移住サポーター

学生とともに双葉郡の新たな価値を創る「2022夏 地域実践型インターンシップ」

2022年11月27日
大熊町
  • チャレンジする人
  • まちづくり

一般社団法人TATAKIAGE Japan(タタキアゲジャパン)が主催する「2022年夏期 地域実践型インターンシップ」(8月8日〜9月23日)が福島県双葉郡で開催されました。この取り組みは、県内外から学生を募り、挑戦を続ける地域企業の経営者の右腕となって新規事業や商品開発などにチャレンジしてもらうというもの。いわき市および双葉郡南部を舞台に毎年春・夏の年2回開催しており、今回で12回目となります。回を重ねるごとにリピーターとなる受け入れ企業も増え、福島12市町村の今後の可能性を育む機会となっています。

震災や原発事故を乗り越え、更なる発展を目指す企業を支援

TATAKIAGE Japanは、いわき市を本拠地として2013年に設立。いわき駅前のコワーキングスペース「TATAKIAGE BASE(タタキアゲベース)」を運営するほか、浜通りエリアを中心に地域経済活性化に向けた活動支援を行っている団体です。プロ人材コーディネートによる新規事業創出、地域人材育成、関係人口の場づくりから「まちのプロデュース」まで、多岐にわたるプロジェクトを展開しています。

代表の小野寺孝晃さんはいわき市の出身。「私たちのミッションは地域と人材を育てること。中核となるいわき市とその商圏でもある、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町周辺が主な活動エリアです。震災や原発事故の被害も大きかったエリアですが、苦境を乗り越え、積極的に発展を目指している地元企業も出てきています。そうした活動を支援するために企画したのが、この地域実践型インターンシップ。学生と経営者が協働し、浜通り地域の企業が抱えている課題の解決に取り組んでもらっています」

「2022夏 地域実践型インターンシップ」に参加した学生メンバー

インターンシップ受け入れ先の企業は、業務多忙などの理由でそれまで手を付けられていなかった経営課題の解決に、学生とともに着手できるという利点があります。さらに、学生という外部人材を一時的に採用することで、業務プロセスの見直し、働きやすい職場の実現、生産性の向上といった経営改善の機会を得ることができます。

一方、学生たちは約1カ月間共同生活を送りながらインターン受入先で課題解決プログラムに取り組むことで、キャリア観を醸成したり、社会課題解決能力を習得したりすることができます。

「インターン受け入れを通じて、企業の人材獲得力や育成力を向上させ、人手不足の解消を図ることが目的です。学生たちが地域の仕事に興味を持てば、将来的な交流・定住人口の拡大にもつながることが期待できます。実際、過去のインターン生で移住につながった例もありましたし、地元出身で将来的なUターンも視野に入れて参加している学生もいます」(小野寺さん)

企業は学生から刺激を受け、学生は社会とのつながりを得る

インターンシップ募集ページ(https://www.project-index.jp/intern/24367)。※現在は受付終了

今回のインターンシップは、大熊町、楢葉町の4つの企業・団体が地域の魅力発信・地域活性化をテーマに募集を行いました。全国各地から18名の大学生の応募があり、選考の結果11名の受け入れが決定。新型コロナウイルスの感染状況を考慮し、オンラインと現地での活動を組み合わせたハイブリッド形式での開催となりました。
顔合わせのオリエンテーションで企業と学生が目的意識の共有を図った後、プログラムの課題を学生に提供。はじめの2週間はオンラインでのコミュニケーションを通じて学生に目標や課題解決の仮説を立ててもらい、その後4週間、現地で実践活動を行いました。
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「2022夏 地域実践型インターンシップ」受け入れ企業とプログラム
●株式会社バトン(大熊町) 
情報発信プロジェクト! 原発災害からの復興が少しずつ進む、福島県大熊町の情報を、携わる人の想いを全世界に発信せよ!

●株式会社Will Ark(大熊町)
原子力災害からの復興が少しずつ進む、福島県大熊町をサイバーボッチャの聖地にしていこう!

●一般社団法人ならはみらい(楢葉町)
「ふるさと納税」をアップデート! 原発事故・全町避難から立ち上がった生産者の想いを乗せて、ここにしかない仕組みを構築せよ!

●一般財団法人 楢葉町振興公社(楢葉町)
道の駅プロジェクト第2弾! 双葉郡の玄関口でもある道の駅ならはの観光客数を増やすために、集客に向けた情報発信と道の駅の地産地消駅弁の提案をしよう!
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11名の学生は4つのチームに分かれて各プログラムに参加し、掲げられたテーマに取り組みました。

サイバーボッチャで地域の新たな価値と未来を生み出す

9月17日に開催された「ふらっとクマプレ」

ここでは、大熊町にあるWill Ark社のプログラムを紹介します。
原発事故から8年後の2019年3月6日に避難指示が一部解除され、新たなまちづくりに着手している大熊町ですが、現在、町内に居住している約900人のうち、半数以上が東京電力の社員であり、避難指示が解除された後、町に戻ってきた住民は高齢者が中心。「町民のみならず、大熊町に新たに関わりを持つ若者を呼び込みたい」と、Will Ark社が地域活性化の切り札として着目したのが、サイバーボッチャでした。

