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20代の若者が新しいビジネスを考案「南相馬市事業化実現プログラム」

2024年1月24日
南相馬市
  • まちづくり
  • 起業・開業する

南相馬市では、首都圏や関西在住の20代が3か年で同市での事業立ち上げを目指す「南相馬市事業化実現プログラム」を展開しています。今回は、2023年度からプログラムに参加した2期生が、1年目の区切りとして開いた発表会の様子をご紹介します。南相馬市の地域の課題に触れた参加者からは、どんなアイデアが生まれたのでしょうか。

南相馬市事業化実現プログラムとは?

東日本大震災では沿岸部の津波被害、そして原発事故での避難を経験した南相馬市。現在は、新しいチャレンジが育まれる地域として注目を集めています。2020年に全面開所した福島ロボットテストフィールドはロボット・ドローンという新しい産業の開発拠点に、震災以降2016年までの5年間、区の全域に避難指示が出されていた小高区には、コワーキングスペース小高パイオニアヴィレッジを起点に、若い起業家が集まってきています。

そうした土壌のある南相馬市で、首都圏や関西在住の20代が地域の課題を解決する新しい事業の立ち上げを目指すのが、南相馬市事業化実現プログラムです。運営は、南相馬市などを拠点に地方創生事業を行うMYSH合同会社。2023年度から活動を始めた2期生8人は、5人の学生と3人の若手社会人で構成されます。フィールドワークなどを通して地域の課題を肌で感じ、メンターとの伴走で事業アイデアを練り、3か年で事業化を目指します。

2021年度からスタートした1期生6人は今年度、図の「Phase3」に入っています。空き家を活用したシェアアトリエの立ち上げやカフェ、コンサルティング会社などさまざまなアイデアが形になりつつあります。実際に移住して起業の準備をしているメンバーもいれば、すでに法人登記が済んでいるメンバーもいます。

染物店と野馬追が相互に発展できるお土産品

2期生による発表会は2023年12月16日に開催され、門馬和夫市長や南相馬市職員が見守る中で進められました。

先陣を切ったのは、東京都内のブランディング会社にお勤めの齋藤健さんです。南相馬市を象徴するお土産品として手拭い・風呂敷の開発を考案しました。

祖父母が着物の卸業を営んでいたことから、繊維の仕事に興味を持っていたという斎藤さん。注目したのが、相馬野馬追と染物屋との関係性でした。野馬追で掲げられる「旗指物」を染色できる呉服店は、市内で残すところ西内染物店1軒のみだといいます。「ここが廃れてしまうと、1,000年続く相馬野馬追の存続も危うくなるのでは」と考え、相互が発展していける事業として、野馬追をモチーフにした手拭いと風呂敷の開発を考案。手拭いはお土産としても使え、風呂敷は普段のお買い物バッグやお中元などを包むのにも使うことができます。デザインは馬を抽象化したものや家紋をあしらい、流行に合わせながら変えていくそうです。

門馬市長は「相馬野馬追を未来につなぐことは市としても大きな課題。さまざまな産業で成り立っている相馬野馬追を継承するには、野馬追を支えている事業も守らなくてはなりません。さまざまなシーンで使える商品のアイデアはいいですね」とコメントしていました。

移住者に地産地消の魅力を伝えたい

大学4年生の北川睦深さんは、地域の移住者向けに地産地消の魅力を伝えるビジネスの検討を進めています。市内の農家との交流をきっかけに、生産者と直接つながれることに魅力を感じたといい、移住者の多い土地柄を活かし「移住者と地域をかきまぜることでコミュニティや地域への愛着を醸成させ、移住者の定住につなげたい」と話します。卒業後は南相馬市に移住予定で、2024年4月には小高区の小高マルシェで外国籍の移住者向けに生産者の手料理を味わえるイベントの開催準備を進めています。「9月からは週1回、八百屋を開きたい」と展望を語りました。

北川さんが活動を発信しているインスタグラムはこちら
https://www.instagram.com/vegetable_muttyan?igsh=dzE1bHhxdDNiZG96

南相馬から持続可能な農業を発信したい

大学修士課程1年の笠原大靖さんは、「社会的に価値があることに挑戦したい」という思いからプログラムに参加。学校で使われない期間や廃校のプール施設を活用した垂直農業の事業を展望しています。垂直農業とは、水耕栽培などの装置を垂直方向に積み重ねて農産物を生産するもので、笠原さんはプールの貯水機能を活用してトマトや空心菜、リーフレタスの3つを生産予定。「南相馬から持続可能な農業を発信し、最終的には日本の食糧事情に合った安定的な食糧の提供に貢献したい」と語りました。

