移住者インタビュー

おもちゃのサブスクで地域に貢献 Uターンした富岡町で子どもたちに笑顔を

2023年12月25日
富岡町
  • 移住
  • Uターン
  • 起業・開業する

  • Uターンのきっかけは?
    父から受け継いだ土地を活かし、地元で暮らし働きたいと思ったから
  • 今の事業を始めた理由
    子どもに関わる事業で地元に貢献したいと考えたため
  • 今後の目標
    贈り物の文化を「もの」から「体験」に変えていきたい

子どもにプレゼントをしたいけれど、成長が早くておもちゃや子ども服はすぐ使えなくなってしまう……という経験をもつ人は多いのではないでしょうか。そんな悩みを解決すべく、定額制で毎月新しいおもちゃを貸し出す「おもちゃのサブスク」事業を行う株式会社ニココを富岡町で起業したのが、同町出身の中山駿さん。元々は教師を目指していたという中山さんが、Uターンして現在の事業を始めた経緯、Uターン後の働き方について伺いました。

自身の経験を活かせる事業を地元で

――「おもちゃのサブスク」は現在の子育てニーズに合った事業だと思いますが、なぜやろうと思ったのですか?

地元の高校を卒業後、教師を志し関東の大学に進学しました。大学1年の時に東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故が発生し、警戒区域に指定された地元の富岡町には帰れなくなりました(中山さんの地元・大菅地区は2021年に一部避難指示解除)。その後も地元復興のためにと考え教育を学び、卒業後は福島県内に本社のある塾の講師として働いた後、結婚を機に転職したのですが、多忙すぎて心身を壊してしまいました。

転職、結婚を経て、自身の経験を活かした教育関連の事業を地元で始めたいと思い、立ち上げたのが「おもちゃのサブスク」事業です。子どもの成長や個性に合わせてパーソナライズでき、レンタルなのでおもちゃが自宅に増えることもありません。修理も無償で行っています。

――富岡町をはじめとする現在の福島12市町村では、子どもの数が多いとはいえず、地元で需要を見込むのは難しいのではないでしょうか。

その通りで、大人数の学習塾などはまだ成り立たないのが現状だと思います。ですが、サブスク事業であれば、レンタルのおもちゃの在庫を効率的に回すことで、地元だけでなく、いずれ県内全域、全国にも展開できると考えています。こうした事業を東北で行っている企業はこれまでになく、2023年11月時点で東北唯一の事業です。今年度内に福島県内全域、来年度は東北全域、その次は全国へ進出していく計画です。

現段階ではまず、一般家庭というよりは団体との契約を中心に事業を進めており、富岡町の「富岡町地域交流館 富岡わんぱくパーク」、浪江町の「道の駅なみえ」のキッズスペースにおもちゃを提供しています。

富岡わんぱくパークに貸し出されているおもちゃ

Uターンして感じる地元ならではの心強さ

――Uターンして、地元で起業しようと思ったのはなぜですか?

父が亡くなり、富岡町大菅地区の土地を引き継ぐことになりました。まだ周りにほとんど人が住んでおらず、震災後10年以上そのままになっている農地なども整えなければならないため、その土地に家族で戻るのは難しい状況です。ですが、いずれは地元に戻り、地域に貢献したいと考えていましたので、起業のタイミングで地元に戻ることに決めました。

――実際に戻ってみて、どんなことを感じますか。

やはりまだ圧倒的に、住んでいる人が少なく、買い物や病院など、特に子どもや女性に向けた生活インフラが整っていないと感じます。今のところは家族の仕事の事情で郡山市との二拠点生活をしていますが、富岡町に住んだとしても、子どもの通学に関してはスクールバスでドアツードアですし、遊び場も整っているので、就学児童であればそこまで困ることはないのでは、とも思います。

私自身は地元出身で地の利もありますし、同級生や地元の人とのつながりがあるのは事業を進めるにあたって非常に助けになっています。実際に、起業するにあたって補助金をいただいた起業家支援プロジェクト「HAMADOORIフェニックスプロジェクト」はインターネットで知り、富岡町役場からも紹介されてチャレンジしました。後から知ったことですが、同プロジェクトの役員が高校の先輩だったり、同級生も同じ補助金を受託していたことが判明するなど、地元ならではのつながりを感じることが多く、そういった方々が応援してくれるのは本当に心強いですね。

富岡わんぱくパークでも地元団体(一社)さくらスポーツクラブが、子どもたちにおもちゃの使用方法を説明するなどサポートしてくれている

――地元で起業を応援してくれる人がいることは心強いですね。

一度戻れなくなってしまった地域ですので、そこで起業しよう、地元を盛り上げようとしている人を応援してくれる人はとても多いですね。また、この地域で起業したり働いたりしている人たちはモチベーションの高い人が多く、そういう人たちが近くにいることで、私も大いに刺激を受けています。

地元出身者としては、Iターンした人たちを地元につなげる役割も果たしていけたらと思っていて、一緒に飲みに行ったりご飯を食べたりと積極的にコミュニケーションを取っています。

「体験」をプレゼントする世界へ

――最後に、今後の目標を教えてください。

「おもちゃのサブスク」事業では、地元限定の価格を設定することや、売上の一部を地元の子育て団体に寄付することなどで、地域へ貢献していきたいと考えています。

大きな目標としては、「おもちゃのサブスク」を通してプレゼントの概念を変えられたらと思っているんです。サブスクはレンタルなので、「もの=おもちゃ」は手元に残りませんが、一緒に遊ぶという「体験」を贈る、そんな選択肢を世の中に作れたらいいなと思っています。

プライベートでは、実家を整えて事務所を構え、家族と富岡町で暮らすことですね。周辺に住んでいる人が少なく、広大な農地もあるのでなかなか大変なのですが、生活インフラの復旧という部分でも地元に貢献できればと思います。

■株式会社ニココ
所在地:富岡町小浜471 エアリーヒルズⅠ-102
TEL:0240-22-5611
URL:https://nicoco.co.jp/

中山 駿(なかやま しゅん) さん

1991年、富岡町生まれ。高校卒業後、関東へ進学。卒業後は塾講師として福島県内で勤務。父の死去に伴い地元での起業を決意し、2023年2月に幼児用玩具のレンタルサブスクリプション事業を手掛ける株式会社ニココを創業。起業資金は自身で50社以上を回り出資を募ったほか、福島県浜通りの起業家支援プロジェクト「HAMADOORIフェニックスプロジェクト」の三期生に認定され、補助金を獲得し事業を推進している。

※所属や内容は取材当時のものです。
取材・文:山根 麻衣子 写真:及川 裕喜(撮影協力:富岡町地域交流館「富岡わんぱくパーク」)