【企業紹介】「宇宙旅行で誰もが地球を眺められる」ものづくり

2022年12月26日
  • 事業紹介
株式会社岩谷技研 執行役員CFO 経営企画部 部長
中園利宏 氏
三井住友銀行在職時に石光商事株式会社に出向しIPO経験。株式会社ぐるなび取締役IPO、IR担当、株式会社メディアフラッグ(現 インパクトホールディングス株式会社)取締役CFOなどを経て株式会社岩谷技研入社。技術開発促進と事業化へ向けた組織構築、事業提携、資本提携等を推進。

宇宙旅行は巨額の費用に加え訓練が必要なため、特別な人だけが宇宙空間に行けるのが現状だ。
それに対し、福島県南相馬市に研究開発所のある株式会社岩谷技研は桁違いにコストを抑えられるガス気球と気密キャビンの開発により「誰もが特別な訓練を必要とすることなく、幼児から年配者まで全ての人を宇宙の入り口まで連れていくこと」をミッションにしている。

「気球に乗って宇宙へ」の夢に合流

「気球で宇宙旅行」という世界初の夢を目指す岩谷技研の紹介を知人から受け、中園氏は岩谷代表に会った。
代表がテレビ番組「情熱大陸」や高校生の英語の教科書に登場している有名人だと中園氏は知らなかったものの、「一緒に気球に乗って宇宙にいきましょう」との誘いに「はい」と即答したほど、目指す夢が魅力的に感じられた。
ロケットと違って格段に部品数が少ない気球を成層圏まで飛ばせば誰でも宇宙へ行けるという「理にかなった発想に心打たれ、この事業を収益化したいと思いました」。
銀行員の経歴を持つ中園氏は、上場による資金調達やM&Aで事業を買って大きくする経験を活かそうと同社に参画。現在、資金調達の累計が約11億円になり、大型気球開発は順調に進められている。

福島での人のつながりの強さ

夢へ挑戦する主体は、はじめは「会社」ではなかった。
初期は、代表が故郷の郡山に戻り、カメラを搭載した小型の気球を打ち上げて宇宙撮影をしていた。ある企業からの宇宙撮影受注に際し、要請により設立したのが株式会社岩谷技研のはじまりだ。

福島には縁があり、気球開発の技術に期待されて、福島イノベーション・コースト構想による「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」に2021年度から2年連続で採択された。

福島の南相馬市を宇宙旅行の出発地点にしたいと、中園氏も足繁く通って感じたことは、人々のつながりの強さだ。
実験では降りてくる気球を回収するために地元漁協の協力が欠かせない。
未知な依頼内容にも関わらず、着水を船で追って回収、次回の船のシフトを組んでくれるなど親身に対応してもらえた。
「おかげで、実証が見積もりより半年は早く進んでいますね」。

誰もやっていない、ものづくりの挑戦

世界初に挑むものづくりは、何から何まで手作りとなる。出来合いの部品では事足りず、部品製作に必要な工具すら自分たちで製作することがよくあるからだ。
気球を飛ばす上空25㎞付近の成層圏は宇宙環境と同じなので、マイナス70度の環境での実験や、超低温でのポリエチレン融着が必要になる。

「いろんなことが手作りですよ。実際に手を動かすことに面白さを感じる人に南相馬市の電子機材の開発拠点に集まってほしいですね」。

2023年度には、有人打ち上げを予定。協力的な周囲のあたたかいつながりが、「外から地球を眺めるという、人々の意識や視野が広がる旅(Journey)」を目指した技術開発の花を開かせるだろう。
(文・井上 麻衣)

▲熱気球とは異なり、火を使わず、ヘリウムガスの浮力を利用したガス気球を扱う岩谷技研。プラスチック製の気球にヘリウムガスを充填し、屋外での実証試験を行う様子。
▲総勢50名以上の岩谷技研チーム。インターンやアルバイトとして参加している学生もいる。