移住サポーター

アートの力で葛尾村の魅力を掘り起こし発信する。「葛力創造舎」

2022年12月23日
葛尾村
  • 里山暮らし
  • まちづくり

東京から車で約4時間のところに位置し、夏涼しい高原の気候が特徴の葛尾村。その村で2012年から一般社団法人 葛力創造舎(かつりょくそうぞうしゃ )は「みんなが愛着をもつ葛尾村」づくりを方針として、村の文化の再生や移住者が地域とつながるきっかけづくりをしています。

今回は、葛力創造舎の下枝浩徳さんと森健太郎さんにこれまでの取り組みや、2022年5月から本格的にはじまった、アートの力で葛尾村らしさを掘り起こすプロジェクトについて話を伺いました。

情報発信とイベント開催で関係人口を増やす

葛力創造舎で働くメンバーは8人。葛尾村出身の下枝さん以外はみな村外出身だそう。そんな葛力創造舎は、これまでゲストハウス(民泊施設)ZICCAの運営やインターンシッププログラムを実施するなど、地域内外の人を集め、村との関わりを持ってもらうために関係人口の創出に力を入れてきました。

葛力創造舎 代表理事・下枝さん

「移住する方は大きく分けると、仕事という具体的なきっかけがあって移住する“鶏”タイプと、地域の魅力に惹かれて移住し、何をやるかはこれから考えるという“卵”タイプに分けられると思っています。 その2つのタイプの中でも、葛力創造舎は卵タイプの人に向けて情報発信をしたり、イベントを開催したりしています。なぜなら、地域が好きな人が集まることで葛尾村らしい取り組みや、地域の資源にひもづいた事業が生まれやすくなるからです」

地域が好きで移住する卵タイプの人へ向けて事業を展開するメリットはたくさんあるものの、結果が出るのには時間がかかると下枝さんは話します。現在、葛尾村に住み暮らしている467人のうち、震災後に村に移住をしてきた人は全体の約30%(2022年10月1日時点)。着々と村への移住者は増えているようです。

その一方で、震災や原発事故により過疎化が進んだのは事実であり、人が少ない村を持続的なものにしていくためには仕事や観光などで地域を訪れる「交流人口」だけでなく、地域に愛着を持ってイベントなどに参加してくれる「関係人口」を増やしていくことも大切だと下枝さんは言います。

「葛尾村を知らない人と村の人との関係性をつくっていくには、地域のお祭りに参加してもらったり、その運営を手伝ってもらうのがいいと考え、年に数回のイベント開催には特に力を入れてきました。毎年5月には、ふんどしともんぺで田植えをするイベントを開催しているのですが、村人だけでなく移住者も村外に住む人も集まり、毎回とても盛り上がります」

少し視点を変えた移住・定住事業をスタート

これまでさまざまな形で葛尾村の魅力発信を続けてきた葛力創造舎ですが、2022年には新たにアーティスト移住・定住事業をはじめました。その名も「Katsurao Collective」。どんなプロジェクトなのか、統括兼ディレクターを務める森健太郎さんにお聞きしてみました。

葛力創造舎 事務局・森さん

「『Katsurao Collective』はアートを通して新たなコミュニティをつくり、アーティストの目線で葛尾村らしさを掘り起こし、見える化していくプロジェクトです。一般的な移住・定住事業ではなく、少し視点を変えて面白いことをやっていこうと私たちは考えています」

同プロジェクトでは現在、2つのことに取り組んでいます。1つは彫刻作品や映像作品をつくるアーティストの方に葛尾村に一定期間滞在してもらい、地域のコミュニティに関わりながら作品制作をしてもらうプロジェクト「Katsurao AIR」です。

今年の9月末から10月初旬にかけて、葛尾村に滞在した2名のアーティストがつくった作品の展示会を実施。アーティストが村と関わる中で感じたことを表現した作品を見に、村内外から多くの人が訪れたそうです。

