生活・その他

難関大学進学者数アップを目指す田村市の「東大10人構想」とは?

2023年11月10日
田村市

田村市教育委員会(以下、市教委)は2021年から、「東大10人構想」と銘打ち、子どもの学力を向上させ東京大学を含めた難関大学への合格者を増やそうとするさまざまな施策を講じています。公立学校で子どもの学力向上が期待できる環境をつくることでファミリー層を呼び込み、人口減少が続く地域の活性化につなげる狙いです。

県内屈指の進学校への輩出に重点

今回話をうかがったのは、田村市教育委員会の飯村新市教育長(写真左)と、学校教育課長の小松信哉さん(同右)です。

「目標を高くすれば子どもたちの選択肢も広がります。医学部や難関大に子どもたちを輩出できれば、将来的に地域に貢献してくれるでしょう。そうした未来を踏まえ、そこから逆算して現在行うべき活動やその優先順位を決める『バックキャスティング』で教育改革を進めているのが、この『東大10人構想』です」(飯村教育長)

田村市の通学圏内で東京大学を含む難関大学を目指す場合、進学先は隣の郡山市にある県立安積高校が中心となります。安積高校は福島県内屈指の進学校で、東京大学にも複数人を毎年輩出しています。難関大学への進学者を増やすにあたり、まず一つ目の目標となるのが、この安積高校を目指せる生徒を増やすこと。現状で田村市から安積高校への進学者数は毎年10人程度といいます。

田村市を巡る教育環境で一つの変革となりそうなのが、2025年度に予定している安積高校の中高一貫化です。中高一貫校では中学から同じレベルの生徒同士で高め合えること、高校受験がないため高校進学のタイミングでカリキュラムが分断されることがなく、余裕をもって大学受験の勉強に臨めることなどのメリットがあるといわれています。

2014年~2017年の東京都の調査では、中高一貫校の卒業生のうち難関国公立大(東大、一橋大、東京工業大、京都大、国公立大医学部医学科等)への進学者は、中学からの「内進生」のほうが高校からの「外進生」よりも2~3%ほど多いという結果が出ています。福島県内の公立校で進学校の中高一貫化は初の試みですが、福島県中地区トップの安積高校の学習環境はさらに向上することが見込まれます。

市教委が安積中学・高等学校(仮称、以下安積中・高)の開校に向け明確な目標としているのが、田村市から安積中への進学者20人、安積高への進学者10人です。それに向けて、どんな取り組みが行われているのでしょうか。

独自の取り組みで算数・数学の学力を底上げ

引用元)2023年4月改訂 田村市教育大綱

全国学力・学習状況調査(以下、全国学力テスト)の結果によると、田村市の小6・中3生は国語の正答率で全国を上回っているのに対し、算数・数学は及んでいません。まずは苦手分野である算数・数学力を高めるべく、市教委が講じている主な施策は以下の通りです。

①田村市共通テスト
2021年度から行っている、算数・数学に特化したオリジナルのテストです。地元で学ぶ子どもの苦手分野を熟知した教員が年度内に2回、全国学力テストよりも難易度が高い問題を作成し、理解度を確認。結果を受け、授業の改善や個別指導に役立てます。子どもたちにとって苦手なポイントを知る機会になります。

②小学5年生からの「チャレンジ塾」
安積中・高への入試を控える小学5、6年生を対象に、初回の2023年度は理数科目を中心に2回実施。教科や回数の拡大も含め内容を検討していく方針です。

このほか、レベルの高い算数・数学への興味を引き出すため、中学生の『数学検定』3級(中学3年程度)以上の検定料を全額補助。受験を控えた小中学生のための月刊誌『中学校への算数』『高校への数学』を全校に配布しています。飯村教育長は「算数・数学の成績は県平均より上ですが、ゆくゆくはすべて全国平均を上回り、平均点県トップを目指したい」と語ります。

とはいえ、中学受験の選択肢が限られていた田村市の子どもたちが小学生のタイミングから難関大学の進学を見据え机に向かうことは簡単なことではありません。そこで、市教委は2023年度から、「東大」を雲の上の存在ではなく「努力すれば現実的に目指せる大学」として感じてもらうために、小中学生が実際に東大のキャンパスを訪問し、実際の授業を見学したり、東大生と話したりする機会を設ける予定です。

また、田村市出身の東大生を招いて東大で学ぶ理由や現在の研究、将来の目標などを聞く場を設ける事業「東大で学ぼう」も企画しました。

こうしたレベルの高い学びに触れる機会を通し、自分の苦手分野を理解しつつ具体的な目標を立て、それに向けて何が必要かを子ども自身に考えさせることで、難関大学に進学できる人材を育んでいます。

教員同士が高め合える場づくりにも注力

「教員の力によって子どもたちの学力は大きく変わる」と強調する飯村教育長。土台となる教員の育成にも力を入れています。

田村市共通テストの実施もその一環。教員同士が精査し合いながら作問することで、その問題を解くためにどんな授業を行うかを考える意識づけにつながっているといいます。2023年度は、全国上位の学力を維持する福井県の取り組みを参考に、日ごろの授業や指導の悩みについて小中学校の全教員約150人が意見交換するラウンドテーブルを開催予定。こうした教員同士が関わり合う場を積極的に設けることが、授業の質の向上やお互いを高め合うことにつながると市教委は考えています。

また、全国で先進的な取り組みを行っている学校への教員の派遣も行っています。一般的な授業見学は1日限りですが、市教委の派遣期間は1週間。月曜から金曜まで密着し、授業の裏側まで見せてもらうことで、「派遣先の学校の良いところを何か一つでもまねしてもらいたい」と飯村教育長は話します。実際、これまで派遣された教員の中には見学の成果を実践し、その授業を同僚に公開する自主的な動きもみられるといいます。

生徒の学習意欲向上と教員育成の両輪で教育環境の底上げを図る田村市。「東大10人構想」は2021年から段階的に始まったばかりで、成果が目に見えてくるのはもう少し先になりそうですが、田村市への移住を考えているファミリー層のみなさんにとってはメリットに感じる取り組みでしょう。

田村市教育委員会のホームページはこちら。
https://tamura.fcs.ed.jp/

※所属や内容、支援制度は2023年10月5日の取材当時のものです。
文・写真:五十嵐 秋音