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【イベントレポート】第2回ふくしま12現地体験イベント〜充実の起業サポートがある地域で、“やりたいこと”を始めよう!~

2023年3月5日

「ふくしま12市町村移住支援センター」では、さまざまなテーマで現地体験イベントや移住体験ツアーを開催し、福島12市町村で暮らし、働く魅力をお伝えしています。

今回は、2023年2月11日(土・祝)に開催された「第2回ふくしま12現地体験イベント~充実の起業サポートがある地域で、“やりたいこと”を始めよう!~」の様子をレポートします!

ふくしま12現地体験イベントとは?

福島12市町村に移住した方々と直接交流しながら、現地の暮らしや仕事の様子を知ることができる、全2回の体験型イベントです。第2回の今回は南相馬市、飯舘村に移住して自分らしく活躍する方々をゲストに招き、まち歩きやワークショップ、座談会など、盛りだくさんの内容で行われました。

11:30 「haccoba-Craft Sake Brewery-」見学
まず訪ねたのは、2021年2月に南相馬市小高区に誕生した酒蔵「haccoba-Craft Sake Brewery-(以下、haccoba)」。

「酒づくりをもっと自由に」という思いのもと、伝統的な日本酒の製法にクラフトビールの製法をかけ合わせて造る「クラフトサケ」という新しいジャンルのお酒を醸造しています。

到着すると、haccoba代表の佐藤太亮さんが出迎えてくれました。

佐藤さん

佐藤さんは埼玉県出身。大学卒業後、一度はIT関連企業に就職するも「日本酒造りに携わりたい」という夢をかなえるため、新潟県にある「阿部酒造株式会社」で酒造りの経験を積み、その後、南相馬市の起業型地域おこし協力隊に着任。haccobaを立ち上げました。

佐藤さん「小高区は、福島第一原子力発電所の事故による避難指示が発令されたことで、一度人口がゼロになったまちです。でもだからこそ、暮らしや文化を自分たちの手で創っていける面白さがあり、移住者も多い地域です。さまざまな人が交ざりながら新しいまちができていく様子は、いろいろな材料をかけ合わせて新しいお酒を生み出す私たちの醸造スタイルと重なるところがあると感じ、この場所で起業をすることを決めました」

起業型地域おこし協力隊の制度を活用することで、着任から最大3年間、月額20万円程度の報酬を得ながら事業の準備を進めることが可能です。また、地方での起業支援などを行う「Next Commons Lab」や、NCLの南相馬事務局の運営を担う「株式会社小高ワーカーズベース」から事業のサポートを受けることもできます。そうした背景から、南相馬市には起業を志す移住者が多く集まっており、その熱意に触れた地元住民が移住者の挑戦を歓迎する新しい風土が生まれています。

佐藤さんの話を聞いたあと、haccobaの定番商品で、ビールの原料ホップを使った爽やかな香りが特徴の「はなうたホップス」と、原料にカカオハスク(カカオの外皮)を用いた新商品「おこめのしょこらっちゃ」を試飲させていただきました。参加者からは「日本酒特有の風味が苦手でしたが、スッキリとした味わいなのでこれならおいしく飲めます!」などの感想が聞かれ、「クラフトサケ」が酒文化の裾野と可能性を広げていることが感じられました。

■haccoba-Craft Sake Brewery-
https://haccoba.com/

■佐藤太亮さんのインタビュー記事
https://mirai-work.life/magazine/1163/

12:00 「小高パイオニアヴィレッジ」見学

小高パイオニアヴィレッジ

続いて一行は、haccobaから徒歩2分ほどの「小高パイオニアヴィレッジ(以下、パイオニアヴィレッジ)」へ。パイオニアヴィレッジは、コワーキングスペースと簡易宿泊所を兼ね備えた施設で、南相馬市や周辺地域をフィールドに事業創出に取り組む起業家や企業の交流拠点として親しまれています。

ここでは、パイオニアヴィレッジを運営する「株式会社小高ワーカーズベース(以下、ワーカーズベース)」代表取締役の和田智行さんにお話を伺いました。

和田さん

小高区出身の和田さんは、東日本大震災後、小高区に発令されていた避難指示が解除される以前から、小高駅前にコワーキングスペースをオープンさせるなど地域再生への取り組みをはじめ、起業家が集まる場づくりを牽引してきた人物です。

和田さん「震災当時は東京のITベンチャー企業の役員を務めながら、小高区でリモートワークをしていました。でも、避難指示が発令されて、家族と一緒に会津での避難生活が始まったんです。2014年5月に一人で南相馬に戻り、小高区での活動を始めました」

