移住者インタビュー

培った技術を地元で活かし「復興の輪」が生まれるバーバーを

2022年3月10日
富岡町
  • Uターン
  • チャレンジする人
  • 起業・開業する
  • Uターンのきっかけは?
    理容店が一つもない地元で開業したかった
  • 開業してみてうれしかったことは?
    幅広い年代の方が受け入れてくださった
  • Uターンや移住を検討する人へメッセージ
    富岡町には、みんなで頑張っていこうという雰囲気がある。どこから来ても応援します!

2020年、富岡町にUターンし理容店「BARBER SHOP C.O.R(バーバーショップコール)」を開業した草野倫仁さん。高校まではサッカーに打ち込む毎日を過ごしていました。寮生活で友人の髪を切ったことが楽しかったと言います。その後、サッカーで怪我をしたときに通っていた接骨院の先生との出会いがきっかけで「手に職を付ける」道を選択し、理容師の世界へ。専門学校卒業後、関東のお店で働いていましたが、地元富岡町に理容店が一つもない現状を知り、Uターンし独立・開業しました。

「復興の輪」という意味の込められたバーバーショップ「C(Circle).O(Of).R(Revival)」。ここには、幅広い年代の方が訪れるそう。開業後の経営状況やまちの反応、今後の目標などを聞いてきました。

手に職を付けられればどこででもやっていける

――子どもの頃は地元をどんな場所だと思っていましたか?

当時というより一度外に出てみて感じたことなんですが、友達関係が良かったなと思います。保育園から中学校までほとんどみんな同じ学校に進学していくので仲が良くて、気をつかわずにいられる関係というか。久しぶりに会っても変わらずに話せます。これは小さな町特有かなと思います。

――東日本大震災発生時は何をしていましたか?

当時は中学3年生で、当日は卒業式でした。地元の富岡高校への進学が決まっていたんですが、それが厳しい状況になり、山梨県の高校へ編入することになったんです。家も学校も同時に失ってしまった感覚でしたね。山梨の高校では寮生活だったんですが、まさか自分が寮生活をするとも思っていなくて、環境の変化が大きかったですね。

――山梨にはどれくらいいたんですか?

半年間です。その後富岡高校に戻って来ましたが、当時は部活ごとに分校していたんです。自分はサッカー部で、福島市に学校がありました。福島でも寮生活で、卒業までそこで過ごしていました。

――そこから現在の理容師の道に進んだきっかけを教えてください。

きっかけは2つあります。一つは、寮生活をしていたとき、散髪代を節約するために友達同士で髪を切っていたんですが、自分は切る側になることが多くて、それが結構楽しかったんですよね。

もう一つは、高校3年で怪我をしてしまったとき、通っていた接骨院の先生と進路について話したことです。その先生はもともと楢葉町に自分のお店を持っていたんですが、震災でその場所を離れなければいけなくなったそうなんです。でも、「接骨の技術を身に付けていたから、他の場所でも働くことができている。手に職を付けるのもいいと思うよ」と話してくれました。その話にすごく納得して、自分がやりたいことってなんだろうと思ったときに、寮で友達の髪を切ったときの楽しさを思い出したんです。それに、理美容業界は服装や髪型の縛りがないイメージで、それも自分に合っている気がしました。

富岡町には理容店が一つもなかった

――Uターンするきっかけはなんだったのでしょうか?

いつかは独立したいと最初から思っていました。そして、地元に戻るのは独立する時かなとも思っていました。でも関東で7年間働き、技術や自信が付いてきても、関東でやっていくか地元に戻るか、まだ迷っていました。そんな時、富岡町の現状を両親に教えてもらい、町内に一つも理容店がないことを知りました。それなら自分がやろうと考えたのがきっかけです。

――富岡町の中でも中心部であるこの場所を選んだ理由は何かありますか?

やはり立地の良さですね。ちょうど売り地になっていたのですが、もともとお店が少ないこともあり、建てたらすぐ気づいてもらえると思いました。目にとまりやすければ広告も必要ないかなと思って。

――実際にお店を開いてみて感じたことや、経営状況などを教えていただけますか?

競争率が高くないことがメリットである反面、震災後10年間誰もこの場所でやる人がいなかった理由も何かあると思っていたので、最初はうまくいくか不安でしたし、お客さんが来ない日もあるだろうと覚悟していました。でも、お客さんがゼロだった日は、実はオープン以来一度もないんです。特に土日は朝から夜まで多くのお客さんに来ていただいています。

――きっとまちに住む方々にとって待望のお店だったんですね。実際にどんな声を受けましたか?

「ここができて本当によかったよ」と言ってもらうことが多いですね。髪を切るために車で1~2時間かけて離れた場所に行っていた方も多かったようです。

ここは昔ながらの床屋さんとは少し印象が違うこともあって、年配の方に受け入れていただけるかがちょっと不安だったんですが、雰囲気が落ち着くと言ってくださるご高齢の方もいらっしゃいました。もちろん若い年代の方にもたくさん来ていただいています。

まちのみんなが盛り上げてくれる

――今後の目標を教えてください。

お店はもちろん頑張っていきたいですが、加えてSNSでの発信にも力を入れたいです。人は人に興味を持つものだと思っています。なので、自分が個人で発信することによって「この人は何をやってるんだろう」と興味を持っていただき、それがお店のことや仕事のこと、富岡町を知ってもらうきっかけにつながればいいですね。

――Uターンや移住を検討する方へメッセージをお願いします。

富岡町は「みんなで頑張っていこう」という雰囲気を持っている町だと感じます。例えば、うちのお店の隣には居酒屋やスナックがあるんですが、そこの店主さんたちが「髪を切るならここ」と言ってオススメしてくれるんです。だから自分もお客様に「隣のお店、美味しいんですよ」などと話をします。町の中で口コミが広がっていくんですよね。 だから、移住者の方でも受け入れてもらいやすい環境だと思います。どこから来てもみんなが盛り上げてくれますし、自分も同じように新しい仲間を応援したいと思います。

草野 倫仁(くさの ともひと) さん

1995年、富岡町出身。富岡高校卒業後、理美容業界を目指し専門学校へ進学。埼玉や栃木の店舗で7年間勤務して理容師としての技術を磨き、2020年、独立のタイミングで地元富岡町にUターン。富岡町唯一の理容室となる「BARBER SHOP C.O.R」を開業。

BARBER SHOP C.O.R

https://www.barbershopcor.com/

※内容は取材当時のものです。
取材:髙橋晃浩 文:七海未音 写真:杉山毅登