移住者インタビュー

地方の課題解決を通して成長したい

2021年12月15日
南相馬市
  • まちづくり
  • 単身
  • 移住を決めたきっかけ
    南相馬市でやりたい仕事を見つけたから
  • これからの目標
    仕事を通じた自己実現のために南相馬へ移住する人を増やしたい
  • 移住を希望する人へメッセージ
    まずは今住んでいる場所との二拠点から南相馬と気軽に関わってほしい

2021年9月に南相馬市に移住した後藤彩さんには、将来、病気の患者さんの生活の課題解決に携わる事業を興したいという目標があります。大学卒業後、製薬会社に就職して郡山市に赴任。営業職として奔走したのち、次は一つの事業を先導して形にするスキルやノウハウを身に付けたいと、まちづくり事業などを担うMYSH合同会社(東京)へ転職しました。現在、新たに設立した南相馬支社で移住促進事業に携わっています。

「仕事に集中できる環境」という南相馬で、同僚と生活を共にしながら目標に向けて走る後藤さん。陽の光が綺麗に差し込む南相馬市のコワーキングスペース「NARU」で、移住後の生活やお仕事の目標について聞きました。

新規事業立ち上げで経験を得たかった

――南相馬市と交流するようになったきっかけを教えてください。

大学4年生のころ、地方の魅力発信を行う日本酒バー「MYSH Sake Bar」(東京)で、「週1女将」として地元・熊本県や関わりある地方の食を発信していました。卒業後は製薬会社に就職しましたが、営業職として郡山市の支社に赴任し、浜通りエリアを担当していることを知ったMYSHの代表に誘われ、南相馬市との移住促進プロジェクトのお手伝いをするようになりました。

――移住を決めた経緯を教えてください。

南相馬市とプロジェクトをご一緒するなかで、南相馬に人を呼び込む仕組みを作るために、私たちも現地に拠点を持ち、まちづくりの実践を担いたいと思うようになりました。自分のキャリアを考える契機も重なり、2021年9月に南相馬に移住、その後MYSHに転職し、南相馬支社の立ち上げに取り組み始めました。

南相馬には、一つの事業を形にする経験を得にきました。私自身は将来、患者さんの日常を豊かにできるような、生活やケアに関わる事業を興したいと考えています。そのために、前職の頃から次のステップでは事業で実践を重ねる機会がほしいと思っていました。新卒で勤めた製薬会社も大好きな組織でしたが、長期的な自分の成長の角度を想像すると、今、新たな事業を先導し、何かを形にする経験を積んだ方が成長の伸びが大きいと思いました。

――サーフィンとの出合いも大きかったとか。

今でも鮮明に覚えているのですが、去年の夏、南相馬市の方にいただいた観光誌「ミナミソウマガジン」を日曜日の夕方に家でめくっていたら、サーフィンで有名な地元の方の写真がぱっと目に入り、瞬間的に「一緒にサーフィンしてみたい!この人に電話しよう!」と思ったんです。すぐに電話して、翌週にはサーフィンをしに南相馬に行くことになり、それからすっかりはまってしまいました(笑) 前職で郡山に住んでいた頃、出張が多かったため、近くに住む友人もあまりいませんでした。サーフィンで通い始めたこともあり、気付けば南相馬での知り合いの方が多くなっていました。そういう意味でもMYSHへの転職と南相馬市への移住は私にとってぴったりで。移住後は仕事中心の生活でほとんどサーフィンには行けていませんが、これからは朝から海に入って、その後に仕事をする生活が理想です。

環境と人に恵まれ仕事に集中できるまち

――実際に南相馬で暮らしてみて、いかがですか。

暮らしやすく仕事に集中できるまちですね。自然が多く、朝起きると風が綺麗で、日の出のグラデーションが美しいです。今は事務所を持たず、コワーキングスペース「NARU」で仕事をしているのですが、雑音が少なく、生活から仕事へスムーズに移行できます。

人にも恵まれています。野馬追の馬に乗せてもらったり、会社で借りている畑で地元の方に農業を教えてもらったりして、仲良くさせていただいています。

――生活してみて困ったことはありましたか。

交通手段です。生活するのに車が必須になるので移住する時に車を買い、MYSH南相馬支社のスタッフと2人で1台の車をシェアしています。いつ車を使うかお互いに調整が必要で大変ですね。移住者でカーシェアリングができたり、アクセスの良い場所に住める住宅の選択肢が増えたりするといいなと感じています。

――住宅の確保はスムーズに進みましたか?