震災や原発事故を経験し、大きな企業に依存しない自立した地域をつくらなくてはいけないと感じた和田さんは、小さくても自立的で持続可能なビジネスを生み出していくことが重要だと考えるようになり、さまざまな事業を立ち上げたり、起業家への支援を行ったりしてきました。

和田さん「避難指示が解除される以前は、まちに人の出入りはあるのに、食品や日用品の買い物ができる場所がなかったんです。そのため、まずは仮設商店『東町エンガワ商店』を始めたり、昼食を食べられる場所がなかったので食堂『おだかのひるごはん』を始めたり、地域に必要なものをひとつひとつ事業化していきました。

また、若者や子育て世代がやりたいと思えるような仕事を創りたくて、ガラスアクセサリーの製造など行う『HARIOランプワークファクトリー』の立ち上げなども行いました。

そうしているうちに、避難していた地元住民も戻ってきたり、老舗商店も営業を再開し始めたりして、まちの様子も少しずつ明るく、穏やかになっていきました。

自立した地域社会を実現するため、これからも起業家と地元の人をつなぐなど、地元企業だからこそできる活動をしていきたいと思っています」

haccobaの佐藤さんのほか、馬を軸にした事業を展開する「一般社団法人 Horse Value」や地域の広報や販促活動のサポートをするローカルマーケターなど、さまざまな起業家がワーカーズベースと連携しながら活躍しているそうです。

建物の前に立っている人たち

低い精度で自動的に生成された説明
平日は社員や起業家が仕事を行う、パイオニアヴィレッジのコワーキングスペース

その後、参加者はパイオニアヴィレッジの事業責任者を務める野口福太郎さんの案内で施設内を見学。2階にあるコワーキングスペースには、グループでディスカッションができるテーブルや、ビジネス書や小説などさまざまなジャンルが集まる本棚などが設置されていました。利用者同士の交流が生まれやすいよう、物理的な区切りが少ないオープンな造りにしていて、自然に生まれた会話がビジネスの種になることもあるのだそうです。

また、パイオニアヴィレッジには短期滞在だけでなく、1週間以上の滞在プランも用意されており、お試し移住の拠点としても利用できます。南相馬市への移住や起業を志している方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

■小高パイオニアヴィレッジ
https://village.pionism.or.jp/

■和田智行さんのインタビュー記事
https://mirai-work.life/magazine/3207/

12:30 「故郷喫茶CAFeカミツレ」で昼食交流会

お昼時を迎えた一行は、JR常磐線小高駅から徒歩5分ほどの場所にある、復興拠点施設「小高交流センター」内の「故郷喫茶CAFeカミツレ」で昼食をいただきました。

店主の吉田祐子さんは南相馬市出身。菓子職人になる夢をかなえるために一度は故郷を離れたものの、「小高に帰ってきた人たちが喜ぶ場所をつくりたい」という想いでUターンし、自身のお店をオープンさせました。店名のカミツレの花言葉は「苦難の中の力」。心を満たすおいしい料理がいただけるこの場所は、日々、常連客でにぎわう、地域住民憩いのスポットです。

人気メニューの日替わりランチセット

昼食交流会では、南相馬市に隣接する飯舘村の地域おこし協力隊で、キャンドル作家としても活動する「工房マートル」の大槻美友さんと、小高区を拠点に地域課題解決に取り組む「一般社団法人オムスビ」代表理事の森山貴士さんもゲストとして合流し、一緒に食卓を囲みました。

イベントに参加した理由やここまでの感想を和気あいあいとシェアするうちに、参加者たちの緊張もほぐれた様子でした。

■故郷喫茶CAFeカミツレ
https://www.facebook.com/profile.php?id=100030791360768

13:20 小高区まち歩き

おなかが満たされた一行は、先ほど訪問したパイオニアヴィレッジで出会った野口さんの案内でまち歩きへ出発。

小高駅前通りには、地元出身者や移住者が立ち上げたお店や活動拠点が並んでおり、ここから新しいまちの歴史が始まりつつあることが感じられます。

小高産唐辛子の加工販売を行う「小高工房」の外壁に描かれた、伝統行事「相馬野馬追」をモチーフにした壁画アート
ゲストの森山さんが経営するカフェ「Odaka Micro Stand Bar~オムスビ~」

参加者からは「実際にまち歩きをしてみたら、おしゃれで新しいお店が多く、自分が住んでいる東京近郊のまちとさほど変わらない印象を受けました。首都圏からの移住者が多いからかもしれませんね」などの感想が聞かれました。

