【企業紹介】ゲノム編集技術の民主化で未来の食を支える基盤を

2022年12月16日
  • 事業紹介
株式会社セツロテック 代表取締役社長
竹澤慎一郎 氏
東京大学大学院博士課程修了。独立行政法人科学技術振興機構、株式会社インスパイアを経て、株式会社バイオインパクト、ゼネラルヘルスケア株式会社(現GH株式会社)を設立。2017年、竹本龍也氏らと共に株式会社セツロテックを設立。

陸上養殖や完全閉鎖型の植物工場、昆虫食の広がりなど、ゲノム編集技術と親和性の高い、新しい食糧生産の動きが加速してきている。
徳島大学発ベンチャーであるセツロテックは、独自のゲノム編集法を武器に、「生き物がもつ多様な能力を引き出す」技術で実社会への貢献を目指している。

ゲノム編集の可能性を高める2つのコア技術

従来、受精卵への遺伝子導入には針を使った個々の胚へ導入するマイクロインジェクション法が一般的で、熟練した技術が必要だった。同社は徳島大学発の独自のエレクトロポレーション法(GEEP法)により、受精卵へのゲノム編集ツール導入を短時間かつ容易で高効率にした。
最適化した条件の電気で細胞膜に一過性の穴を開け、導入できる。さらには培養細胞に高効率でゲノム編集を可能とする徳島大学発の技術VIKING法を開発を活用している。
これらにより、研究支援事業ではゲノム編集マウスやゲノム編集細胞の受託作製サービスを提供する。

▲鶏卵から抗体大量産生する「次世代型生物工場」の開発に向け、研究を行う研究員。

畜産業への貢献を目指して

「創業前後は、徳島大学で開発されたゲノム編集技術は、遺伝子組み換え技術とは異なり、国内においては法整備の進んでいない分野であり、まだまだ産業としての規模は小さい分野でした。しかし、私はこの技術に出会ったとき、確実に世界を変える。そう確信しました」と竹澤さんは語る。

初めはコア技術を活用した研究支援事業から始まった。しかし、高まる食糧生産力低下の課題に対して、畜産業における疫病に強い品種改良技術向上の重要性を知り、自社の技術で食糧問題に貢献するべく、畜産に特化したツール開発をするという大きな舵切りをした。
そして、2022年には大型哺乳類のゲノム編集例としては国内の企業初のゲノム編集によるヤギの作出に成功した。

夢を計画に落とし込み、実行できる仲間を

苦労の連続の中で活動を続けるベンチャーにとって、応援してくれる場所や人は大きな支えだ。
福島県南相馬市から鶏卵から抗体大量産生する「次世代型生物工場」の開発補助金を得て、同市で研究を開始したことがきっかけとなり、現在も育種研究が進行中だ。

「福島には恩をしっかり返したい、という思いがありますね。それはラボを拡大し雇用を創ることだと考えています」と竹澤さんは話す。

同社は半数が博士号取得者であり、異分野人材が集まって研究している。行動力と計画性を持って未知の領域に攻め込む姿勢を持った仲間を集めることで、研究員からボトムアップで研究提案が起こる研究所を目指している。
(文・楠晴奈)

▲福島県南相馬市の地域復興実用化開発等促進事業費補助金を得て購入した実験機器。