今年度はトライアル期間として2名のアーティストの方が村に滞在して作品作りをしましたが、来年度からは本格的にアーティストの受け入れをはじめていくのだそう。どんなアーティストが来て、どんな作品をつくり葛尾村らしさを発信していくのか、今後の活動がとても楽しみです。

「Katsurao AIR」の展示会「Travel in the Hole」開催時の様子

もう一つ取り組んでいるのは、使われていない中学校の校舎の1F教室を活用したワークショップスペース「かつらお企画室」の運営です。

「かつらお企画室」では月一回のペースで講師を招き、ワークショップを開催。これまで開催されたワークショップは葛尾のニット工場で使われなくなった糸を使用しアクセサリーをつくったり、村で採れた植物を使って草木染めをしたりと内容はさまざまです。村に住む人だけでなく、移住を検討している方も参加するとのことで、「かつらお企画室」は村外の人と地域の人がつながる場にもなっています。

「かつらお企画室」の壁にはこれまでワークショプでつくった作品が飾られている

アーティストと呼ばれる職に就いている人と出会ったり、アートに触れる機会は都会に比べると地方ではあまりありません。葛尾村もその例外ではなく、「Katsurao Collective」のプロジェクトが始まった当初は、なかなか村の人に受け入れてもらえなかったそうです。そんななかでも葛力創造舎がこのプロジェクトを進めていきたいと考えるのには、ある想いがあるからです。

「今後さらに移住の流れが進むと、IT関係の仕事をする人や新たなスタイルで働くZ世代と呼ばれる若者が地方にやってきます。そのときに、高齢化が進んでいる葛尾村の人たちは新しい文化をすぐには受け入れられないと思うんです。だから、比較的イメージしやすい『アート』を仕事にしている人と村の人が関わるきっかけを作って、若者が村のコミュニティに入りやすい環境づくりをプロジェクトを通して行っています」

「ここに住んでみようかな」と自然と思ってもらえたら嬉しい

葛尾村出身の下枝さんはUターン移住者。地元に魅力を感じず、関東の大学に進み東京で就職した後、東日本大震災をきっかけに福島に戻ってきました。葛尾村の魅力、つまり「葛尾村らしさ」とは何かを考えながら活動を続けてきた下枝さんは、ここ数年で村の魅力になる素材を言語化できたといいます。

「『記憶・大地・人』この3つにひも付くものが、葛尾村の魅力になりうる素材だと思います。そして、この3つの素材を『葛尾村らしさ』にするために資源化していくのが、私たち葛力創造舎の役目です」

原発事故により全村避難をした歴史のある葛尾村で、地域のために奮闘する葛力創造舎。取材の最後に今後の展望をお聞きしました。

「実は今年葛尾村に滞在していたアーティストの方が『2拠点住宅の一つに葛尾村を選んでもいいかも』と言ってくれているんです。そんな感じで葛尾村に訪れ、村のイベントを通して地域の人と話したり、景色を見たりすることで村への愛着が少しずつ湧いてくる。その結果、「ここに住んでみようかな」と自然に思ってもらえたらいいですね。葛尾村は都会と比べると不便に感じることが多いかもしれません。しかし、足りないものがあるからこそ、生き方や暮らし方を捉え直すのにピッタリの場所だと私は思います。福島12市町村に移住を検討中の方にはぜひ、葛尾村に一度遊びに来てほしいですね」

葛力創造舎は年間を通してたくさんのイベントやワークショップを開催しています。葛尾村や葛力創造舎の取り組みに興味を持った方は、ぜひ参加してみてください。イベント情報は葛力創造舎やKatsurao CollectiveのホームページやSNSで随時更新中です!


一般社団法人 葛力創造舎
住所:〒979-1602 福島県双葉郡葛尾村大字落合字夏湯134
TEL:0240-23-6820
E-mail:info@katsuryoku-s.com
HP:https://katsuryoku-s.com/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:永井 章太 撮影:中島 悠二