「川内森林有限責任事業組合」が描く、地域林業の新しい未来
東日本大震災と原発事故は人々の暮らしだけでなく、地域産業にも大きな影響を与えました。震災から約12年の時を経た今も、それぞれの産業の担い手はさまざまな努力や工夫を重ね、復興への歩みを進めています。
川内村の主要産業のひとつである林業も、再生への道のりのまっただ中。その旗振り役を担うのが、村内にある7社の林業・土木関連会社から成る「川内森林有限責任事業組合」です。複数の地元事業者が連携し、林業再生を目指す動きは、福島県内でも前例がない取り組みなのだそう。果たしてどのような活動を行っているのでしょうか。組合長の遠藤俊平さんに話を聞きました。
面積の約8割を森林が占める村
福島県双葉郡の中部に位置する川内村は、阿武隈高地の山々に囲まれたのどかな村です。平均標高は約456mと高く、面積の8割ほどを森林が占めています。古くから林業が盛んで、特に炭焼き(木炭づくり)は村の大きな収入源でした。しかし、時代の流れや国の政策転換によって林業は徐々に廃れ、担い手も減少。整備が行き届かなくなった山林は荒れ始め、さらに追い打ちをかけるように震災が起こったことで、産業の衰退は目に見えるものになっていきました。
「昔は豊かな山でしたが、今はツタが絡まってしまっていたり、折れていたり、倒木してしまっている木ばかりで、用材※として伐れる木はほとんどないんです」
※用材:建築材、家具材、紙・パルプ材などに使用される木材のこと。
そう悲しそうな面持ちで話す川内森林有限責任事業組合の遠藤さん。森林率が高い川内村では、森林の整備・保全状態がそのまま村の景観に影響するため、本来は手入れが欠かせないもの。それができずに荒れゆく山を見るのは、林業を生業にする者として歯がゆい思いがあるといいます。
“連携”を目指す取り組み
そんな現状を打破する希望の光となり得るのが、「川内森林有限責任事業組合」です。川内村にある7つの林業・土木関係の会社(有限会社志賀林業、株式会社大和フォレスト、株式会社緑樹、鹿又林業、山遊舎、株式会社渡辺重建、有限会社河原組)が共同で設立した団体で、メンバーはこの道数十年のベテランから、20代の若者まで幅広い世代で構成されており、会社の垣根を越え、力を合わせてさまざまな事業にあたっています。通常、各社は浜通りの他の地域やいわき市などにも出向きますが、組合として担当するのはほとんどが村内の山林です。
「今、組合で請け負っている仕事の主軸は『ふくしま森林再生事業』という震災復興関連の事業です。震災後、手つかずになってしまった山林の間伐をし、整備するのが主な仕事です。ほかには、村内の道路にかかる草木を伐るなど、村の事業も請け負っています」
組合長を務める遠藤さんは「山遊舎」の2代目。もともと土木関係の会社でしたが、「川内森林有限責任事業組合」の立ち上げと同時に林業に進出。遠藤さんも未経験から林業の世界に飛び込みました。
「最初は、地元事業者のみなさんに組合のビジョンを説明して回ることから始めたんですが、『本当にできるのか?』と疑問視されることも多く、スムーズにはいかなかったですね」
それまでは、他地域と同様に、村が発注する事業を各社で競争して入札するのが当たり前で、いわばライバル関係にあったという各社。それでも同業者として林業の衰退という同じ課題意識を持つ間柄だったこともあり、手を携えることができたのだそうです。「震災で傷ついた地元を見て、復興のために何かしたいという気持ちが連携の後押しになったのでは」と、遠藤さんは分析します。
「設立から10年ほど経って、かなり仕事のやりやすい関係ができました。人手が足りない時は、人を出し合うこともできるし、機械作業が必要なときはそれが得意な会社にお願いすることもできる。何よりも、会社を超えて連携できることが強みです」
林業の課題とやりがい
地方への移住や多様な働き方が浸透したことで、近年、若者を中心に林業への注目が集まり始めています。川内村でも同様で、林業に携わりたいという若い移住希望者からの問い合わせも増えてきました。なかには女性や、県外から移住して林業に携わりたいという人もいると言います。
