初心者からベテランまで楽しめる「福島復興サイクルロードレースシリーズ」
子どもから大人まで、性別、年齢を問わず楽しめるサイクリング。海と山、自然豊かな福島県は、気持ちよくサイクリングできる環境があり、休日のレジャーとしてもぴったりです。一人やグループだけではなく、大会にも出てみたいという人におすすめなのが、福島12市町村を含めた広い地域で開催される「福島復興サイクルロードレースシリーズ」です。年間10戦で行われるシリーズは、経験や年齢、老若男女問わず誰でも参加できる「市民参加型の自転車レース」として人気を博しています。
全国でも類を見ない数の公道レース
福島復興サイクルロードレースシリーズ誕生のきっかけとなった大会は、2017年6月に誕生した「ツール・ド・かつらお」です。葛尾村で東日本大震災と福島第一原発事故からの復興と風評払しょくを目的に開催されました。全国から自転車愛好家を集め、交流人口を増やして村の情報発信につなげる目的があります。その後、近隣市町村でサイクルロードレースの開催地が増え、2023年には全10戦に。1つのシリーズ戦としては、国内でも類を見ない数の公道ロードレースです。
現在のシリーズは、例年4月中旬の「ツール・ド・かつらお」からスタート。10戦のうち、福島12市町村では5戦が開催されます。双葉町と大熊町でそれぞれ特設コースを周回する「ツール・ド・ふたば」、田村市滝根町のあぶくま洞をメイン会場にした「あぶくま洞ヒルクライム」、阿武隈高地にある川内村の登り坂を生かした「かわうち高塚高原ヒルクライム」。そして、「ツール・ド・ふくしま」は、楢葉町のJヴィレッジをスタートして、2日間で15市町村(※)、全行程245kmを走破するシリーズ最大の大会です。
(※)福島12市町村、いわき市、相馬市、新地町
福島12市町村外で開催される5レースも魅力的です。相馬市松川浦の大洲松川ラインを走る「そうまエンデューロ」は浜風を感じられる一方、「磐梯吾妻スカイライン・ヒルクライム」は標高1,500m超の浄土平まで駆け上がるコースが特徴です。小野町「小野こまちロードレース」は里山の自然を楽しむことができ、JR白河駅前通りの「ジロ・デ・シラカワ」やJRいわき駅前大通りを周回する「いわきナイトクリテリウム」では、市街地のにぎわいを体感できます。
レースは9つのカテゴリーで細かくクラス分けされています。初心者からベテランまで、それぞれのコースで入賞を目指して楽しめるシリーズとして、県内外から多くの出場者を集めています。本格的に競技に参加している方を対象とした「エリート」は男女別。各地の市民レースに入賞または参加経験のある方には「上級」「中級」「初心者」の各クラスが用意されています。初心者の中でも市民レース参加1年未満は「初参加・超初心者」、女性は「女子一般」のクラスに分けられます。50歳以上の「マスターズ」や、小学4年生以上を対象とした「小学生クラス」といった年齢別のカテゴリーもあります。
2024年のシリーズからは、クラスごとに年間ポイントを競うランキング制を導入。背景には、出場者の実力向上を図るだけでなく、継続してレースに参加する意欲を持ってもらいたいとの思いがあります。また、実力に合ったカテゴリーで走ることで、競技中のトラブルのリスクを抑え、初心者にも不安なく余裕を持ってレースを楽しんでほしいという思いも。
さらに、県内外のサイクリストに何度も大会に参加してもらい、福島県の魅力を満喫して帰ってほしい、そしてサイクリスト仲間をはじめ多くの方に“福島の今”を伝えてもらいたいという願いが込められています。
サイクリングでしか見つけられないまちの魅力がある
では、自転車競技やサイクリングの魅力とはどのようなものなのでしょうか。今回は、国内外の市民レースを通算200以上経験し、2023年から福島復興サイクルロードレースシリーズの大会事務局で運営に携わる自転車ジャーナリストの橋本謙司(通称:ハシケン)さんにお聞きしました。
「まず、スポーツ自転車の魅力は気軽に始められるところですね。目的はダイエットでも通勤通学でも良いのです。そして、自転車はペダルを漕げば、どんな遠いところへも行くことができる乗り物。自転車のスピード感や、自転車で通る道は、車やバイク、電車では気づきにくい街並みや景色に出会えます。福島には海も山もあり、サイクリングに適した道路が通っています。日本の原風景ともいえる田舎も残っています。知人の中には、福島へサイクリングに通ううちに、自然の豊かさやまち、人の良さに心を奪われて埼玉県から双葉町へ、東京都から富岡町に移住したサイクリストもいるんですよ」