■小高工房
https://odakachilli.thebase.in/

■Odaka Micro Stand Bar~オムスビ~
https://www.instagram.com/omsbgram/

13:50 「aosubashi(アオスバシ)」先輩移住者とのワークショップ

一行は、「一般社団法人オムスビ(以下、オムスビ)」が運営する「aosubashi」に到着。「aosubashi」は、元・寿司屋だった場所をリノベーションして造られた地域内外の交流拠点施設です。現在は主にコワーキングスペースとして利用されていますが、今後、建物の一角にパン屋カフェをオープンし、誰もが気軽に集えるスポットにしていく予定なのだそうです。

ここでは、若者向けのローカルライフマガジン「TURNS」プロデューサーの堀口正裕さんの司会進行のもと、オムスビの森山さん、ワーカーズベースの野口さん、工房マートルの大槻さん、haccobaの佐藤さんから、移住のきっかけや活動への想い、それぞれの働き方についてお話しいただきました。

森山さん

オムスビの森山さんは、もともとは東京のITベンチャー企業でソフトウェア開発などをするエンジニアとして働いていました。入社時から退職までの約5年間に会社の事業規模が急拡大し、社員数も増えていく一方で、社員教育が不十分だという課題を感じていたと言います。

森山さん「仕事ができる社員とそうでない社員の違いは勉強をしているかどうかではなく、社会課題に真剣に取り組んだ経験の有無だと考えたんです。そのため、学生たちが社会に出る前に、地域が抱えるリアルな課題に取り組んだり、やりたいことに挑戦したりできる環境をつくりたいと考えました。今日のまち歩きの時に見ていただいたオムスビも、その想いで仲間と一緒に創った場です。コーヒーを片手に地域住民と話すことで、地域の課題や住民の想いも知ることができます。そうやってヒントを得て、スタッフが地域住民向けのイベント企画をしたり、インターンシップに来た地元高校生と商品開発を行ったりと、さまざまな挑戦が生まれています」

野口さん

ワーカーズベースの野口さんは、首都圏での生活を送っていた学生時代に、家と学校を往復する日々の繰り返しに違和感を覚えて多拠点生活を始め、さまざまな地域を訪れたそうです。そのなかでローカルのおもしろさに気付き、ワーカーズベースに就職されました。

野口さん「東日本大震災や原発事故を経験した小高区に『自分はどう関われるのだろう、そしてこの地域はどのように発展するのだろう?』という予測不可能性に惹かれ、南相馬で就職することを決めました。今はパイオニアヴィレッジの事業責任者としてイベント企画をしたり、小高を訪れる学生たちのアテンドを行ったりしています」

大槻さん

大槻さんは、現在は飯舘村を拠点に活動していますが、以前は実家のある福島市でキャンドル制作を行っていました。移住のきっかけは、飯舘村の地域おこし協力隊との出会いだったと言います。

大槻さん「福島市では、平日に自宅で制作したキャンドルを週末にマルシェで販売したり、不定期でワークショップを開催したりしていました。ある時に、ワークショップの参加者が『飯舘村で地域おこし協力隊として活動してみたら?』と誘ってくれたのですが、その方が飯舘村の地域おこし協力隊だったんです。

実際に飯舘村を訪れてみると、とにかく人が温かくて、自然が豊かで地域資源も多い分、キャンドル作家としての活動の幅も広がると思い、移住を決めました。今もご近所さんや農家さんに花をいただくなど、地域のみなさんにお世話になりながら活動しています」

■大槻美友さんのインタビュー記事
https://mirai-work.life/magazine/3629/

自己紹介タイムの後、佐藤さんに駆け寄り質問する参加者も

haccobaの佐藤さんからは、仕事のやりがいと活動ビジョンに関する話がありました。

佐藤さん「小高区に酒蔵を造って、約2年が経ちました。これまでに新ジャンルの酒を25種類ほど醸造し、地元の方だけでなく県外在住の方々にもご購入いただけるようになり、とてもうれしく思っています。酒蔵に併設した『Brew Pub(ブリューパブ)』も、さまざまな方に訪れていただけるようになりました。今後は、浪江町や海外にも拠点を設け、活動の幅を広げていきたいと思っています」

14:20 先輩移住者によるワークショップ

その後、大槻さんによるアロマワックスサシェづくりワークショップが開かれました。アロマワックスサシェとは、キャンドルの素材であるワックス(ロウ)をアロマオイルで香りづけし、ドライフラワーで彩りを加えて作るフレグランスアイテムのこと。インテリアとして飾っておくだけで、ほのかな香りが楽しめます。

キャンドルを通して福島の魅力を伝えたいという想いを持っている大槻さんは、福島県内で育った草花を使った作品を制作しています。この日も、飯舘村で育ったスターチスやアジサイなど、色とりどりの花を用意してくださいました。

「朝晩の寒暖差が大きい飯舘村では、丈夫な花が育ちます。色もちも良いと感じています」と大槻さん。

手のひらサイズのキャンドルベースに、思い思いに花を飾り付けていく参加者たち。お気に入りの花をどーんと載せる人、小ぶりな花をポツポツ載せていく人、バランスを見ながら何度も調整を繰り返す人……一人ひとりの個性が垣間見えます。作業しながら「こんな感じでいいんですか?」と心配そうな表情を見せる参加者に、「それぞれのセンスが光るから面白いんです」と優しく見守る大槻さんの姿が印象的でした。

ロウが固まったら、世界に一つのアロマワックスサシェの完成!