「その背景のひとつは機械化による影響でしょう。昔なら手作業や力仕事だった部分も機械でできるので効率的です。そうなると、かえって若い人の方が使い方を覚えるのも早いんですよ」
また、各社で代替わりが進み、若い世代のリーダーが台頭してきたことも大きな理由のひとつ。しかし遠藤さんは「手を上げてくれる人がいるのはうれしいこと」としながらも、熱意のある人を次々に雇える環境にないことがもどかしいと話します。
「『ふくしま森林再生事業』も、復興事業ということもあり永続的に続くかは保証されていません。現在、川内村の森林は伐期を迎えている山を多く抱えています。その中には、権利関係が複雑な分収林※や個人所有の私有林などがあり、今後その森林をどのような形で整備していくのかが、村そして組合の課題となってくると思います。川内村の財産である森林を良い形で次世代に残す取り組みを、村役場にも考えていただき、私たち組合が協力して川内村の山を育てていければと思っています」
※分収林:国や自治体の公有地に団体(個人)が木を植栽し、一定の分収割合による契約の下に官民の間で収益(木の販売代金)を分収する林地のこと
また、輸入材に押されて国産材に値がつかず、伐採時期に入りながら伐れずにいる木々も多いのだそう。昨今のウッドショックで多少値段は上がったものの、搬出コストの高騰や作業員への賃金アップの影響で、森林としての収益はほとんど見込めません。課題が山積する中、それでも林業に情熱を傾ける理由はどこにあるのでしょうか。
「やはり、やりがいはありますね。自分たちで間伐した場所がきれいになると達成感があります。木が倒れる瞬間の爽快感は特別なんですよ!」
自ら体を動かし、仕上がりが目に見える形で残っていくのは、林業のおもしろさのひとつ。手入れされた山々を見て「美しい」と思えることがうれしいと語ってくれました。
若い力が拓く林業の未来
今後の遠藤さんたちの夢は「組合として村内のキャンプ場の運営をすること」。長く使われていない山小屋を整備し、木工などを楽しめる要素も取り入れながらアウトドアを楽しめる場所を作りたいのだそう。複数の事業者で構成される林業の組合が運営するキャンプ場となれば、それこそ県内でも先進的な取り組みになるのは間違いなく、森林に囲まれた川内村ならではの魅力的な場所になるはずです。
最後に、林業に向いている人について聞きました。
「体力面でも精神面でも我慢強い人ですね。林業は危険が多い業種です。安全に作業するための方法について学ぶ必要があるため、実際に木を伐れるようになるまでには、最低でも2年ほどかかります。それまでの修行期間に耐えられる人が理想です」
時には現場に向かうために、チェーンソーや草刈機をかついで山道を登らねばならないことも。それでも続けていれば次第に慣れてくるそうで、清々しい山の空気を全身で感じながら汗を流す時間は、デスクワークをしていては決して味わえない林業の醍醐味だと言います。またベテラン勢が多いことからもわかるように、長く続けられる仕事であることもポイント。生涯現役の職人から直接技を学ぶ機会は何にも代えがたい経験となるでしょう。「なかには職人気質ゆえ、とっつきにくさを感じる人もいるかもしれませんが、心根は優しい人たちなので安心してください(笑)」と遠藤さん。緊張感がありながら風通しのよい職場であることが伺えます。
昔は「きつい、汚い、危険」とされ、“3K”と呼ばれることもあった林業ですが、近年ではSDGsや環境保護の観点から見直されつつあります。もしチャレンジしてみたい気持ちがあるなら「川内森林有限責任事業組合」を訪ねてみてください。
■川内森林有限責任事業組合
住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村大字上川内字町分314
TEL:0240-25-8493
FAX:0240-25-8494
E-mail:k-forest29@gm.tp1.jp
※所属や内容は取材当時のものです。
文:渡部あきこ 写真:渡部聡