やりたいことを追い求めたら、この町にたどり着いた。川俣町地域おこし協力隊
川俣町地域おこし協力隊。左から佐原孝兵さん、根本文也さん、スタルジンスカヤ・ナスタッシャさん、小山加奈さん
福島駅から車で約30分。阿武隈高地西側の丘陵地帯に位置し、江戸時代より絹織物の産地として栄えた自然豊かな里山の町、川俣町。今年から、過疎地域であるこの小さな町の地域おこし協力隊に着任したメンバーは、一人ひとりがやりたいことを実行しながら地域のチカラになる活動を始めています。
「今の暮らしが充実している」「やりたいことが多すぎて」と異口同音に話し、表情からも充実した日々を送っていることが伝わってきます。
数ある地域のなかからどんな思いで川俣町を選んだのでしょうか。ここで働き、暮らす魅力についてもお聞きしました。
川俣町の事業者の思いや町の空気感が伝わる映像を作りたい
今回お話を伺ったのは、起業・個人事業主型の地域おこし協力隊の佐原孝兵さん、スタルジンスカヤ・ナスタッシャさん、小山加奈さんと、雇用型の地域おこし協力隊の根本文也さんの4名。
佐原さんは昨年、東京の映像会社を退職して独立。人の営みを伝えるドキュメンタリー映像を作りたいと地方で拠点を探し始めていたところ、川俣町の伝統工芸品「川俣シルク」に出会ったそうです。
「長い歴史のある織物産業が今も人々の生活に受け継がれている町だということに惹かれて、このような事業者の方のドキュメンタリー映像を作りたいと思ったんです。そして、『川俣町おためし地域おこし協力隊ツアー』に参加して、生き生きと働く人の姿やウグイスのさえずりで目が覚めるようなこの町の暮らしにすっかり魅了されてしまって。東京にいなくても映像は作れる、むしろこちらのほうが僕が求めている映像制作には適していると思いました」
佐原さんは現在、川俣町の事業者に密着した映像作品を毎月1本の頻度で制作してYouTubeなどで配信。「川俣町を知らない人、離れてしまった人に、改めて訪れるきっかけを提供したい」という思いのもと、活動を続けています。
「農」をテーマに人と人をつなぐ架け橋になる
ベラルーシ出身のナスタッシャさんは、2017年に福島市にある福島大学へ留学。卒業後、一度帰国しましたが、再び福島に戻り福島大学大学院で農業経済を研究していました。「人がやさしく、シンプルな生き方ができる福島を出たくなかった」と話します。
福島での暮らしと農業経済の研究を通して、ナスタッシャさんは「農家の方や地域の人たちの暮らしをより豊かなものにしていくためには、生産者と消費者をつなぐことが必要」と考えるように。
「例えば、農家さんは消費者の『おいしい』という生の声をなかなか聞くことができないですよね。いっぽう消費者は生産現場を知る機会があまりありません。モノは流通していてもヒトのネットワークは分断されていると気付き、なにかできることがあると思いました」(ナスタッシャさん)
福島市の隣町である川俣町。たびたび訪れるうちに自然と自分のやりたいことが川俣町にあると感じ、地域おこし協力隊に応募したそうです。
ナスタッシャさんの地域おこし協力隊としての最終目標は、町内に生産者と消費者が集まるコミュニティの場となる飲食店を開くこと。1年目の現在は、農家の人たちに困っていることを聞いてまわり、さまざまな課題を知ると同時に、農家で余っている食材を使った料理会や、地域食材を使ってベラルーシ料理を作る体験会を開くなど、小さな課題解決とコミュニティづくりにチャレンジしているそうです。
木桶職人がいる川俣町に。パラレルキャリアも実践
小山さんは福島県須賀川市出身。全国でも珍しい木桶職人が川俣町におり、修行に通っていたところ、地域おこし協力隊への応募を勧められたそうです。
「以前から伝統的なもの作りに興味があって木桶作りに携わっていたら、小さな木桶を今も作り続ける鴫原(しぎはら)風呂桶店の鴫原さんにたどり着きました。小さな木桶は味噌作りなどにも需要がありますし、何より良い文化だから未来に残していきたいです。木桶職人も少なくなり、鴫原さんもご高齢なので、技術を継承して若い人たちに木桶を広めていきたい。目標は、たくさんの人が木桶を求めて川俣町を訪れるようになること」と小山さんは笑顔で語ります。
週1~2回、鴫原さんのもとに通い、木桶職人としての腕を磨く小山さんですが、和箒(わぼうき)職人、フォトグラファーとしても精力的に活動しています。
平日は山木屋地区の空き農地を活用し、箒の材料となるホウキモロコシを生産しながら和帚を製作・販売。休日はフォトグラファーの活動を通して、木桶や和帚の魅力を発信しているようです。
農業を仕事に。花を育てながら、日々自分の成長も実感
根本さんは、熱帯植物のアンスリウムの花卉栽培をメインに農業を営む株式会社smile farmに勤め、花卉栽培、出荷作業、フラワーアレンジメントなどのワークショップを担当しています。農業に携わるのは、今回が初めてだそうです。
