緑に囲まれ、自然豊かな葛尾村の「お試し住宅」

福島12市町村の中には、現地の暮らしを体験できる移住希望者向け滞在施設「お試し住宅」があります。滞在期間は数日から数ヶ月までさまざま。
今回は、村の面積の8割強が森林という緑豊かな葛尾村で体験できる「お試し住宅」を紹介します。利用対象は葛尾村外に居住し、葛尾村への移住を検討している方。「田舎暮らしがしてみたい」あるいは「都市部から離れて少し落ち着いたところで暮らしたい」など将来的に移住を考えている方などが、まずは暮らしぶりや生活環境を知る場として利用できます。
コンパクトで生活しやすい村
葛尾村は、東北新幹線が停車する郡山駅から車で1時間ほど離れた小さな農村です。周辺は、県立自然公園などの山々に囲まれていて、村内には、葛尾川・高瀬川渓流が流れています。どこを歩いていても川のせせらぎやウグイスやキジの鳴き声が聞こえ、訪れるだけでも癒される、のどかな地域です。
「村」や「のどか」と耳にすると少し不便そうな環境をイメージするかもしれませんが、村の中心地である落合地区には、役場や交番、学校、商店や食堂、そして、村の特産品販売やイベントを開催する交流施設などが集結。生活に必要なものが手に届きやすい距離にある、コンパクトで生活しやすい住環境です。
東日本大震災では全村避難となりましたが、2016年6月の避難指示解除以降、徐々に帰村者も増え、現在の居住者は、2022年1月1日時点で448名です(住民基本台帳登録人口は1,335名)。その中には、Uターンや若年層の移住者も含まれており、2021年度には、約20名もの方が葛尾村へ移住。多くは20〜30代で、若年層からも人気となりつつある移住先でもあります。
また、村内にある幼稚園、小・中学校では、「出愛・ふれ愛・助け愛・学び愛」という理念のもと、少人数制で教育施策を行なっています。英語教育に幼稚園から力を入れていて、なんとコロナ禍前までは、中学校の修学旅行先はアメリカとのこと。小さい村ながら、グローバルな環境が整っています。
さらに、村独自の就学援助制度(給食費、教材費、スクールバス等無料)もあり、子育て世代にとってうれしい支援が充実。10歳未満のお子さんを連れて移住した家族も多くいるそうです。
家族も快適に過ごせる6LDKのアットホームな「お試し住宅」
そして今回、同村の「お試し住宅」を案内してくださるのは、管理・運営を担っている一般社団法人「葛尾むらづくり公社」の成田朱実さんと山口和希さんです。実はこのお2人、今春に関東から引っ越してきた移住者であり、「お試し住宅」の利用者でもあります。
「私は2泊3日で家族で利用したんですけど、貸別荘などの観光利用もできるんじゃないか、なんてことも考えるくらい快適でした。」
成田さんがそう感想を話す快適な「お試し住宅」は、中心地の落合地区内にあり、外から見ても思わず「立派!」といってしまうほど大きな、6LDKの2階建て一軒家です。間取りは6LDKもあります。さっそく中に入ってみると、ぴかぴかのフローリングで新築に近い印象を受ける反面、まるで実家に帰ってきたかのような、どこか懐かしいアットホームな雰囲気も感じます。
室内は一部リフォームが施されており、日当たり良好なリビングには、真新しいシステムキッチン付き。移住のイメージを膨らませながら料理をする時間も楽しそう。1階と2階には和室と洋室の寝室が4部屋あるので、家族で連泊しても全く不便さを感じない広さです。
滞在できる期間は、3日以上10日以内。利用者の多くは、2泊3日のショートステイか、最大限滞在するため9泊10日を希望する、二極化の傾向にあるそうです。
「1泊2日で使えないですか?という問い合わせもあるのですが、村での生活状況や仕事を知っていただくには少し時間が足りないので、2泊3日からでお願いしているんです。」
2021年9月にスタートしたこの「お試し住宅」は、問い合わせがあっても、コロナ禍の影響で体験まで結びつかないことが多々あったそうですが、これまで計4組が利用しました。利用者は単身者や家族などさまざまです。
山口さんは、「僕はすでに就職が決まっていたので引っ越しの準備で利用したんですけど、ここを拠点として近くの商店や郡山市に足を運んで実際の距離感を確かめたりしました。生活環境を事前に知ることができてよかったです」と体験のメリットを話します。
利用者の多くは、葛尾村での就職が決まっている方とのことですが、中には、リモートワークを想定して利用する方も1組いたそうです。
「内定先の会社がリモートワーク中心だから、2拠点で生活したいという学生さんがいました。大半は葛尾村で過ごして、出社するときだけは東京に行く…などですね。今はまだ、リモートワーク利用の方は学生以外にいないですけど、こういう方が先駆けとなって増えていくんじゃないかなと思います。」
滞在中は、基本的に自由に行動していただいているとのことですが、事前に相談すれば、希望に合わせて村を案内したり、学校を案内したりもしてくれるそうです。問い合わせの中には、「農業をしてみたい」や「空き家をさがしている」といった方もいるとのこと。そういったニーズに合わせて、柔軟に対応してくれます。
また、現在葛尾村役場では、移住希望者に紹介する住宅を増やすために土地の取得を進めていて、徐々に物件も増えていくそう。すぐに移住を考えていなくても長い目で見て、一度「お試し住宅」を体験してみるのもよいかもしれません。
最後に「お試し住宅」の担当者でもあり、先輩移住者でもある2人に、移住を検討している方へのアドバイスや思いを聞いてみると、「葛尾村は、ゼロからイチにするのが好きな方にはとても向いている地域なのかなと思っています。モノが少ないことに不便さを感じるかもしれないですが、それも楽しみの一つに変えてほしいです。」と山口さん。
成田さんは、ビアガーデン計画など現在進められている新しいビジネスアイディアを例に話しながら、「雇用機会もまだ少ない葛尾村ですが、ないからこそ新しいことを一緒に作っていけたらうれしいですし、我々も環境を後押ししていきたい」と話します。
葛尾村で一度生活してみたいと思った方は、ポータルサイト「こんにちはかつらお」からお問い合わせください。電話対応も行なわれていますので、気になることや困ったことがあれば一度連絡してみてください。
葛尾村移住・定住支援センター「こんにちは かつらお」ポータルサイト
https://konnichiwa-katsurao.jp/
取材・文:草野 菜央 撮影:中村 幸稚