生活・その他

地方には、女性や移住者だからこそ解決できる課題がある

2023年10月18日

ジャーナリスト
浜田 敬子さん
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ふくしま12市町村移住支援センター
センター長 藤沢 烈

ふくしま12市町村移住支援センターでは、特に今年度から、ご家族で移住する方へのサポートを強化しています。地方ではご家族での移住において、女性がやりがいを感じながら続けられる仕事が地域にどこまであるのかという課題があります。

女性がこれまでの経験を活かしつつ、移住先でやりがいを感じながら働くためにはどうしたら良いのか。また、移住者として地域に関わりながら自らのキャリアを磨くことはできるのか。女性の働き方を長く発信し、ダイバーシティや移住、地方創生について広い知見をお持ちのジャーナリスト、浜田敬子さんにお話をうかがいました。

自治体、企業、地域。それぞれが変わる意識を持つこと

藤沢 女性の雇用は、福島12市町村への移住を推進する上で、避けては通れない課題となっています。これは福島に限った話ではありませんが、地方にはまだまだ男性中心的なカルチャーが残っていることも、その背景にはあると思います。時代が移り変わり、ジェンダーギャップの解消が叫ばれるなか、女性にとってキャリアになる仕事をどう用意していくべきなのでしょうか。

浜田 消滅可能性都市*が発表されたとき、その上位に名前が挙がった自治体の方に話を聞くと、「若い女性は高校を卒業すると地元からすーっといなくなる。そして戻ってこない」といった話をされていました。それはなぜかといえば、女性にとってそこが住みづらい場所だからです。女性の移住を実現し、活躍する場を作っていくのであれば、まずは女性が働きやすく生きやすい環境に地域を変えていくことが欠かせないのだろうと思います。

*消滅可能性都市…日本創生会議が2014年に発表した、人口流出や少子化が進むことで存続できなくなるおそれがある自治体のこと。「2010年から2040年にかけて20歳~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村」がその定義となる。

藤沢 浜田さんがこれまで関わって来られたなかで、女性が生きやすく働きやすい環境づくりに成功している自治体の例はありますか?

浜田 とても良い事例が兵庫県豊岡市です。「豊岡市ジェンダーギャップ解消戦略」を策定し、さまざまな取り組みを行っています。
市ではまず、企業を変えようということで、地域にある企業のトップを集めて、企業の風土を変える協議会を作りました。その目的は、経営者のマインドを変えることです。男性と女性で仕事の役割が違うとか、女性はリーダーになれないとか、そうしたギャップをなくすことを目指しつつ、トイレなども含めて女性にとって働きやすい環境になっているかなど、細かなところも視察して、職場から変革を始めました。一方、女性向けには、市内在住・在勤・在学の女性を対象にした「豊岡みらいチャレンジ塾」というプログラムを開き、企業や組織、地域の中に女性のリーダーを育てる試みを続けています。
こうした取り組みを続けていくと、女性が働きたいと思う職場が増えていきますし、地元の方だけでなく移住者のなかにも「この町だったら東京でやっていたことが活かせるかもしれない」という気持ちが芽生えるはずです。

藤沢 地元の方や移住を考えている方にとって魅力的なのはもちろん、一度豊岡を出た若い女性にとっても、「これなら故郷に戻ってもいいかも」と思ってもらえそうな取り組みですね。

浜田 さらに豊岡市では、地域に根強く残る男性中心の仕組みを変えようという動きもあります。たとえば、地域の自治会などは多くの場合、男性ばかりの集まりですよね。そういう集まりは多くの場合、夕飯の支度をしなければならない時間に設定されていて、女性が参加しようと思っても参加しづらい。そうした古いしきたりを変える試みも進んでいます。
これらの取り組みが地元の新聞やテレビ局に取り上げられ、ジェンダーギャップの解消に熱心な町だと広く知られるようになると、地元の人達が故郷に自信を持ち始めます。こうした好循環が豊岡では生まれているんです。
つまり、自治体も企業も地域も、それぞれが変わろうとする意識が重要ということ。本当に変わるためには、どれか一つが変わるだけでは足りないんです。

固定観念に変化を起こせるのは「新参者」

藤沢 一方、移住には無意識の偏見といった問題もあります。ジェンダーギャップの解消と共に、もともとの住民と移住者のギャップを埋めるためには、どう地域を変えていくべきなのでしょうか。

浜田 豊岡市の例で言えば、市内にある城崎温泉にお湯を管理する協議会があって、そこは130年ぐらいの歴史の中で女性の議員が一人もいなかったのですが、そこに最近、初めて女性が立候補して当選しました。城崎温泉の外湯はこれまでずっと高齢者を無料にしていましたが、この先もそれを続けていたら外湯と呼ばれる公衆浴場の運営が厳しくなることが予想されているそうです。そうした将来はわかっているものの、無料であったものを有料にするのは嫌がられる話です。彼女はそういった耳の痛い話を誰かがしなければと、公園やゲートボール場に行って、高齢者の方たちに説明して回っていると聞きました。
そういう変化を起こせるのは誰かというと、「新参者」なんです。彼女は結婚によってこの街に来ました。これまで意思決定に参加してこなかった人が入ることで、大事だけれど目をつぶってきた問題や先送りにしてきた問題に、忖度せずに切り込んでいける。そうすることで町の寿命が伸びれば、女性が意思決定に加わることに偏見もなくなっていくと思います。

