移住サポーター

楽しい場所は作れる!田村市で活躍できるフィールドを広げる「Switch」

2022年12月28日
田村市
  • まちづくり

「田舎」と聞くと、どんなイメージが湧くでしょうか?

「空気がおいしい」「自然が豊かでのびのびと過ごせる」などメリットを思い浮かべる人もいれば、「退屈そう」「仕事の選択肢が少ない」といったデメリットを挙げる人もいるでしょう。すべてが満たされているとは言えない田舎での暮らしですが、そこに住む人たちが生き生きと楽しく暮らせる場づくりに取り組んでいる人たちがいます。一般社団法人Switch (スイッチ)です。

Switchは「田舎で楽しめ!」をモットーに、地元の人と移住者が一緒になってやりたいことに挑戦し、活躍できるフィールドを提供しています。いったいどんな活動をしているのでしょうか。代表の久保田健一さんにお話を聞きました。

ワクワクを生み出すSwitchの拠点「テラス石森」

阿武隈高地に位置する山あいの町、田村市。澄んだ空気が気持ちよく、遠くには紅葉に染まった山々が連なります。そんな景色を目の前にして建つ「テラス石森」が、Switchの活動拠点です。
「テラス石森」は、廃校となった旧石森小学校を活用し、2018年にオープンした複合型テレワークセンター。サテライトオフィスやコワーキングスペース、ミーティングルーム、イベントスペースを備え、市民の交流の場、新たなビジネスにチャレンジする場としても活用されています。

ここでSwitchは、まちづくりに関わるさまざまな事業を展開しています。ホームページをのぞいてみると、「木こりと語る。林業のあれこれ」や「昆虫ビジネスアイデアワークショップ」「縁結び旅」など、面白そうなイベントやコンテンツが並び、ワクワクを誘います。

Switchホームページより

そのワクワクの中心にいる人物が、久保田健一さんです。

「このまちで『楽しい』を生み出すことがSwitchの活動なんです」と久保田さん。市民たちの交流の場づくりを行うほか、移住相談窓口や移住サポート、雇用や生業づくり、空き家問題の解決など、行政や民間機関と連携しながら地域課題の解決に取り組んでいます。

Switchのメンバーはデザイナーや木こり、主婦などさまざま。多様な人たちが関わり、それぞれのやりたいことを尊重した活動を行っているのだとか。Switchの活動スタイルはあくまでも「楽しく」チャレンジし、ないものは自分たちで作り上げていくことです。

Switch立ち上げの経緯。何もないまちを、やりたいことができるまちに

久保田さんは、田村市出身。自然豊かな環境で幼少期を過ごし、思春期になると「ここには何もない」と感じるようになったそうです。高校進学とともに地元を飛び出し、田村市に戻ることは考えていなかったといいます。
広告代理店でデザイン企画の仕事に就き、忙しくもやりがいを感じる日々。そんな久保田さんが自分自身と向き合うきっかけとなったのが、東日本大震災でした。

「今まで当たり前にあった会社がなくなったり、明日はどうなるかわからない現実に、人生の残された時間を意識するようになりました。徹夜が当たり前のような働き方を続けてきたけれど、今のままで本当に幸せなのだろうか。自分のやりたいことに真剣に向き合った方がいいのではないか……。そうして独立を視野に入れるようになったんです」

ある日、田村市で音楽フェスティバルの企画が立ち上がります。久保田さんは、地元の先輩からデザインの仕事を頼まれたことを機に、実行委員会に加わることに。そこで地域の人たちと関わってみると、地元の見え方が180度変わったそうです。

「何もないと思っていた田村市にも、熱い思いを持って主体的に活動している人たちがたくさんいることに刺激を受けました」

音楽フェスティバルの運営を通じて、田村市や田村市と連携してまちづくりに取り組む株式会社ジェイアール東日本企画とのつながりも生まれ、地域のさまざまな課題に触れることになった久保田さん。使われなくなった廃校をテレワークセンターとして活用する企画が持ち上がり、久保田さんに「やってみないか?」と声が掛かったそうです。

