自然豊かな葛尾村で大好きな動物の仕事に携わる
- 出身地と現在のお住まい
佐藤美季(さとう・みき)さん 埼玉県日高市→葛尾村
秋葉絢水(あきば・あみ)さん 茨城県北茨城市→田村市→葛尾村
- 現在の仕事
畜産農家、株式会社牛屋に勤務
- 今後の抱負
ご縁をもらった福島県内で動物に関係する仕事を続けたい
今回は、葛尾村で働く20代の畜産女子お二人のインタビューです。佐藤さん、秋葉さんはいずれも県外出身者。2023年から、高品質の黒毛和牛やメルティシープの商標で知られる羊を生産する株式会社牛屋に勤務しています。決して楽ではない生き物相手の仕事に就くまでの経緯、そのやりがい、村の暮らしなどについて伺いました。
愛情込めて育てた牛をおいしく食べてもらいたい
――現在どんなお仕事を担当していますか?
秋葉さん 牛の飼養管理(餌やり)が中心です。牛は現在、約200頭いますが、繁殖のための牛と肥育(肉量を増やすため太らせること)中の牛では食べるものが違いますし、同じ牛にやる餌も1種類ではないんですよ。最初においしい草と濃厚飼料を食べさせ、ある程度食べたところで次は胃袋を強くするために稲わらを乾燥させたものをやります。これを1日2回。1回2時間近くかかります。
佐藤さん 別の場所には羊の肥育施設がありますし、施設周辺の雑草を食べる「草刈り隊」としてヤギもたくさん飼っているので、そうした動物たちの餌やりもします。それ以外の時間は、日によりますが、肉の加工の手伝いをすることが多いですね。ここで飼っている牛や羊は、郡山にある食肉流通センターで屠畜(食肉用に解体すること)して枝肉にしてもらいます。それを職人のいる自社の加工場で食べやすくスライスして販売するのですが、その過程で計量、パック詰め、箱詰めなどの作業を担当しています。パックした冷凍肉は、葛尾村復興交流館あぜりあの自動販売機でも販売しています。
――仕事のやりがいを感じるのはどんなときでしょう?
佐藤さん もともと動物が大好きでこの世界に入ったので、動物相手に仕事ができるのはほんとに楽しいです。私がやった餌をよく食べてくれたり、ふと寄ってきてくれたり。そんな何気ない瞬間にやりがいを感じます。それに、この牧場では牛の繁殖も手掛けているので、いろんなことを勉強できるのが良いですね。牛の出産なんて他ではなかなか経験できないですから。
秋葉さん 私がいちばんやりがいを感じるのは、自分が餌をやって育てた牛が「いいお肉」になったとき。屠畜した後に肉の格付けが出るのですが、最高のA5がついたりするとめちゃくちゃ嬉しいですね。よく、かわいがっていた動物がお肉になってしまうことをどう感じるのかって聞かれますけど、私に言わせれば、かわいがって育てたからこそ、みんなに喜んで食べてもらいたいんです。
佐藤さん 私もここに入るまでは、自分が育てた動物を屠畜に出すってどんな気持ちなんだろうと思っていたけど、私たちはそのためにこの仕事をやっているわけで。出すまでにたっぷり愛情を注いでいるからこそ、最後は「行ってこい!」という気持ちで送り出せるんですね。
秋葉さん 体が大きい牛って実は危険なんですよ。足を踏まれたら骨折しかねないし、蹴られたりどつかれたりすれば大けが、打ちどころが悪ければ即死もあり得ます。もちろん注意していますけど、身体は毎日アザだらけ。そうやって命がけで育てた牛たちだから、ぜひ「おいしい」って食べてもらいたいです。
遊ぶところはなくても水も星もきれい
――今のお仕事に就くことになった経緯を教えてください。
佐藤さん 私は幼い頃から動物が好き。特にヤギが大好きです。地元・埼玉県の高校を卒業した後は、動物園の飼育員を目指して千葉県の動物専門学校に進学しました。でも、そこで学ぶうちに動物園より牧場に興味が移り、大草原に動物が放牧されていて来場者も動物とふれあえるような場所で働きたいと思うようになりました。施設研修先を自分で探したとき、たまたま葛尾村のヤギの観光牧場を発見。そこで1ヵ月研修させてもらったのがきっかけで、卒業と同時にその牧場の運営会社に就職したのですが、まもなく事情によりその会社を離れざるを得なくなってしまって。動物つながりでご縁をいただいた牛屋に移ることになりました。
秋葉さん 私も最初は動物園の飼育員になりたくて、県立磐城(いわき)農業高校で畜産を勉強しました。そこで牛を育てて競りや品評会に出しているうち、かわいい牛の世話ができる牧場で働きたくなったんです。卒業後はJA福島さくら(福島さくら農業協同組合)に就職し、その子会社が運営する田村市常葉町の牛牧場で働き始めました。ところが3年後、人事異動で事務職に。牧場にいたかった私はどうしようかと悩んでいたところ、たまたま牛屋とご縁ができて転職することになりました。
――同期で年齢も同じお二人はとても仲がよさそうですね。お住まいも近くですか?
