支援制度

移住後の生活をイメージできる大熊町の「お試し住宅」

2023年4月19日
大熊町
  • お試し住宅

福島12市町村でも多くの市町村が用意しているお試し住宅。「移住前に現地での生活を体験したい」という人にぴったりの支援制度です。今回は、2023年2月にスタートした大熊町のお試し住宅をご紹介します。

一時期は町全域が「避難指示区域」および「警戒区域」となっていた大熊町。段階的に避難指示が解除され、2022年にはかつて町の中心地だったJR大野駅周辺でも避難指示が解除。賃貸住宅や家族で住むことができる戸建ての中古物件も増え、2023年春には、保育施設や義務教育学校を一体にした教育施設「学び舎 ゆめの森」が開校。今まさに、まちづくりが再び始まったばかりの地域です。

広々5LDKで最大6人、7日間の暮らしを体験

JR大野駅から南西へ車を5分ほど走らせると、左手にオレンジ色の建物が見えてきます。ここが大熊町移住定住支援センター。管理・運営するのは「おおくままちづくり公社(以下、公社)」です。

出迎えてくれたのは、公社で移住定住支援を担当する山崎大輔さん。

ご自身も移住者で、「移住のことなら任せてください!」と頼もしい言葉をいただきました。公社のスタッフは9人で、山崎さんを含む2人が移住相談を担当しています。

それではさっそく、実際のお試し住宅を見てみましょう。

場所は大熊町移住定住支援センターから車で数分の住宅街。2005年建築の5LDKで、最大6人が最大7日間、無料で年2回まで利用できます。(連続する利用は不可、12月29日~1月3日は利用不可、年の区切りは4月1日~3月31日)

広々としたリビングには、南側の大きな窓から明るい日差しが差し込みます。積雪はほとんどなく、年間を通じて涼しく温暖な大熊町ですが、エアコンとヒーターがあるため暑さ寒さ対策も万全です。

キッチンは3口のIHコンロに、食器洗い乾燥機まで付いています。電子レンジに炊飯器、トースター、食器も完備しているため、食材さえ調達できれば日常生活が送れます。

キッチン以外にも、生活に必要な物はほとんど揃っています。洗濯用洗剤やシャンプー、ドライヤーも完備。「着替えと歯ブラシセットさえ持ってきていただければ十分生活できます」と山崎さん。

2階には個室が2つ。家族での滞在中にプライベートな空間がほしいという人も、落ち着いて過ごすことができます。

インターネット環境も整っていますが、お試し住宅すぐそばにある大熊インキュベーションセンターのコワーキングスペースは、テレワーク等をしている人と交流もできるためおすすめです。

町に関わる人ともつながれる体験プログラム

町役場近くにある商業施設「おおくまーと」。ランチタイムは駐車場が満車になることも

お試し住宅の利用前には、移住後のイメージと実際の生活に大きなギャップがないかを確認するため、担当者が電話で簡単な聞き取りを行います。

例えば、生活する上での移動手段などの住環境における点。お試し滞在中はバスや電車を使ったり、近隣市町村でレンタカーを借りたりして過ごすこともできますが、町内にはコンビニはありますがスーパーがなく、一番近くで食材が購入できるのは車で15分ほどの富岡町にある「さくらモールとみおか」。町診療所も内科のみです。「町には無料の循環バスがありますが、本数は1時間に1本程度。車がないと、仕事も含め生活は難しいかもしれません」と山崎さんは話します。

滞在中は、利用者の希望をもとに「移住体験プログラム」が組まれ、町での生活を熟知した担当者から直接町を案内してもらえます。飲食店やコンビニが集まる町内の商業施設「おおくまーと」、診療所、郵便局のほか、「さくらモールとみおか」なども見学し、生活インフラを確認できます。

また、現地の人々との交流の機会も滞在中に提供しています。

「お子さんがいらっしゃるなら学びの場や学校関係者、農業をやりたい方であれば農業をしている方をご紹介します。場所の案内だけではなく、人とつなげることで、より移住のイメージを掴んでいただけると思っています」と山崎さん。移住前に相談できる知り合いができれば、安心して移住が決断できそうです。

大熊町はチャレンジしたい人におすすめ

「大熊町は『自分の力を試したい』『何かに貢献したい』『新しいことをしたい』という人に、世界一おすすめしたい町です」

山崎さんは千葉県出身。青年海外協力隊として南米コロンビアで活動後、タイの大学院で人道支援を学び、2022年2月に大熊町に移住しました。

「英語とスペイン語が話せるので職業の選択肢は世界中にありますが、大熊町は世界有数の“課題のある町”だと思います。普通の町になるか、一風変わった面白い町になるかの瀬戸際の町に、人を呼び込んでまちづくりをする。そんな仕事に強く惹かれました」

移住後は、町民や移住者との関係作りに奔走。培ったネットワークは、移住支援ですでに実を結んでいます。

例えば、先日移住してきた女性。新規就農を希望していたことから、山崎さんはすぐに知り合いの農業委員を紹介し、農地を確保しました。また、町内にペット可の物件はありませんでしたが、ペットを飼っていた移住希望者のために賃貸物件の大家さんや不動産業者と話をし、飼育の許可を得ました。最初の相談から3ヵ月で、住む場所の目途がついたそうです。

「大熊町は現在のところ、移住希望者が少ない状況です。でも逆を言えば、一人ひとりに手厚く対応できるので、支援のしがいがありますね。今の大熊町の課題感に興味を持って、一緒にまちづくりをしてくれる方に、ぜひ来ていただきたいです」

大熊町で新たなチャレンジをしたいと思っている人は、ぜひお試し住宅で実際に町での生活を体験してみてはいかがでしょうか。

お試し住宅について、詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/iju/23150.html

■大熊町移住定住支援センター
〒979-1308 福島県双葉郡大熊町大字下野上字清水307-1
HP:https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/iju/
TEL:0240-23-7103
受付時間 9:00~17:45(日・祝日を除く)

文・写真:五十嵐秋音