室内会場で行われたサイバーボッチャ。天井のカメラがボールの距離を自動測定する

パラリンピック正式種目になっているボッチャは、重度の脳性まひ者や同程度の重度障がいが四肢にある人のためにヨーロッパで考案された競技で、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青6球ずつのボールをいかに近づけるかを競います。サイバーボッチャとは、そうしたボッチャのルールはそのままに、映像演出などデジタル要素を加えることで競技を盛り上げる次世代型スポーツ。センシング技術(感知器などを使用してさまざまなデータを取得し数値化する技術)でボールの位置が自動的に計測されるため、審判も不要。障害の有無はもちろん、年齢を問わず誰もが楽しむことができます。

イベント当日、小さい子どもたちがボッチャで遊んでいる様子

大熊町では、2019年から「つなげるあしたの大熊構想」を掲げて、年齢・境遇に関わらず、すべての人が安心して生きがいを感じながら暮らせる町づくりを目指しています。同社のサイバーボッチャの導入・推進はこの構想に合致した取り組みといえますが、まだまだ認知度が低く、競技を楽しめる施設すらありませんでした。そこで、インターンシップ受け入れを通じて、学生とともにサイバーボッチャの普及活動を行い、「大熊町内のイベントでサイバーボッチャの大会を開催すること」をプログラムの最終ゴールとしました。

サイバーボッチャの大会は、フードマルシェとの共同イベント「ふらっとクマプレ」として9月17日に開催されました。当日は、町の内外から家族連れをはじめ、多くの人が集まり大盛況。手探りで取り組み始め、さまざまな壁にぶつかりながらも、無事、成功を収めることができました。

同社のインターンに参加した鈴木亮太さんと天野友貴さんにお話を伺いました。

鈴木さん(写真中央)

鈴木さんは福島大学の3年生。地方におけるまちづくりに興味を持っていたそうです。「私は岩手県花巻市出身なので、震災の被害というと津波や地震によって建物が倒壊している様子を見てきました。大熊町のように原発事故の影響で、建物だけそのまま残り、人がいなくなっているという状況を現地に来て初めて知り、衝撃を受けましたね」

サイバーボッチャの普及活動としてまず取り組んだのは、地元で開催される夏祭りでの体験会の開催。「人が集まる場所でみんなに知ってもらいたい」と、お祭りの1週間前にほぼ飛び込みのような形で主催者にかけあったといいます。「Will Ark社の方にも相談してアドバイスもいただきましたが、どう進めるかは自由に任せてもらえました。もうひとりのインターン生の天野君と二人三脚で各所に電話をかけ、近隣にチラシを配布するなどしてなんとか開催までこぎ着けました」

天野さん

天野さんは静岡県伊豆の国市出身で静岡産業大学の2年生。「大学ではNPO法人の活動に関する勉強をしています。私自身も聴覚障害があり、パラスポーツを通じて障がい者と健常者の集いの場をつくりたいと思い、参加しました」

夏祭りの体験会を終え、プログラムの最終ゴールであるサイバーボッチャ大会の開催に向けてルール整備などの準備を進めていきました。鈴木さんが一時帰宅する時期もあり、ひとりで取り組まなくてはならない作業もあったそうです。「焦りましたが、それまでの活動で培った経験が力になり、無事に大会を開催することができました。インターン最後の報告会を終えたときには、心の底からほっとしました(笑)」と振り返ります。

ふたりの様子を見て、小野寺さんは「自分で判断して動くという経験は貴重なもの。いろいろな立場の人と触れ合うことで自分の世界が広がったのでは」とにっこり。

サイバーボッチャの大会「クマプレ・ボッチャカップ」では優勝者に高級マンゴーを贈呈

いろいろな立場の人と触れ合うことで将来に対する視野を広げる

インターンを終えて、天野さんは「目標を達成するには、ひとつの方法だけでなく、いろいろなアプローチの仕方があることを実感しました。自分のなかでテーマとしている地域貢献についても、公務員になるだけではなく、別の立場でも関われることがわかりました」と話します。

まちづくりの仕事に携わりたいと考えていた鈴木さんは、「当初は公共施設など人の集う場をつくることに興味がありました。人と関わることでもまちづくりに携われると考えるようになり、今は移住支援の仕事を目指しています」と、インターン経験を通して新たな視点を得たようです。

ふたりの様子を見て、小野寺さんは「自分で判断して動くという経験は貴重なもの。いろいろな立場の人と触れ合うことで自分の世界が広がったのでは」とにっこり。

「ふらっとクマプレ」イベント会場にて

「ご縁があって関わった大熊町のみなさんとは今後もつながっていきたい」(鈴木さん)

「この経験は地元の静岡でのパラスポーツ普及に役立てたい。大熊町にはまた来年の夏休みに遊びに来たい」(天野さん)

地域実践型インターンシップは、地域や地元企業が抱える課題の解決を果たすとともに、よりよい未来を切り拓いていく若者たちの背中をしっかりと後押ししているようです。


■一般社団法人TATAKIAGE Japan「地域実践型インターンシップ」特設ページ
https://tatakiage.jp/service/interns/

※内容は取材当時のものです。
取材・文:渡辺圭彦 撮影:中村幸雄