現在は移住者などを対象に一定期間、公営住宅を格安で提供する自治体の支援を受けています。この期間に仕事を進めながら、事務所兼住宅にできる古民家や、賃貸物件を探しています。 ただ、物件の情報をいただいても事務所兼住宅となると家賃が高かったり、所有者の方が賃貸ではなく売却を希望していたりと、条件が合う物件がまだ見つかっていません。地元の方とのつながりを作りながら探していきたいですね。単身用のアパートはたくさんあります。

仕事を通じて自己実現する仲間を増やしたい

――今進めているお仕事について教えてください。

南相馬市と協力して、20~30代を対象にした移住促進や、移住者のための仕事づくりをしています。今年度は首都圏の学生と20代の社会人を対象に、南相馬で課題や事業化の可能性がある場所を見て、事業アイデアを考えてもらうプログラムを進めています。南相馬では自らプロジェクトを起こし、仕事で挑戦したい人に移住して欲しいですね。

――南相馬の課題とは、どんなことなのでしょうか。

南相馬市は大きく鹿島区、原町区、小高区の3地区に分かれます。人の流れで見ると、小高区は新しく来る人が増えている一方で定着していません。原町区は駅前のにぎわいが減ってきています。鹿島区は住宅が多いけれど飲食店が少なく、地元にお金が落ちにくいなどの状況があります。ただ、商店は減ってきていますが、人が集まる拠点になりうるスペースはあるので、例えばチャレンジショップとして移住者がお店を開くことができる拠点をうまく作ることで、にぎわい創出につながるとみています。

南相馬ならではの食を地元で味わえる場所も必要ですね。沿岸部なので魚介類のイメージがありますが、南相馬で水揚げされた魚はいったん相馬で加工しないと流通できないため、南相馬産と表記して販売されている魚はありません。地元で収穫されたおいしい野菜も地元産と理解して食べられる飲食店が少ないですし、畜産農家の方から豚肉がおいしいと聞いても、個人では県の食肉センターから取り寄せないと買えないこともあります。例えば、こうした食材のストーリーを伝え、南相馬に興味を持ってもらえる場所作りの課題を、担い手を呼び込み、育成する仕組みを作ることで解きたいと考えています。

――移住を検討されている方へメッセージをお願いします。

私と同じように、働く場所は東京にこだわらず、やりがいのある仕事をする機会を求めている同世代は増えている実感があります。将来実現したい仕事のスキルを育てるために、今チャレンジできる場所を探している方も多いのではないでしょうか。そんな方にぜひ、南相馬に来ていただきたいです。

例えば「次は簿記の勉強をしよう」とか、「今度あのオンラインスクールに通おう」と検討するぐらいの気持ちで関わりを持ち始めるのも良いと思います。南相馬で、仕事を通じて自己実現をする仲間がもっと増えてほしいし、やりたいことを挑戦する場所として南相馬を選ぶ人が集まってほしいです。MYSH合同会社では、今の生活を変えることなく、東京からの副業やインターンから南相馬のまちづくりに関わる機会をつくっています。そして南相馬には、そんな私たちを受け止めてくれる人がたくさんいます。

後藤 彩(ごとう あやか) さん

熊本県出身。1996年生まれ。地方の魅力発信・まちづくり事業を行うMYSH合同会社南相馬支社リーダー。大学時代にMYSH合同会社が運営する東京・渋谷の「MYSH Sake Bar」で週1回女将を務め、地方の食の魅力を発信する事業に携わる。大学卒業後は製薬会社の営業職として郡山市に赴任し、浜通り地域を担当。2021年9月に南相馬市へ移住し、MYSH合同会社に転職。移住促進事業の立ち上げに取り組んでいる。

MYSH合同会社

https://mysh.tokyo/

文:五十嵐秋音 写真:佐久間正人