「もともと花が好きで、記念日には妻に花束をプレゼントしていました。今ではアンスリウムの花束を自分で作って友人のお祝いに贈ることも。ワークショップは、みなさんがとても楽しそうに取り組んでくださいます。人に喜びを与えられるいい職業だと感じています」(根本さん)
根本さんがこの仕事を選んだきっかけは、ふとした偶然の出会いでした。根本さんの友人が営む二本松市の居酒屋で、たまたまsmile farmの社長である谷口豪樹さんと出会い、インスタグラムのアカウントを交換したそうです。インスタグラムを通じて谷口さんの事業に興味を持っていたところ、事業拡大を目指して地域おこし協力隊を募集していることを知り、応募したと言います。
就農5年目の若手農家である谷口さんと一緒に切磋琢磨しながら働ける職場環境に、「自分が成長することで会社も成長する。日々やりがいを感じながら仕事ができています」と根本さん。
「みんないい人」。町の人が関心をもって、協力してくれる
4人が川俣町に赴任して約半年。これまでの仕事や暮らしの中で得た実感について伺いました。
「この町で出会う方は優しいですし、協力してくださいます。例えば私の場合、『畑や作業場を探している』と地元の方に話したところ、みんなで探してくれました。畑を耕すときも、私が持ち得ない大型の機械で手伝ってくださいます。自分のやりたいことをやって、地域のみなさんに優しくしてもらえて幸せです」(小山さん)
「私も人が優しいと毎日思います。言葉だけではなく実際に行動してくださいます」(ナスタッシャさん)
「人との距離が近いというのが、僕の場合はうれしいです。撮影に協力していただいた方と仲良くなるスピードが東京に比べて早いですし、いろいろな人が自分に関心をもって話しかけてくださるので、撮影意欲も湧いてきます」(佐原さん)
根本さんは、農業という新しい世界に飛び込んだからこそ味わえた喜びがあったそうです。
「先日、生後半年になる娘に私が栽培に携わったお米とさつまいもを離乳食にして食べさせたのですが、その時に何とも言えない感動がありました。食材によっては嫌がって吐いたりするのに、そのお米とさつまいもは喜んで食べたんです。私が大事に育てたものが娘の体の一部になったと、じんわりと温かい気持ちになりました」(根本さん)
住民同士のつながりが強い小さな町だからこそ、助けてもらえる。相互扶助の精神と信頼で成りたっている地域コミュニティに、彼らは既になじんでいるようです。
一人ひとりの存在感が大きい町だからこそ、地域の発展に大きく貢献できる
同期隊員の4人ですが、顔を合わせるのは久しぶりなのだそう。近くに住んでいるのに「やりたいことが多すぎて、会う時間がない」とのこと。それでも「会うと元気になる」「やっぱりいいなと思う」存在だと言います。インタビュー時もお互いの話に耳を傾け、刺激を受けていたようです。
最後に、川俣町の地域おこし協力隊に興味を持った人へのアドバイスを求めると、「とにかく一度訪れてみて」と共通した回答が返ってきました。佐原さんも小山さんも「川俣町おためし地域おこし協力隊ツアー」を利用して訪れた際に、「ここで暮らしたい」と確信したそうです。
「私たちと一緒に川俣町のポテンシャルを引き出し、未来をつくっていきましょう」とナスタッシャさん。佐原さんからは「川俣町にお越しいただいたら僕が案内します。名物の川俣シャモ親子丼をごちそうしますよ(笑)」と、あたたかいコメントをいただきました。
今回お話を伺った4人に共通していることは、目的と熱意を持って川俣町に来ていること。やりたいことをやりながらも、そこで暮らす人々の思いや育まれてきた文化を尊重しながら、地域に根差した活動に取り組んでいること。
彼らがまく種は、この地にきっと根を張ることでしょう。そして町の人にとっても、力強い存在になっていくと想像します。
川俣町では、引き続き地域おこし協力隊を募集しています。先輩隊員や住民と一緒に川俣町を盛り上げていきたい人、少しでも川俣町に興味がある人は、移住体験ツアーなどを利用して、ぜひ現地を訪れてみてください。
▼川俣町ホームページ
地域おこし協力隊の募集要項や選考スケジュール等の詳細はこちらからご確認ください。
https://www.town.kawamata.lg.jp/site/kurashi-tetsuzuki/list136-876.html
▼かわまた暮らし体験ツアー
川俣町移住・定住相談支援センターが実施する移住体験ツアー(2022年度全9回開催予定、4回催行済)についてはこちらの申込フォームから登録いただくと、第5回以降のツアーに関する新着情報をご案内します。※今後のツアー日程は随時更新予定
https://note.com/kawamata_gurashi/n/n1e4a38f0ed33?magazine_key=me1afaa827b36
※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:ひらのともこ 撮影:中村 幸稚