【企業紹介】未来のニーズを廃炉技術から創り、イノベーションを起こす

2022年12月21日
  • 事業紹介
大熊ダイヤモンドデバイス株式会社 代表取締役
星川尚久 氏
2012年、北海道大学発の学生ベンチャーを代表として起業。経営の軌道に乗せたものの、テクノロジーベンチャーへのあこがれが強く、北海道大学の技術シーズを探索。極限技術に挑み実装する、これこそが私のやりたかったことだと心の底から確信し、同大工学研究院学術研究員として金子研究室に所属し、2022年3月、代表取締役として大熊ダイヤモンドデバイス株式会社を設立。

ダイヤモンド半導体は、どんな環境でも動き、高熱のなかでも動かすことができる「夢の技術」だ。
ダイヤモンドなどの耐放射線性のある材料開発から計測システム開発までのものづくりを体系立てて実施する北海道大学准教授の金子純一氏と、人類の進歩に貢献したいと想う星川尚久氏が出会い、廃炉事業に伴走し続け、その技術の実装を目指している。

究極の材料であるダイヤモンドは材料科学者の夢

「もっと世界規模で価値を生み出せることをしたい」

そんな想いで、新規技術を探していた星川氏が出会ったのがダイヤモンド半導体を研究する金子氏だった。ダイヤモンド半導体は材料研究者にとって夢の技術だが、実現不可能だという意味でも究極の半導体だったのだ。
材料を制すものは市場を制す、という言葉に共感した星川は、究極の材料であるダイヤモンドの実用化にやりがいを感じた。それから、材料研究の最先端でダイヤモンドを研究し続けてきた金子研究室にコミットし続けて7年。
ダイヤモンド半導体の製造プロセスの最先端技術を持つ、産業技術総合研究所の梅沢仁氏らとともに、星川氏は会社設立に辿り着いた。

▲500℃でも動作できるダイヤモンドトランジスタを用いた増幅回路。

廃炉事業による集結技術を社会に実装させる

ダイヤモンド半導体技術は500°C以上の高温環境でも安定して動作する電子デバイスの作成が可能なため、プラントメーカーにおける耐環境デバイスや、熱が逃げない真空状態での動作が要となる宇宙産業での応用、熱が発生する高周波数といった通信業界における活用など、各業界にイノベーションを起こせる技術だという。
耐放射線でもあるため、奇しくも東日本大震災で発生した廃炉事業において、ヒト・モノ・カネが集められ、廃炉技術が結集したことにより技術度が成熟した。

「金子研究室で請け負ってきた廃炉に関する国家プロジェクトで開発してきた技術を、廃炉事業以外の産業に展開して実用化までもっていくことが私たちの責任だと思っています」と星川氏は話す。

事故を乗り越え産業を興す仲間がほしい

会社名につけた「大熊」は、福島県双葉郡にある大熊町、福島第一原子力発電所の事故が起きた場所だ。星川氏も、一部区域で2019年4月に避難指示が解除されてから通い詰めた。
元通りは難しくとも、アップデートしてスタートできるといい。
そんな想いで、ダイヤモンドデバイスの世界で初めての民間工場を、地域復興実用化開発等促進事業費補助金も活用して大熊町に2026年に建設予定だ。準量産体制で数十人が働く規模を構想している。

「材料などの開発、半導体プロセスに中心的に関わる研究者など、『半導体新材料の実用化』に興味のある人に集まってもらいたいですね」。

これから高周波数のニーズが出てくる通信技術で半導体を提供するなどの未来のニーズに向かってインフラづくりをしたいと星川氏は意気込んでいる。
(文・井上 麻衣)

▲福島県大熊町に建設中の開発拠点の完成予定図。