ハードを整備しただけでは、そこに何も生まないと考えた久保田さんは、一般社団法人Switchを立ち上げ、田村市を元気にしていきたいと志す仲間たちと共に、廃校を“まちの交流拠点”に再生することを目指しました。そうして完成したのが「テラス石森」です。

「人の交流が生まれる場所をつくることで、新たなビジネスや雇用が生まれ、人材も育ち、地域で経済を回していくことができるかもしれません。田舎であっても、住民がやりたいことを実現できるまちづくりを行っていくため、Switchを立ち上げました」

楽しいと思える場所がないなら、自分たちで作る

Switchの拠点「テラス石森」では現在、田村市でコミュニティ農園を始めたい人、ヨガを地域に広めたい人、学びや体験の場を作りたい人などによって、さまざまなイベントやプロジェクトが立ち上がり、市内外の人たちとの交流が生まれているそうです。

また、子育て世代に向けての取り組みやコミュニティ作りも積極的に行われています。例えば「おしごとスイッチ」では、子どもたちがいろいろな仕事を体験できる「キッザニア」のような職業体験の場を提供しています。子どもたちが自分の将来について「田舎だから」とあきらめるのではなく、自分の可能性を信じて成長してほしいという思いからこの活動が始まったそうです。

また、森を舞台にした「もりのび」では、自然の中に遊び場を作る活動を行っています。震災と老朽化の影響で撤去されたレジャー施設の跡地を、みんなの力でワクワクする遊び場に変えるべく、すべり台を作ったり、水鉄砲合戦を繰り広げたり、地域の人たちを巻き込みながら子どもたちの遊び場を手作りしているのだそうです。

「田舎か都会かという軸に縛られるのではなく、まずはここが楽しいと思える場であるかが大切です。なければ作る、ひとりでできなければ、みんなで手伝う。私たちSwitchは、誰もが活躍できて、成長できる場を作りたいと思っています」

移住したその先を見据えたサポートを

「テラス石森」内には、田村市の移住相談窓口「田村サポートセンター」が設置されています。首都圏に住む人が移住・就職の相談ができる「田村市・東京リクルートセンター」(東京都渋谷区)と連携を取りながら、移住支援を行っているのだそうです。

Switchでは移住相談窓口に加えて、移住体験ツアーの受け入れも行っています。1泊2日の農業体験ツアー、山暮らし体験ツアーなど、ネットの中だけでは知り得ない現地での体験や触れ合いは、田村市の魅力を知ることのできる貴重な機会となっています。また、個別アテンドの対応も行っており、移住に関する各種支援制度や空き家情報を案内しているそうです。

しかし、久保田さんはツアーだけでは本当に地域に入り込むことは難しいとも感じています。

「だからこそ、『おしごとスイッチ』や『もりのび』のようなイベントを開催し、田村市を訪れていただくきっかけだけでなく、地域課題に取り組む人に会いに行ける場を提供しています」

移住・定住支援だけでなく、移住して起業したい人と地域の人材とをつなぐこともSwitchの重要な役割なのです。

「広告代理店でデザイン企画の仕事をしていた時は、PCの前に張りついて、いかに納期までに精度の高い制作物を出すかということを考えていました。でも、田村市に来て畑違いの人たちと交わってみると、自分だけで作り上げられるものって限られているなと感じます。地域の人と関わることで挑戦できる機会や、学びが得られると思うんです。次のSwitchのステップは、ここで育った人たちの出口や活動先を作っていくことですね」

地方で何かに挑戦したい方、活躍できるフィールドを探している方は、Switchや「テラス石森」を訪れてみてはいかがでしょうか。イキイキと活動する地域の人から、大切なことを教わるはずです。


■一般社団法人Switch
住所:〒963-4313 福島県田村市船引町石森舘108(テラス石森内)
HP:https://switch-or.jp/
facebook:https://www.facebook.com/2018switch
Instagram:https://www.instagram.com/switch_0413/

■テレワークセンター「テラス石森」
住所:〒963-4313 福島県田村市船引町石森舘108
TEL:0247-61-7575
営業時間:10:00〜18:00
定休日:日曜日

※内容は取材当時のものです。
取材・文:奥村サヤ 撮影:及川 裕喜