生活・その他

ふくしま12市町村で東日本大震災を知る

2024年4月24日

福島12市町村のことを知るうえで、東日本震災や東京電力第一原子力発電所(以下、福島第一原発)の事故の歴史は切り離して考えることができません。福島県内にはその歴史と教訓を後世に残すさまざまな伝承施設があり、地域のことをより深く知ることができます。今回は、福島12市町村へ移住を検討する際にぜひ足を運んでもらいたい東日本大震災の伝承施設をご紹介します。

東日本大震災・原子力災害伝承館

東日本大震災や原子力災害について知るのなら、まずは双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪ねてみましょう。ここは世界でも類を見ない複合災害の記録や教訓を後世に伝え、防災や減災、復興に役立てることを目的に、福島県によって作られた伝承施設です。

館内では、シアターや展示などを通して、福島県浜通り地域を中心に震災前の暮らしや震災直後の様子、復興の歩みなどを知ることができます。原発事故直後のまちの状況や過酷な避難の様子を伝える展示からは、当時の混乱が見えてきます。津波の被害を受けた消防車も展示されており、津波の被害がどれほどのものだったのかがよくわかります。

語り部による講話も毎日開催されており、実際に震災や避難を経験した方から生の言葉を聞くことができます。被災体験は、一人ひとり異なるもの。メディアを通してではなく、実際にさまざまな体験をした方の話を直に聞くことで、震災や原子力災害の現実をより深く知ることができます。

実際にその地域で震災を経験していない人も、語り部の話を聞くことでその地域で起きた事を自分事として捉えやすくなります。地域が経験した複合災害の歴史とその教訓を理解しておくことは、復興のさなかにある地域で生活していくうえでも大切なことではないでしょうか。

■東日本大震災・原子力災害伝承館
所在地:〒979-1401 福島県双葉郡双葉町大字中野字高田39
営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:毎週火曜(祝祭日の場合は翌日)年末年始(12月29日~1月3日)。
入館料:大人600円、小中高生300円、未就学児無料
https://www.fipo.or.jp/lore/

震災遺構 浪江町立請戸小学校

津波の被害を実際に見て知りたい場合は、「震災遺構 浪江町立請戸小学校」に足を運んでみてください。

原発事故により全町避難となった浪江町ですが、津波による被害も甚大でした。請戸地区は2017年に避難指示が解除されましたが、津波による災害危険区域に指定され、住居の新築はできず、集落があった場所には今も更地が広がっています。

更地のなかに一つ、津波被害の遺構として残されているのが請戸小学校です。「請戸の暮らしを感じられる唯一の場所として残してほしい」といった住民の声なども踏まえ、2021年から一般公開されており、被災当時のまま残る県内唯一の震災遺構として、津波の恐ろしさを多くの人に伝えています。建物の安全性を保つための補修はしていますが、津波によって流された教室の壁やゆがんだ骨組みは当時のまま。泥にまみれた掲示物やノートパソコンなどもそのまま残されています。

大きな被害を受けた請戸小学校ですが、当時の教職員と児童は自力で何キロも歩いて避難し、津波による人的被害は免れました。その経緯から、「奇跡の学校」とも呼ばれています。全員が約6km先の浪江町役場に避難するまでの経緯は、順路に沿って絵本形式で紹介されています。全員が生き残るため、手をつなぎ助け合いながら必死に逃げた当時の緊迫感が、手に取るように伝わってくる内容です。

2階の教室の黒板には、来訪者や卒業生、取り残されたランドセルなどを回収した自衛隊員などによる寄せ書きがびっしりと書かれています。1人の犠牲者も出さなかった請戸小学校の存在は、津波の恐ろしさをリアルに感じさせつつ、もしものときにどのように命を守る行動をするべきかも考えさせてくれます。

■震災遺構 浪江町立請戸小学校
所在地:〒979-1522 福島県双葉郡浪江町請戸持平56
営業時間:9:30~16:30(最終入館16:00)
休館日:毎週火曜(祝祭日の場合は翌日)。年末年始(12月28日~1月4日)。
入館料:一般300円、高校生200円、小中学生100円、未就学児無料
https://namie-ukedo.com/

とみおかアーカイブ・ミュージアム

住民目線で震災や原子力災害を知りたい方は、「とみおかアーカイブ・ミュージアム」にも足を運んで下さい。

原発事故により全町避難を余儀なくされた富岡町。現在は一部の帰宅困難地域を除き避難指示が解除され、住民の帰還も少しずつ進んでいます。

地元住民の目線で伝えるために富岡町が設置した伝承施設がとみおかアーカイブ・ミュージアムです。震災前の歴史や文化、そして震災後の地域の変化を後世につなげていくことを目的としています。富岡町に限らず、周辺地域の歴史などを知ることもできるので、富岡町以外への移住を考えている人にもおすすめの施設です。

保管されている資料のほとんどは震災後の町から収集されたもので、その数実に約5万点。そのうち約430点を常設展示しています。震災前の商店街の模型や津波被害にあったJR富岡駅の改札、止まったままの時計からは、震災前後の町の様子が浮かび上がってきます。麓山の火祭りの様子や、町民が大事にしていた子安観音像などの展示では、富岡町の歴史や伝統に触れることもできます。