佐藤さん 葛尾村内に民間の賃貸アパートはないため、二人とも村営住宅(集合住宅タイプ)に住んでいます。同じ敷地内のA棟とB棟なので、秋葉さんの部屋へたまにご飯を食べに行ったりしてます。
秋葉さん 仕事が終わったあと福島や郡山に遊びに行くこともありますよ。どちらも車で1時間ほどで行けちゃいますから。この会社には同年代の若手が他にも数人働いているし、村内には遊ぶところが何もないからこそ「さあ今から行くぞ!」って、逆に以前より行動力がアップしたような気がします。
――お二人とも県外の出身ですが、初めて葛尾に来たときの印象は?
佐藤さん 私の地元、埼玉県日高市もそれほど栄えていなくて、周りが田んぼなのは見慣れてました。でも、専門学校の研修で初めて葛尾に来たときは、ほんとに何にもないんだなあと。え、お店がない?買い物どうするの?みたいな。研修中は車の運転が不可だったので、一度、店まで片道5キロ歩いたこともあります。でも、埼玉ではぜったい見られないような野生動物を探しながら歩くのは楽しかったですよ。あと、村の人がたくさん話しかけてくれるんですけど、言葉が全然わからなくて戸惑いました。
秋葉さん 私の地元の北茨城市もけっして都会じゃないけれど、いちおう1時間に1本は電車が走ってます。でも葛尾に来たら、駅がない!それはちょっとびっくりしたかな。あと、野生動物がほんとにたくさんいて驚きました。タヌキ、フクロウ、イノシシ、サル、ウサギ、カモシカ、などなど。動物好きにはうれしい環境です。
佐藤さん 実際に暮らしてみて想像とのギャップはないですね。村の魅力はとにかく自然が豊かなこと。夜は星がめっちゃ見えます。
秋葉さん あと、水がおいしいです。ここの牛舎の水は基本的にすべて湧き水。冷たくてきれいな水がいっぱい湧いているんです。
これからも福島で動物にかかわる仕事を続けたい
――今後の目標を聞かせてください。
佐藤さん 二人とも、目下の目標は、ホイールローダーの運転に必要な大型特殊免許を取得することです。
秋葉さん 重量物の運搬に欠かせないホイールローダーが操作できれば、仕事の範囲も広がりますからね。
佐藤さん 長期的には、この先もずっと福島県内で動物に関わる仕事をしていきたいです。もともと動物との「ふれあい」を中心とする観光牧場で働きたかったので、将来その方向に転換することもあるかもしれませんが、せっかくいただいた福島・葛尾でのご縁は大事にしていきたいと思っています。
秋葉さん 私は牛をメインにずっと畜産業に関わっていきたいです。いろんな牧場で働き、いろんなやり方を学ぶのは自分のスキルアップになるので、いずれ別の牧場に移ることもあるかもしれません。でも私もやっぱり福島にとどまりたい。実は地元を離れて福島県内の高校に進学したのも、福島の復興に貢献したいという思いがあったからです。福島県産の食べ物はおいしいよという発信を、微力であっても続けていきたいです。
――葛尾村への移住を検討している方へ一言お願いします。
佐藤さん ここは周りの人がみんなとってもあったかいです。よそから来た人が困っていれば手を差し伸べてくれるし、何も知らなくても助けてくれるし。よく田舎ではヨソモノが排除されるって聞きますけど、そんな実感はまったくないですね。車が少なくて通勤もストレスフリーだし、のんびり暮らしたい人には最高だと思います。
秋葉さん よく言われるように、プライバシーを守るのは少し難しいかもしれません。住んでる家は簡単にバレますし、昨日どこにいたとかも全部バレちゃう。でも、そこで大事なのは開き直っちゃうこと。「そうなんですよ~昨日は○○に行ってたんですよ~」などと応じれば、そこから話が広がって新たな情報が入手できたりします。どこに住んでいるかが知られていれば、逆に非常時も安心。困ったときに助けてって言えばみんな飛んできてくれる人たちですから。
佐藤さん 普段でも「ご飯食ってるか?」といってお野菜を届けてくれたり。そういう距離感をぜんぶ受け入れてしまうことがポイントかな。
秋葉さん 周りがそういう人たちばかりだから、ここならどんな危機でもサバイバルできると思えちゃう。たしかに不便かもしれないけど、逆に、なんでもある都会では経験できないことがたくさん経験できますよ。
佐藤美季 さん
2001年生まれ。埼玉県日高市出身。千葉県の動物専門学校を卒業し、2022年4月、葛尾村に移住。在学中の研修先だった葛尾村のヤギ牧場運営会社を経て、現在は地域おこし協力隊として株式会社牛屋に勤務。
秋葉絢水(あきば・あみ) さん
2001年生まれ。茨城県北茨城市出身。磐城農業高校を卒業後、JA福島さくらに就職して田村市へ移住。JA子会社が運営する同市内の牛牧場で働く。その後葛尾村に移住し、地域おこし協力隊として株式会社牛屋に勤務。
※内容や所属は取材当時のものです。
取材・文:中川雅美(良文工房) 撮影:及川裕喜