在になることが目標です。まずは5年後に農業法人を立ち上げたいと考えています。農業未経験者でも農業で生計を立てられるという成功例となり、若い世代に農業を広めていけたらと思います。私自身が掲げるテーマ「農業から始める新しいまちづくり」に共感してもらい、新規就農者が増えてくれるとうれしいですね。

それから、浪江に移住したきっかけでもあるトルコギキョウの栽培にもまた挑戦したいです。果物も好きなので果樹も育ててみたいし、ベテラン農家さんたちに教わりながらお米の栽培にも挑戦していきたい、やりたいことがたくさんありますね!

――最後に、移住を検討している方へメッセージをお願いします。

浪江町にはチャレンジできる環境があり「自分で何か挑戦してみたい」「起業したい」と考えている方にとても合っている町だと思います。気候も過ごしやすいですし、移住者を受け入れてくれるコミュニティもあるので、安心して暮らせるところが魅力です。 とはいえ、移住は簡単に決断できるものではないと思います。何度も足を運んでみて、その町の人たちと交流して考える時間を持ちながら、その町が好きだと思ったら一歩を踏み出してみてください。

大高 充(おおたか みつる) さん

1992年生まれ。福島県白河市出身。2019年に浪江町に移住。NPO法人Jinで1年間、従業員兼研修生となり花農家のノウハウを学ぶ。その後、石井農園の業務委託を受け、エゴマ栽培に挑戦。2021年にエゴマ農家として独立し、川添エゴマ管理耕作組合を設立する。現在は11ヘクタールでエゴマを栽培し、新商品開発にも挑んでいる。

※内容は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ 写真:中村幸稚