さらに歩を進めると、震災当日の経験や原子力災害と全町避難の記録、住民の目線から避難の様子を描いたシアター映像などの展示が続きます。

津波で被災したパトカーの展示は、とりわけ存在感を放っています。震災当日、町中をまわり最後まで避難を呼びかけ続けた2人の警察官は、このパトカーとともに津波にのまれてしまいました。海水を被ったパトカーの保管は困難で廃棄される予定でしたが、「命がけで町民を守ろうしたパトカーを保存してほしい」という住民からの嘆願書などを受け、保存のための特別な処理を施して展示が実現しました。

とみおかアーカイブ・ミュージアムでは、それまであった日常と、震災後の町の姿を比較することで、複合災害により町が受けた被害をより深く理解することができます。

■とみおかアーカイブ・ミュージアム
所在地:〒979-1151 福島県双葉郡富岡町大字本岡字王塚622-1
営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:毎週月曜(祝祭日の場合は翌日)年末年始(12月29日~1月3日)。
入館料:無料
https://www.manamori.jp/museum/

廃炉について知るなら

東京電力廃炉資料館

福島第一原発では廃炉作業が進められています。「原発事故で被害を受けた地域に移住」というと、家族や友人に心配されることもあるかもしれません。福島12市町村で暮らすのであれば、廃炉に関する正しい理解も必要ではないでしょうか。

廃炉について知りたい人は、まずは富岡町にある「東京電力廃炉資料館」に足を運んでみましょう。ここは東京電力が原発事故後に設置した施設で、事故の記録と反省を踏まえ、その教訓を伝えるために作られました。事故当時の状況や、実際に作業にあたっていた社員の声などが紹介されています。廃炉作業の工程や現在の状況などについても詳しい解説があり、福島第一原発の廃炉の今を知ることができます。

東京電力廃炉資料館では、福島第一原発で現在廃炉作業に従事している人の数を表示している

また、原子力災害後の福島県全体の自然環境について知りたい人は、福島県三春町にある「コミュタン福島」に足を延ばしてみるのも良いでしょう。震災当時の新聞が展示されているなど、震災後の歩みを知ることができます。

移住後は、東京電力が主催する「福島第一原子力発電所視察・座談会」に参加することも可能です。原発敷地内で原子炉建屋の外観などを実際に目で見て、廃炉の状況を知ることができます。また、座談会では、東電社員に直接質問したり、意見交換をしたりできるため、原発事故と廃炉作業について詳しい情報を得る機会になるでしょう。

福島第一原子力発電所視察・座談会のレポート記事はこちら。
https://mirai-work.life/magazine/9337/

■東電廃炉資料館
所在地:〒979-1112 福島県双葉郡富岡町中央3-58
営業時間:9:30~16:30
休館日:毎月第3日曜、年末年始(12月29日~1月3日)。
入館料:無料
予約電話番号:0120-502-957(フリーダイヤル)※予約推奨
https://www.tepco.co.jp/fukushima_hq/decommissioning_ac/

■コミュタン福島
所在地:〒963-7700 福島県田村郡三春町深作10-2
営業時間:9:00~17:00
休館日:毎週月曜(祝祭日の場合は翌日)年末年始(12月29日~1月3日)。
入館料:無料
https://com-fukushima.jp/

さらに知りたいなら

他にも、福島が受けた複合災害の経験を伝承する施設はいくつかあります。

楢葉町にある「ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ」は、サッカーで日本初のナショナル・トレーニング施設として誕生しました。

震災後は東京電力の福島復興本社が設置されるなど、原発事故の復旧前線基地として利用されましたが、2019年4月に約8年ぶりに元の姿を取り戻しました。2021年3月には東京オリンピック聖火リレーのスタート地点になるなど、復興のシンボルのひとつとして愛される存在になっています。館内にはJヴィレッジのこれまでの歴史を振り返るパネルが展示されており、地域とともに歩んできた歴史や、復興拠点からもう一度本来の姿を取り戻すまでの道のりを自由に見ることができます。

楢葉町の復興への道のりを知るには、「みんなの交流館 ならはCANvas(キャンバス)」がおすすめです。楢葉町は原発事故による全町避難を経験しています。ならはCANvasは、避難指示解除後に地域コミュニティを再構築するにあたり、町民によるワークショップで語られた思いを反映して作られました。出会いや交流、つながりなどを作る場所であると同時に、震災の記憶を発信する場にもなっています。「震災の記憶を伝えたい」という町民の思いから、一部の柱には、津波で被災した家屋の柱を使用。また、パネル展示では震災の被害や復興の道のりを知ることができます。

■ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ
所在地:〒979-0513 福島県双葉郡楢葉町山田岡美シ森8
営業時間:6:00~22:00(ショップや施設により営業時間が異なります)
パネル展示の観覧料:無料
https://j-village.jp/

■みんなの交流館 ならはCANvas
所在地:〒979-0604 福島県双葉郡楢葉町北田字中満260
営業時間:9:00~21:00
休館日:毎月第2、第4火曜、年末年始(12月29日~1月3日)。
入館料:無料
https://naraha-canvas.com/

まとめ

福島12市町村の魅力の一つに、東日本大震災による複合災害という困難な状況を乗り越えようという強い意志が地域に根付いていることが挙げられます。地域がこれまで守り伝えてきたものを理解したうえで、地域で暮らす意識を持つことは、福島12市町村で暮らすうえで大切なポイントになります。

福島12市町村への移住を検討している人や、このエリアついて深く知りたい人は、今回ご紹介した施設にぜひ足を運んでみてください。

※内容は掲載時のものです。開館時間などの最新情報は各施設のホームページをご確認ください。
文:五十嵐春菜