門馬市長は「南相馬市では2024年度に農業学校を開校するので、市の担当部署にも相談しながら、本市の農業の発展に向けてぜひ研究を深めてもらいたいですね」とコメントしました。

ジビエレザーの循環型ビジネスを確立させたい

大学2年生の鈴木雅也さんは、大学在学中に起業をしたいという思いからプログラムに参加したといいます。農業の獣害被害が深刻化していることから、趣味のレザークラフトの技術を活かしたジビエレザーの制作販売ビジネスを発案。自ら狩猟免許を取得予定で、レザーを通して若者に猟師の仕事に関心を持ってもらい、狩猟免許所持者の高齢化対策につなげることも考えています。「大学生活をかけて獲る、創る、売る、認知を広げるをベースとした循環型のビジネスモデルを確立させたい」と語りました。

南相馬市の職員からは「循環型モデルとしてわかりやすく、広がりもあるが、この地域では放射線の測定も重要。形になったらめちゃくちゃおもしろいし、影響力を持つと思う」と感想が上がりました。

南相馬をもっと楽しめるまち歩きアプリを開発

所属会社でソフトウェア開発を行っている佐地宏太さんは、ソフトウェア開発のスキルを活かして投稿型のまち歩きアプリを開発中です。福島ロボットテストフィールドの体験会を機に南相馬市との縁ができ、2023年の相馬野馬追にも足を運んだという佐治さん。その時に「一人で遊びに来ても、どこに行けば面白いものがあるのかまったくわからない。心の底から南相馬を楽しみたい」と感じたことから、アプリの開発を思いついたといいます。すでにデモアプリでテストを始めていて、ほかの地域でも横展開しながらブラッシュアップしていく予定です。

制作中のまち歩きアプリのデモ画面

楽しく運動できるきっかけをつくり健康課題を解決したい

最後の発表者は、スポーツ関連事業の会社にお勤めで、南相馬市の県立原町高校でスポーツトレーナーとしても活躍している鹿祐樹さんです。鹿さんは、数多くある市民の健康課題の解決策の一歩として、普段身体を動かす習慣がない人の割合を下げることを掲げます。2023年10月から、3ヵ月連続でハイキングやまち歩きなど、楽しみながら運動できるイベントを開催しています。今後の展開については「まずは自分のファンを増やすためにイベントを無料で展開し、事業化の方法を模索したい」と話しました。

南相馬市の職員からは「運動したくない人や働き盛りの世代をどう誘い込むかがポイント。1年足らずで関係性をつくっていて、行動力がすごい。この流れを加速させてほしい」との声が上がりました。

本業でお勤めの会社でも、アスリートのマネジメントから広報業務まで幅広く活躍する鹿さんですが、さらに自分の活動の幅を広げることを模索していた時期があったそうです。今回の事業化実現プログラムへの参加を決めたきっかけは、MYSH主催の2泊3日の体験プログラムに参加したことだったと話します。

体験プログラムでは、参加者がやってみたいことに対してMYSHから積極的なサポートがあり、この地域で活動することに面白みを感じたとのこと。活動を通して地域の課題を知っていく中でさまざまなアイデアが生まれ、事業化実現プログラムへの参加を決めたといいます。

鹿さんが南相馬市での活動を発信しているインスタグラムはこちら。
https://www.instagram.com/shika_minamisoma/

発表を終えたプログラム参加者と門馬市長

まとめ

このほかの2期生2人は、学習施設と食を融合させたサービスや、まちの賑わいづくりに貢献する店舗を計画しています。プログラムの参加者からは「学生から社会人まで多様なメンバーが集まっていて刺激になった」「メンバーの行動力に後押しされた」などの声が上がっていました。

はじめはやりたいことが漠然としていても、南相馬市に関わり続けていくことでその解像度が上がっているメンバーも多いとか。仕事や学生生活の傍ら事業を磨いていくことは簡単なことではないでしょう。しかし、地域課題が多い=事業のテーマが豊富にある南相馬市だからこそ、実現できる未来があるはずです。

南相馬市事業化実現プログラムのメンバーらが綴るnoteはこちら
https://note.com/mysh_magazine/m/m143bd8c94c2e

2023年12月時点では募集が終了しているものも多いですが、福島県や南相馬市を含めた福島12市町村では移住者向けにさまざまな起業支援を用意しています。

南相馬市の起業支援についてはこちら(終了済みの情報も含む)
https://www.city.minamisoma.lg.jp/portal/sections/16/1640/hataraku/16747.html

福島県12市町村起業支援金についてはこちら(今年度の募集は終了しております)
https://mirai-work.life/startup/supports/

※所属や内容は取材当時のものです
文・写真:五十嵐秋音