東日本大震災をきっかけに、東北地方ではスポーツ自転車で長距離を走るロングライドや、順位を競うロードレースの大会が増えているのだそう。そんな中、福島復興サイクルロードレースシリーズの魅力は「福島県浜通り地域を中心とした広範囲でバリエーション豊かな種類のレースが年間を通して行われること」と橋本さんは語ります。
「前身大会からの参加者が延べ1万5,000人という数が注目度の高さを表していますし、それぞれの地域性や人柄、震災復興の現状を知れる良いチャンスです。このシリーズは、福島の文化や人の良さを感じさせてくれる大会と言ってもいいと思います」
福島12市町村で多くのレースが開催
福島復興サイクルロードレースシリーズのうち、福島12市町村内で開催されるレースのうち、ツール・ド・かつらお(葛尾村)、ツール・ド・ふたば(双葉町・大熊町)、ツール・ド・ふくしま(浜通り等15市町村)、かわうち高塚高原ヒルクライム(川内村)の4レースをそれぞれご紹介します。
●ツール・ド・かつらお(葛尾村)
福島復興サイクルロードレースシリーズの開幕戦。2日間にわたって開催され、1日目は参加者が一斉にスタートする33kmのレースと、一人ずつスタートし11kmの個人タイムを競うタイムトライアルが行われます。2日目は村の周囲およそ28kmを2周する本格的なロードレース。コースは起伏に富み、下り坂では時速60kmを超えるスピードが出るなど、選手たちの熱い戦いが見られます。ゴール後は地元名物のジンギスカンやカレー、凍み餅などが振る舞われ、地元の皆さんの温かいもてなしが心も体も癒してくれる、とてもハートフルな大会です。
●ツール・ド・ふたば(大熊町・双葉町)
2022年に福島県浜通りを縦断する国道6号の全域で自転車での走行が可能になったことを機に、2023年から開催されています。1日目は双葉町の1.1km周回コース、2日目は大熊町の2.2km周回コースでクラスごとに順位を競います。2024年は、レース前にロードレース初参加でも安心して参加できるよう、レッスンが行われました。途中、浪江町の「震災遺構・浪江町立請戸小学校」や福島水素エネルギー研究フィールドなど、忘れてはいけない震災の記憶や新しい産業を象徴する場所をたどることができる、貴重な大会でもあります。
2024年にはレースとは別におよろ35kmのロングライドイベント「ツール・ド・ふたばサイクリング」も開催されました。
●ツール・ド・ふくしま(福島12市町村、いわき市、相馬市、新地町)
福島12市町村を含めた15市町村を走り抜けるシリーズ最大のレースです。全行程の走行距離は、国内最大級の市民レースである「ツール・ド・おきなわ」(総距離200km)より長い245kmにもおよびます。1日目はスタート地点となるJヴィレッジ(楢葉町・広野町)から海沿いの道をひたすら北上し、浜通り最北端の新地町をゴールとするおよそ85kmのレース。2日目は新地町から飯舘村、葛尾村、川内村などを走り、スタート地点のJヴィレッジを目指す160kmの山岳コースです。
また、ロングライド部門も実施。サイクリングロードの整備が進む「いわき七浜海道」など、美しいシーサイドを中心にサイクリングを楽しめます。ペダルを漕ぎながら各地の文化や暮らしを感じ取り、復興の今を知ることができる大会です 。
●かわうち高塚高原ヒルクライム(川内村)
2024年10月5、6日に初開催を迎える大会で、川内村の中心地から、村最高峰の高塚山を目指して15kmの坂道を駆け上がるヒルクライムレースです。6日には、坂の多い村の地形を生かした山岳ロングライド「グランフォンドかわうち」を開催。5日のヒルクライムレースとは異なり、自分のペースで100kmの道のりを完走することを目指すチャレンジングなロングライドです。夜はバーベキューを開催し、地元住民と交流できます。
まとめ
福島12市町村を含む広範囲で行われる福島復興サイクルロードレースシリーズは、開催地ごとに異なる気候風土や文化、人々のあたたかさを感じることができる大会です。また、復興が進む地域や、まちづくりに尽力する人々に出会うチャンスがあります。ベテランのサイクリストでなくても、ロードバイクがあれば誰でも参加できます。ぜひ全戦出場して、誰かに教えたくなる福島の魅力を発見してみてください!また大会に出なくても、気持ちよくサイクリングできる自然豊かな環境で、休日のレジャーを楽しんでみてはいかがでしょうか。
■福島復興サイクルロードレースシリーズ
https://web.tour-de-fukushima.jp
※内容は公開当時のものです。
文・写真(橋本さんのカット):和田学
写真提供:福島復興サイクルロードレースシリーズ事務局