事業紹介

【企業紹介】トリチウムの全量連続測定機器の開発を世界で初めて実現

2023年10月13日
南相馬市
一般社団法人新生福島先端技術振興機構 代表理事
齋藤 雄一郎 氏
1994年荏原製作所に入社し、真空式下水道システム、流動床式ガス化溶融炉3次元設計システム等の設計開発に従事。米国留学を経て2004年三和製作所入社。2015年、新生福島先端技術振興機構の立ち上げに伴い代表理事に就任。

福島12市町村には今、新しい技術の研究・開発・拡大に取り組むスタートアップベンチャーや中小企業が数多く進出している。しかし、大企業とのパートナーシップや金融機関との信用関係がまだ構築できていない企業にとっては、研究開発で大きな成果を得たとしても、その先の認知の拡大や販路の確保が事業化の大きな課題となる。

一般社団法人新生福島先端技術振興機構は、福島の復興に貢献する優れた技術やアイディアをもつ福島県内外の中小企業が束になり、一つの組織としてプロジェクトを推進することで、そうした課題を克服している。法人発足の経緯や手掛ける技術について、代表理事の齋藤雄一郎氏、庶務の平山貴浩氏、正会員の木戸幸也氏に話を聞いた。

技術を活かして福島の復興に関わる組織の集合体

新生福島先端技術振興機構は2015年の設立。「福島県内にて先端技術の評価及び集約、既存技術の革新をもって、人類に役立つ適切な技術を醸成すること」を目的に掲げている。

取材に応じてくれた3人は、それぞれ独自に持つ経験と技術を活かして福島の復興に関わっている。平山氏が代表取締役副社長を務める株式会社日本遮蔽技研はもともと土壌汚染対策の会社だったが、震災後はその知見を除染事業に展開。スムーズかつスピーディーな除染作業を実現するため、東北で唯一となる放射線測定器の校正施設を自社で立ち上げた。

平山貴浩氏

また木戸氏は、自らが代表を務めるワイケーテクノにおいて、震災前から手掛けていた害獣駆除事業を避難区域の獣害対策に転用。AI技術を使った新たなイノシシ駆除の仕組みを開発し、南相馬市や飯舘村ですでに実用化されている。

木戸幸也氏

こうした震災後の各事業の成功は、いずれもそれぞれの企業単体ではなし得なかっただろうと平山氏は語る。

「違う技術を持つ人たちが集まることの強さが、当法人の大きな特徴だと思っています。震災をきっかけに新しい技術を生み出した会社もあれば、震災以前から突き詰めてきた技術をより磨いた会社もあります。共通しているのは、自社の技術を福島の未来に何とかして役立てたいと思っていること。その技術を社団という公共性のある組織から発信すれば、中小企業であっても大企業や自治体と話がしやすくなり、事業は加速します。」

処理水の安全かつ迅速な放出を実現する機器

今、そんな新生福島にとって最も大きな取り組みとなっているのが、廃炉作業が続く東京電力福島第一原子力発電所で燃料デブリを冷やした水、いわゆるALPS処理水の海洋放出にまつわる放射性トリチウムの測定技術。ここには、代表理事である齋藤氏の関与が大きい。

ALPS処理水の海洋放出は、今も根強く残る風評被害に配慮するためにも、厳格に数値を測定したうえでの放出が大前提となる。そこで大きなネックとなっていたのが放射性トリチウムの測定だった。トリチウムはさまざまな放射性物質の中で最も数値の測定が難しいとされ、これまではサンプリングによる測定方法しか存在しなかった。また、測定結果が出るまでに長い時間を要することも課題だった。

そこで新生福島では、ALPS処理水の安全かつスピーディーな海洋放出を実現すべく、法人設立当初からトリチウム測定装置の開発に着手。約8年の研究開発期間をかけ、トリチウムを含んだ処理水の全量かつ連続的な計測を可能とする機器「シンチレーションカウンター」の開発に成功した。

このシンチレーションカウンターの開発により、政府が定めた1リットルあたり1,500ベクレル以下という放射線量の厳しい海洋放出基準を、24時間ほぼリアルタイムで監視できるようになった。これは世界初のトリチウム計測技術であり、IAEAからも高い評価と期待が寄せられているという。

新生福島が開発したシンチレーションカウンター

処理水の海洋放出が順調に進めば、次はシンチレーションカウンターの継続的な保守・メンテナンスが必要になる。新生福島では、迅速な保守体制を整えるべく、富岡町に新たな拠点を設置。「原発の近くに拠点を構えることで、今後は地域の雇用創出にも貢献できるはず」と齋藤氏は語る。

齋藤雄一郎代表理事

「Made in 福島」の推進で雇用の創出に貢献

新生福島のメンバーは現在も、福島の復興に向けてそれぞれの分野で新しい技術の開発に励んでいる。CO2削減や森林の循環に貢献する木質バイオマスの普及拡大とそれに伴う関連機器の福島県内での開発・製造、12市町村内におけるスマートシティの実現などが具体的なビジョンとして挙げられる。

「我々が今後目指すのは、『Made in 福島』の製品を増やすことです。提供する装置のサプライのほとんどを福島に集約したいと思っています。特にバイオマスなど環境関連の機器はまだまだ海外でしか製造されていないものが多く、今後の国際情勢などによっては迅速かつ十分な輸入が確保できるかわかりません。それを福島12市町村で製造することで、メンテナンスにおけるスピード感や透明性を確保しつつ、地域の雇用創出に貢献する組織でありたいと思っています。」(齋藤氏)

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■一般社団法人新生福島先端技術振興機構
福島県内で地場産業を創造し、雇用の創出と地域の活性化を実現すべく設立。福島県内のほか、東京や大阪、北陸、四国など各地から集まった12の企業・組織で構成されており、ロボットやセンサー、再生可能エネルギーといった先端技術の審査や検証、人材の発掘など、20の事業内容を掲げている。
〒979-2162 南相馬市小高区飯崎字南原65-1
https://www.sentangijyutu.org/

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:髙橋晃浩