15:30 市町村担当者との座談会~お茶会~個別相談会

ワークショップの後は、アロマの心地よい香りの中で、参加者とゲストとの座談会がスタート。

実際に参加者から出た質問とその答えを、一部抜粋して紹介します。

―移住する際に苦労したことはありましたか?
「家探し」ですね。空き家はあるのですが、移住するタイミングによっては家賃が高かったり、賃貸物件が見つからなかったりすることもあります。でも、最近は単身者向けの間取りのアパートの空きが出てきたようですし、共同生活をしている若者も増えていると聞いています。

―移住して起業する上で、気を付けておくべきポイントはありますか?
起業後は事業計画や周りの人たちとの関係性づくりに悩むこともあると思います。そんな時に、仕事の悩みを同僚にしか話せない状況だと次第に行き詰まってしまいます。地域で活動していると、仕事とプライベートの境目が曖昧になることも少なくないので、仕事で関わる人以外に信頼して話ができる仲間をできるだけ多く作り、頼れるコミュニティに複数所属できるといいと思います。

―二拠点生活を検討しています。受けられるサポートはありますか?
まずはレンタルオフィスやコワーキングスペースを利用して、ワーケーションなどをしていただくのも一つの手です。例えば、楢葉町の「天神岬スポーツ公園」には、全室オーシャンビューの宿泊施設や太平洋を望む絶景の露天風呂、キャンプ場があり、息抜きしながら仕事ができます。

個別相談会では、参加者それぞれが気になっていることを深堀りしました。現地で活動する人に相談することで、よりリアルな情報を得る機会になったようで、送迎バスの出発時間ギリギリまで話し込んでいる参加者もたくさん見受けられました。

参加者の声

最後に参加者に、イベントの感想を聞きました。

「福祉系の活動で何か役に立てればと思い、さまざまな方にお話を聞きました。特に、個別相談では、福島12市町村の福祉環境について詳しく教えていただき、大変勉強になりました」(40代女性)

「実際に起業した方と話をすることで、自分のやりたいことがより明確になりました。起業経験者と直接話せる機会はなかなかないので、参加できて良かったです。個別相談会で、起業だけでなく地元企業への就職も検討していると話すと、地域のおすすめ企業を教えていただくことができたので、詳しく調べてみたいと思います」(20代女性)

「東日本大震災が起きてから、被災地のために『何かしたい』という気持ちはあったものの、結局何もできていませんでした。このイベントを通して被災地域への関わり方を見つけたい、そんな気持ちで参加しました。実際にまち歩きをしてみて、『この地域は面白い』という実感が持てたように思います。福島12市町村のそれぞれの地域のことが聞けたので、じっくり考えて移住先を決めたいです」(60代男性)

地域に関する情報はさまざまな方法で得ることができますが、今回の現地体験イベントのように、実際に現地を訪問してその土地の空気感を感じたり、先輩移住者の声を直接聞いたりすることで得られる情報も多いもの。

今回参加した皆さんも、帰りのバスの中でも「移住フェアやネット上で見聞きする表面的な情報では得られない、苦労話などのぶっちゃけた話も聞けて、現地に来ることの大切さを実感した」「先輩移住者の皆さんが、まちに誇りと責任感をもっていろいろ挑戦している姿がすごく刺激になった」など、現地の熱量に興奮冷めやらぬ様子でした。

まだ自分の“やりたいこと”が明確になっていない方も、「働き方を変えたい」「新しい場所で暮らしてみたい」という素直な気持ちを大切に、福島12市町村を訪ねてみてください。地域再生に向けて、それぞれの夢の実現に向けて、挑戦を続ける人々との出会いから、新しい可能性が見えてくるはずです。

ふくしま12市町村移住支援センターは、今後も地域の魅力をリアルに体感できるイベントを開催していく予定です。最新のイベント情報は「未来ワークふくしま」内の「TOPICS」で随時発信していきますので、ぜひチェックしてみてください。

皆さまのご参加をお待ちしております!

■第2回現地体験イベントのダイジェスト動画を公開しています(YouTube)

第1回ふくしま12現地体験イベントのイベントレポートはこちら
https://mirai-work.life/magazine/4262/

■福島12市町村のイベント情報
https://mirai-work.life/topics/#categories=event