藤沢 外からの視点を持っている人だからこそ町の課題が見えるということですよね。しかも、課題を解決することがその人のキャリアにも繋がるということだと思います。
ただ、移住することがキャリアに繋がるという発想を持っている人は、今はまだあまり多くないのも事実です。センターとしては、移住がキャリアに繋がることを伝えたいし、地域でキャリアを形成するためには何をしたらいいのかということを、共に考える組織でありたいと思います。

地域を動いて人を繋げるミツバチのような人も必要

浜田 社会課題はどの地方にも少なからずあるわけですが、福島12市町村にはそれにプラスして復興というテーマがあるので、そこで働きながら社会課題の解決に貢献することは、キャリア形成において非常に大きいとも言えますよね。地域の課題に気づき、解決していく。そのプロセスそのものが、まさにキャリアとなるのではないかと思います。

藤沢 そうですね。その活躍に気づいた別の地域の人達が、彼女たちのキャリアを求めて、さらに新しいキャリア形成のオファーをすることだって考えられます。それによって他の地域に貢献できるのであれば、一時期この地域から離れるという選択肢があってもいいと私は思います。

浜田 ずっと同じところに関わり続けることが苦しくなるときもありますし、次のステージに進みたいと思うときも当然ありますからね。

藤沢 流動性は非常に大事だと思いますし、「ここしかない」となるとお互い息が詰まると思うんです。地域というものは、入りやすく出やすい環境であることも大切かなと思います。

浜田 人が動くことで、いろいろなノウハウがいろいろなところでシェアされますし、さらに多くの人が育ちますからね。さまざまな地域を動いて人を繋げる、ミツバチのような人も必要だと思います。

新しく楽しい福島の当事者になって欲しい

藤沢 福島は未だに震災の影響が残っている地域でありながら、人の行き来がかなり多い地域でもあり、複雑な環境に置かれた場所です。浜田さんの視点から見て、これからの福島のために、女性や移住者はどう福島に関わっていけばいいと思われますか?

浜田 取材をする際、福島の方への向き合い方を考えると、私自身も非常に難しいと感じます。それは同じ被災地でも宮城や岩手とは違います。特に原発事故はとても深刻で、今も続いている問題でもありますから。ただ、ネガティブなイメージをずっと引きずらせるのは、福島の人にとっては非常に酷なことでもあると思っています。
例えば広島は、かつては原爆が落ちた街だったのが、ある時から平和を象徴する都市になった。じゃあ、福島はこれからどんな地域になっていくのか。そこに移住者の人たち、特に女性たちのアイデアが加わり、新しい福島を作っていくために力を貸してもらったり、意見をもらったりすることで、福島の当事者になってもらう。自分たちのアイデアを試すことで地域の課題を解決できれば、新しい福島のイメージも作れて、他の地域のモデルになれる可能性もあると思います。

藤沢 まさに最近、似たようなことを思っていました。キーワードとして考えるのは「意識が高すぎない移住」です。福島への移住というと原発事故や復興という言葉が絡み、力が入り過ぎてしまう方も少なからずいらっしゃるんです。そうではなく、純粋にこの地域が面白いと思ってくれた方や、12市町村内に経験を活かせる会社があると知って来てくれた方のほうが、長く暮らしていただける傾向もあります。福島ならではの課題は当然あるのですが、いきなりそれに触れられるのは地域の人にとって厳しい。だから、まずは友達になってほしいですし、楽しんでほしい。福島ならではの課題への取り組みは、その後でいいのだろうと思います。

浜田 小さいことかもしれませんけど、移住で意外に大事だと思っているのが、移住先の町にちょっとしたカフェやパン屋さんなどがあるかどうかです。人気の街にはおいしいパン屋さんや雰囲気のいいカフェが必ずといっていいほどあります。そして、そうした場所は移住した女性によって作られるケースが多いのも事実です。

藤沢 確かに、12市町村内にも移住者の方が開いたカフェや飲食店、本屋さんなどが増えています。

浜田 お気に入りの場所で仲間にすぐ会えたり、ちょっとおいしいものが食べられたり、ほっとしたりする時間が、生活のなかでは一番大事だったりしますよね。そうしたお店は、特に若い世代の人が地域で暮らしていくための、ひとつのインフラだと私は思っています。そんな場を通して、「ここに住むことは楽しい」という感覚を地域の人々と共有することが大事なのかもしれません。


以下の記事では、福島12市町村で活躍している女性へのインタビューを働く女性をご紹介しています。

楢葉町をサツマイモの産地に!農業女子が挑む福島再生への取り組み
https://mirai-work.life/magazine/4105/

「大熊町と若者をつなぐ架け橋に」岩手での復興支援の経験を糧に新たなチャレンジ
https://mirai-work.life/magazine/3771/

浜田 敬子(はまだ けいこ) さん

1989年朝日新聞社入社。翌年から『AERA』編集部に所属し、副編集長などを経て2014年から編集長。2017年に朝日新聞社を退社後、経済オンラインメディア『Business Insider』日本版統括編集長を経てフリーランスのジャーナリストに。2022年度ソーシャルジャーナリスト賞受賞。『羽鳥慎一モーニングショー』をはじめTVのコメンテーターとして出演するほか、ダイバーシティなどについての講演も多数。著書に『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)、『男性中心企業の終焉』(文春新書)など。

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。
文:髙橋 晃浩 撮影:五十嵐 秋音